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自分に似合うワンピースは、案外見つからない。

そりゃあ「個性的だね」ってクラスのみんなからは言われていたし、ママからは「普通の服よりあなたは個性的なのが似合う」と言われていたからきっとそうだと思ってたよ。私は個性的だし、個性的なのが一番似合うって。


だけど違うって気づいたのはGW前の日曜日。自分で部活選んだのに今じゃそのこと考えると頭いたくなるし、愚痴しか出てこなくなったあの部活もやっと休みになって久しぶりの休日を堪能。その日は少し不安だったけど、何が何でも1人で原宿まで行くことにしたの。

原宿は一度だけ行ったことがあって。去年にママと電車で行ったのが最後で、初めての原宿は乗り換えを間違え、道に迷い、ほんと散々だった。それでも十分楽しかったよ。だって東京に近いようで近くない中学校で出かけ先のことを永遠と話してたくらいだもん。

あの日はクローゼットの中から一番派手な宇宙柄のワンピースを着ていったんだと思った。首元が大きく開いたワンピースにお気に入りのチョーカーをつけて。そうそうちょっとあれきついよね。「オシャレには時に我慢が必要よ」って東京に住むママのお姉ちゃんが言っていたからそこは我慢我慢。それと、となり町の古着店で買った1,500円のスタジャンを合わせて、白のニーハイソックスと厚底のサンダルを履いて行った。このサンダル可愛いんだけど、安いからは足首のマジックテープの寿命を考えると長く履けて来年の夏終わりってとこ。それまでにいっぱい履いて色んな所に行こうと思ってるけど…その前に部活が休みになんなくちゃ。

メイク道具は最近揃えたの。

といってもママにファンデはまだいらないって言われちゃって、リップとチーク両方に使える練りチークのピンク色のやつと安い赤の口紅しかないんだけどさ。

モデルのもえちゃんがつけてたオレンジのチーク、かわいかったな〜。そういえば雑誌立ち読みしてたらもえちゃん彼氏出来たらしいよね!見た?相手のバンド、あんまり知らなかったけど聴いてみたらちょっとハマっちゃうかも!


あ、元の話なんだっけ。そうだ、メイクの話。それでピンクの練りチークを流行りの目の下広範囲に入れてみたの。ママからは「おてもやんみたい」って言われたけどそんなの気にしない。これが今の流行りだし、雑誌にもたくさん載ってるもん。それを知らないだけなんだよきっと。古いよね。でもママに言われたのがやっぱりちょっと気になっちゃって、結局ティッシュでぼかしたんだけど、ただ熱を出してる子どもみたいに思えてめっちゃ萎えた。知ってるってば、そんなこと!どうせチビだから厚底履いてるんだし、童顔だからこんなことになるんだし。

んでね、その日はあいにく夏みたいにむっとしてて暑かった〜。スタジャンを着てきたの、一瞬後悔したけどせっかく着てきたし、腰に巻けばそれはそれでオシャレかな〜と思ってまあ結果オーライって感じ。

駅まで歩いて乗り換えを済ましてやっと原宿駅についたのは昼すぎ、だったかな?連休前なのにいつも通りの混み具合で、めっちゃ人いて少し酔っちゃったくらい。


それでなんで急に1人で原宿まで来たかって、こないだ気になるって言ったサッカー部の子とその友達で水族館に行くことになってさ…。サッカー部のマネージャーのまいちゃんも一緒だけど。そう!世に言うダブルデートってやつ!でさでさ!何着ようってなるでしょ!?あの日着ていったワンピースはちょっと形的に太って見えるからもっと可愛い、私に合う服で個性的なワンピースを買おうと思ったの。さすがに何も調べないで行くのは抵抗あったから家で調べてから行ったんだけど、そのお店の洋服が全部かわいくて!お金持ちだったらなって何回考えたことか…。でも一着くらいなら残ったお年玉で買えそうだったから行ってみたわけ。

