【書評】 小説 仮想人生
寂しさは刺すように一瞬なのに、
信じられないくらい体の奥まで到達してしまう。
始まりの一行で、すでに心を掴まれる。
はあちゅう初の小説“仮想人生”。
東京を舞台に、5人のツイッターアカウントが少しずつ交わりながら、紡がれていくストーリー。
控えめで美しく、だがしかし主体性のない専業主婦のユカ(33歳)
何かに追われるようにナンパを繰り返す、アパレル店員の鉄平(23歳)
童貞にコンプレックスを抱く冴えないルックスの大学生、工藤直人(20歳)
全てを達観し、全てを知っているつもりでいる大学生、裕二(21歳)
ツイッターで捕獲した童貞を食い物にしながら暮らすバリキャリの愛(42歳)
彼らはみな、自分の中の取れなくなったバランスをツイッターの裏アカで補い、それでもまだ補え切れないほどの寂しさを抱えている人達だ。
【ユカ/人妻の美香】
物語の始まりは専業主婦のユカから。
“自分の寂しさくらい自分で決着をつけたい。”
そう望む程には自分の足で立つことを意識する彼女だが、毎晩帰りの遅い夫を一人待つ日々を送るにつれ心が塞ぎ始めているのは確かだ。
そんな現状を変えるべくツイッターの裏アカウントを作り、魔の22時をやり過ごそうとする。
テーブルの上には、昨日買ってきたばかりのガーベラの束がみずみずしく咲いている。あの花は四千円した。たった数日、二人しかいない家の中を彩るために払ったお金。誰もが出来ることではない。
こんな描写が描かれる、何不自由のない暮らし。
満足している。不満を持つだなんておこがましい。
一生懸命自分に言い聞かせるも、心が追いつかない。
結婚して二年も経つのに、私は恭平の心の奥まで踏み込めたことがないのだ。ぶつかって、関係性が壊れてしまうのが怖い。恭平だけでなくて、みんなに対してそうなのだ。私は、相手から打ち明けてくれない限り、誰かの心に踏み込めない。
そう、そもそも彼女には置かれた立場以前に主体性がないのだ。
能動的に生きることなく、ただ流されるがままに人生を過ごしてきた。
そのツケが回ってきたように、ある日突然夫が姿を消してしまう。
果たして彼女は、夫を、そして自分自身を見つけることができるのだろうか、、、
【鉄平/圭太】
目を褒める子はたいがい俺にもう惚れている。そりゃそうだよね。好きにならなくちゃ目なんてじっくり見ないもん。
こんな事を言ってのけられるのは、はっきり言って若さだと思う。
ナルシストと言うほどではないが、自分自身への根拠ない自信。
読んでいて逆に清々しい。
そんな鉄平はツイッターやティンダーで女の子を見付け、一夜限りの生活を楽しむところ以外は至って普通の男の子。
・・・いや?楽しむ?
“女の子たちはいつだって、男に会いたがっている。”
そう信じている彼は、女の子と連絡を取りまくっているのだが、聞かれる質問はだいたい一緒で、そのうち定型文で返信し始める事を“効率がいい代わりに思い入れも薄い。”と思い始める。
そう語る彼の姿は、とても楽しそうには見えない。
忙しいのはいい。忙しいということは難しいことを何も考えなくていいということだ。
果たして彼は、この生活の先に何を見出すのだろうか、、、
【工藤直人/ナオ】
「つらい」ってことを友だちに言えないから、こんなふうに匿名のツイッターでつぶやいてるんじゃないか。
不特定多数のツイートを眺めながら、そんな本質的なことを考えるナオトはだがしかし、童貞を拗らせている。
そんな彼の童貞仲間もとい、“元童貞”の八代が童貞を卒業したことを早速ナオトへ報告に来るシーンが、なんていうか、かわいい。
まっすぐで、鈍感で、素直。
人よりも少し多めに考えてしまい、神経を痛めやすい登場人物が多い中、八代の明るさは強さであり、救いだ。
この後環境が大きく変わるナオトを通して、八代の様なタイプの人へのありがたさを、私自身も今一度考えるいい機会になった。
ナオトが立ち向かう事、これをはあちゅうが描くという事にとても深みを感じる。
“1億総発信時代”を生きる私たちにとって、心して読むページであり、同時に“自分の中の大切なものは他人に委ねてはいけない”という、エールの込められたシーン。
胸に迫るものがありました。
【裕二/暇な医大生】
東京はみんなが仮面をかぶって生きているみたいな街だと思う。だから俺は心地よく過ごせるんだろう。
すみません。前言撤回。
いや、撤回ではないんだけど、前向きで鈍感な八代をありがたいと書いてすぐだが、心を掴まれるのは圧倒的に裕二だ。
視点が詩的で、情緒的で、聡明で、圧倒的に気遣いができ、
そしてなによりイケメン。
もちろんのように彼はモテる。
顔を出していない状態でもフォロワーは8万人
どこをとってもスマートで、でもそんな彼でも屈折した何かを抱えている。
その欲求を満たすべく、ツイッターのフォロワー数を増やしていく裕二。
フォロワー数八万人。戦闘力のような数値を俺は誇らしく感じている。
ちなみにこの増やし方が本書の中で記されているのだが、なんていうかその増やし方も、その後に起こる展開もものすごくリアルだな、と思った。
そう、この小説は突飛な設定のキャラクターが多いが、まるでそのようには感じない圧倒的なリアルさがあり、それはつまり感情とは普遍的なものだからだろう。
私たちの中にある圧倒的な虚無感、承認欲求、寂しさ、もどかしさ、それらの全てが完璧に言語化されていて!!!
読み進めながら何度も“はあちゅうすげえ”という、語彙力崩壊の極みなリアクションしか取れなかった自分を、うっすら呪ったのはここだけの話。
【愛/ねね@童貞ハントFカップ】
ただ、私にしてみれば私以外のみんながなぜ平気な顔して生きているのかが不思議なのだ。こんなふうに、世知辛い世の中でなぜひょうひょうと生きていられるんだろう。平穏な暮らしなんて、この世に本当にあるのかな。
私がこの登場人物たちの中で、一番共感する思いが多かったのは彼女だ。
誰よりも幸せに対して恐怖心を抱き、でも同時に、心の奥底では誰よりも幸せになりたいと強く願う彼女。
幸せになりすぎるときっとそれだけ大きな不幸がやってくるに違いない。だから私は大きく不幸にならないために、自分で自分の幸せを毎日ちょっとずつ傷つけるのだ。
臆病な彼女は傷つくことを恐れるが故に、自分で自分を傷つけてしまう。
程度の差はあれど、この言葉に深く共感してしまう人は少なくないと思う。
望むからこそ、拒むのだ。
掴みたいからこそ、離すのだ。
なんていうか、読んでいて本当に辛かった。
この本を読む数日前に夫婦喧嘩をし、その時いかに自分が怯えから夫を突き放していたのかを感じていたので、今の私が彼女とシンクロしてしまうのに無理はない。
ラストに向けての流れまで似ていた。笑
それがハッピーエンドなのかバットエンドなのかはぜひ、本書を手に取り確認していただきたい。
さぁ!
果たしてあなたは誰が一番刺さるか!
どのシーン、どのセリフが刺さるか!
コメントいただけたら嬉しいです。
執筆 かすみん
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