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2021年 中高生部門 優秀賞

◎優秀賞 大槻 奈々さん 中2

『たのしいムーミン一家』 トーベ・ヤンソン作 山室静訳 講談社

【作品】
 たのしいムーミン一家を読んで

 ムーミンは動物ではありません。スナフキンは人ではありません。どちらも妖精です。私は、ムーミンたちを、かわいいアニメキャラクターの中の一つと思っていました。ムーミンたちの物語が、こんなにも不思議で、そしてなぜか壮大で、だけどほっとする世界でくり広げられていることを知りませんでした。私はこの物語を、遠い昔話しを読んでいるような気持ちになったり、でも今の今ひょっとしたら、スウェーデンの街の小さな原っぱの中や森の中、海辺を人の目には見えないけど、ムーミンたちが、トコトコ走り回っているのじゃないかと思ったりしながら読みました。

 ムーミンたちの毎日は、キラキラした自然にかこまれた中で、のんびりしたり、冒険したり、しながらすぎていきます。ムーミンたちは妖精ですが、特別な力がある訳ではありません。だから、自然にさからうことなく、ドキドキしたり、苦労したりしています。そして、その状況を良いとも悪いとも判断したりはしません。仕方ないねと誰もが、思っているので、結局なぜかホッとできるのです。それは地球に生きる物にとって一番大切なことなのではないかと思います。ムーミンたちは冬眠をします。冬の厳しい寒さに対抗せず、あたたかいベッドを準備して、また春になったら会いましょうとあいさつをしながら、みんなで眠ります。眠るのを嫌がったり、ムダだと、心から思ったりはしていないのです。春になっても、むりやりおきたりしません。目が覚めて活動しはじめるのは、それぞれずれていてもいいのです。私は本当に、一度ムーミンハウスで冬眠してみたいと思ってしまう程、ひきつけられました。時間を気にせずに、自分が眠りたいぶんだけ眠って、春の気配で目が覚めたら、また、家族と友達と、どこかにでかけたりするのです。春の自然の変化はすばらしく、美しいけれども、ムーミン達は過剰に、喜びすぎる事はなく、春を心地良いと感じながらも、冬を否定することはありません。ただあたり前のこととして冬眠し目覚め、よく眠れたかい?とあいさつをかわす、想像するだけで心穏やかで気持ちが良さそうです。

 ムーミン達は、家族も友達も、みんなそれぞれ、お気に入りを持っています。スナフキンは服はやぶれていても気にしません。大事な持ち物はハーモニカだけです。ムーミンママはかばんがないと、とても不安になります。なくなった時はみんなで探しました。ヘムレンさんのかっこうは、いつもスカートです。男でも女でも関係はなく、おばさんから相続した、スカートをはいているのです。だれも何も言いません。まただれかに何か言われるとも思っていません。大事と思うものや、大切だと思う事がそれぞれ違っても、みんな大丈夫なのです。体の形も、暮らしも違っていても、認め合っています。そして自分達のこだわりを人におしつけたりもしません。なんとなく、まぁいいやという感覚でのんびりかまえているのです。自分の思いどおりになることや、自分の考えが全く同じになる人など、そんなことは絶対にありえません。それなのにちがうからといって相手を攻撃したり、されたりすることは、とても悲しく、おそろしい事だと思います。お気にいりはあっても、他のみんなに迷惑をかけたり、その人自身にとってよほど悪い結果とならないかぎりは、それぞれの人が大切にしたいことを、すてきだねといって、暮らすムーミン達の心の豊かさが、この物語の基礎となっていることに気づきました。

 ムーミン達が、魔法のぼうしを見つけて、不思議なことが起こった物語は、読みすすめていくうちに、自分の予想とは違う意外な展開に驚いてしまいました。この物語で唯一、特別な力を持つ飛行おにの存在です。飛行おには、ずっと自分が探し続けていたルビーの王さまを手に入れようと、ムーミンたちに近づいていきます。魔法を使える飛行おに、ムーミン達がおそろしい目にあわされるのではないかと私は心配でした。しかし、それは全く見当違いでした。飛行おには魔法を使ってむりやりルビーをうばいませんでした。それどころかみんなの願いをかなえることに自分の魔法の力を使うというのです。飛行おにの魔法は自分自身の願いをかなえるためには使えません。それを知ったトフスランとビフスランのすばらしい思いつきは、私をとてもすがすがしい気分にさせてくれました。ルビーの王さまをもう一つ、飛行おににお願いしたのです。そうすれば、ルビーは二つになり欲しい両者が、わけあうことができます。互いの言い分もじっくり話し合い、立場を思いやれば、争うことなく、実は簡単に解決し、お互い幸せになれるかもしれないのです。ムーミン達の物語は、私に様々なことを温かく教えてくれました。この温かさこそムーミンが愛されている理由だろうと思います。


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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)

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