そのお店が入ってたのが原宿駅の近くにある大型施設でまあまあ混んでたからそれだけでも疲れちゃったー。幸いお店のある階は変わった雰囲気のものが多いところであまり人いなかったから良いんだけどね。で、さっそく見つけて入ったら猫の柄で襟が変わった形のワンピース見つけちゃってもう一目惚れだよね!ちらっと値段見たら予算よりちょっと高かったけどまあ買える値段でラッキー!すぐ店員さんに言って試着させてもらったんだけどサイズピッタリ。…だけどなんかマネキンが着てた感じと違くて。幼稚に見えるというか…私のいいところでもあり、悪いところでもある部分が変に強調されてて私のなりたかったイメージとは少しずれてて。でも値段的にも個性的な感じもそうそう巡り合うものじゃないだろうなと思ったからめちゃくちゃ悩んだよ。店員さんも「どうですか〜?」って聞いてくるし。ううん、結局買わなかった。店員さんにはサイズが合わなかったって言っといたけど、本当はぴったりすぎるほどだったんだけどね。

それでせっかく来たけどなんだか疎外感かんじてとぼとぼ歩きまわってたら、さっきのお店のちょうど真後ろに素朴な感じで誰にでも似合いそうな形だけどレースや刺繍にこだわってるお店を見つけたの。見るだけだと思って入ったら相当私が念入りに見てたんだろうね、店員さんが「何かお探しですか?よろしければ手伝わせてください。」って言われた。本当だったら見てるだけなんでって言うところだったし男の店員さんだったけど、とっても感じの良い店員さんでつい全部話しちゃった。そうしたらスッとして、本当に探してたものが見つかりそうだなって思ったの!直感ってやつ?

それで聞いた店員さんが「でしたら、こちらはどうですか?」って差し出してくれたのが表は真っ白でシンプルな形の膝丈ワンピースなんだけど後ろは腰から裾までが三角に切り返しがついてて、そこだけがブルーのビーズでデザインされてるやつだったの。すごく可愛くて清楚な感じもするし、明るい感じもする不思議な印象でさ。でもいつもこういう服は着ないし、自分に似合うのは個性的なのだと思ってたからシンプルなのが似合うか不安で躊躇してたら、店員さんが「試しに着てみませんか?」ってまた声かけてくれたの。試しに一応着てみたら、いつもの私っぽくなかったんだけど変っていうことじゃなくて新鮮って言葉が似合う感じ!今までとは違うのにまるっきり違うんじゃなくて、ビーズをあしらった部分が印象的だからシンプル過ぎないの。初めて服を着てドキドキするっていう感覚になった。

店員さんにも見てもらったら、元々そのお店は店員さん1人で洋服作ってるらしくて、一着一着手作業で作っててそれぞれテーマがあるんだって。そのワンピースは「初恋の人」ってテーマで作ったらしいんだけどなかなか売れなかったって言ってた。それはなぜかというとシンプルだけど人を選ぶようなデザインだから、ぴったりとハマる人じゃないと買おうと思えないんだってさ。人によっては、「なんだこのワンピース。布切れにビーズを使っただけみたい。」って言われたって。だけど「お客様にはとてもお似合いでやっとそのワンピースを売ることが出来ます。お客様は顔立ちが若く、フリルの強調された服だと幼く見えてしまうのではないですか?このワンピースはぱっと目に入る表がシンプルな作りになっていて首元があまり強調されていません。ですから変ないやらしさがなく爽やかで清潔な印象です。しかし裏側は対照的に一部ビーズを使ってビジューが目立つ作りになっています。後ろから見ると少し色っぽく、健康的な肌の色とよく合うようになっています。お出かけ先が水族館とあれば、照明も暗く、よりいっそう華やかにしてくれるでしょう。それに個性的な服が好きだとおっしゃっていましたが、『個性的な服を着ることが個性』ではないんですよ。自分の独特な個性を引き出してくれて、さらに個性を魅力的にさせてくれる服を着てる方が『個性的』なのだと私は思っています。」って言ってもらえてすごく、嬉しかったしなんかスッキリしたんだよね。私色々と履き違えてたんだなーって気付かされたというか、変に固定概念を作り上げてたんだって思ってハッとした。本当に自分に似合うものを着ることが一番大切なんだって改めて考えさせられたよ。本当に普通のワンピースなんだよ、ちょっと後ろが変わってるだけで。それでもごちゃごちゃした柄よりもこっちのほうが似合うってことは明確だったから尚更衝撃だったな。まあ財布は少しさみしくなったけど、雑誌を一冊我慢すれば何とかなるし、いい買い物したって思ってる。

…ん?それでデートはって?しょうがないな、メロンソーダ奢ってくれたら話す。