大阪府が新型コロナの自粛要請を段階解除した翌日、私は40日ぶりに友人に会う約束をした。指定した場所は互いの自宅から10キロ先の大阪市東成区の銭湯「生駒温泉」。自粛期間中に豚と化した体に鞭を打つべく、銭湯グッズを担ぎながら湯船を目指す〝銭湯ランニング〟に挑戦した。大阪の繁華街を走り抜いた記録と、その先に待ち受ける結末をここに記したい。
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趣味は「銭湯巡り」

　5年前、地元の東京を離れ、大阪に本社を置く会社に就職した。入社早々、パワハラ系の上司に激詰めされ、涙を流したその日の夜、会社の同僚に連れられて行った初めての銭湯。その湯船の暖かさに私の心は奪われた。
　「家の小さな風呂だと惨めに感じるけど、銭湯に入れば理不尽な上司も、仕事の失敗も、どうでもよくなるわー、わっはっは🤣」
　あれから早5年。都内にあるお洒落なキャンパスに通っていたキャピキャピの女子大生時代からは一変、、私は仕事後に銭湯を巡り、風呂上がりに半裸で牛乳を一気飲みすることに快感を覚える女へと変貌を遂げていった。
神戸市で開催された銭湯巡りスタンプラリーでは、市内の銭湯39箇所を回りきり、久元喜造市長のサイン入り賞状を授与された（あんまいらない、、）
　しかし、コロナの影響で発令された外出自粛要請。銭湯は休業要請にならなかったものの、当分の間、自宅で一人酒を飲みながら、動物の森をする日々が続いた。
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自粛解除で銭湯ランニング🏃‍♀️♨️

　5月16日午前0時。約40日間の自粛期間を経て、大阪府で段階解除が始まった。完全に元の生活に戻ったわけではないが、未来に差し込んだ明るい兆し…。そして体重計に刻まれた数字への絶望…。私は翌日、友人に声をかけ、銭湯ランニングを共に決行することを誓った。
　集合時間は営業開始の午後2時半。シャンプーにリンス、石鹸にタオル、、あっ着替えも必要だな！と、リュックに大量の荷物を詰め込んでいく。
　そして5年ぶりに引き出しに封印していた学生時代の部活着の袖に腕を通す。なんか日差しも強そうだな、、。昔タイで購入した象柄の帽子も着用。

　私は勢いよく扉を開け、日差しの中へ飛び出した。
　…数分後、すぐに息が上がった。初夏の気温に日差しも強い。そして詰め込みすぎたリュックが重すぎる。
　心斎橋に差し掛かり、お洒落な女子達の合間をすり抜けていく。なぜこんなにも弁当箱のような小さなバッグで出かけられるのだろうか。疑問を抱きながらも無心に走り続けた。…ふと、ビルのガラスに映った自分の姿。あまりのダサさに驚愕した。
　（回想）部活の朝練後、フェイントの練習をしながら大学のキャンパスへ向かっていた。そんな無邪気（アホ）な頃の自分も今は昔。当時は恥ずかしさを微塵も感じていなかったのに、今都会の真ん中を汗だくで走る自分の姿がとてつもなく恥ずかしく感じる。
　これが大人になるということなのか。
　引き返そうかな…。諦めそうになった瞬間、友人の言葉が脳裏を駆け巡った。
　「一緒にtwice（トゥワイス）になろう！」
　twiceはきっと自粛期間中に、酒に浸り、動物の森をしながらゴロゴロしたりしない。だが、この挑戦はtwiceへの一歩になる。
　力が少しずつみなぎってきた。同じようにリュックを背負ってランニングするおじさんに「ファイト！」と声をかけられながら、私は湯船を目指した。
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銭湯ラン完走、、その先にみた光景

　約1時間半後、目的地に到着した。しかし、周辺を見渡しても銭湯が見つからない。
　あれ…地図上ではここなんだけどな。
　その瞬間、目に飛び込んできた光景。

　「日曜定休」
笑った。あまりに初歩的なミスすぎて笑った。人間は本当に悲しい時、涙じゃなくて笑うんだな。
　「おーーい」。遠くに手を振りながら満面の笑みでこちらに走ってくる友人の姿が見えた。
　希望に満ちた表情。その先に厳しい現実を突きつけられるとは知らずに。

（余話）私たちはその後、東成区を彷徨い、近くの銭湯を見つけ汗を流しました。通常の銭湯ランニングは、銭湯のロッカーに荷物を預けてから、周辺をランニングします。完走後に大きなお風呂で汗を流せるので、銭湯ファンからも密かに人気を集めています。ぜひ、みなさんもコロナ自粛中に挑戦してみては？そして、営業時間は必ずチェックしましょう😊
　はぁ、twiceへの道のりはまだまだ遠い…。