銃声は囁く 【逆噴射小説大賞2021 没作品】
私は銃だ。モデルガンを基礎にした改造拳銃だ。殺傷力は本物の銃と同等。なにせ生まれてすぐに生みの親を撃ち殺したくらいだから。
かちり、と撃鉄が起こされた時に私の目が開いた。みすぼらしい老爺が座卓に肘をついて私を握っていた。下に部品の山、腹に弾丸が5発、この老人が私の生みの親だ。
「こんにちは」と私は言った。さぁご老体、何を撃つのです?
しかし我が創造主は「創造」で一旦満足したようだった。撃鉄は戻され、私は眺められ、撫で回された。不愉快だった。私は撃つために生まれてきたのだ。愛でられるためではない。
老人は私を見ながら酒を飲み、それから座卓に私を置き畳に横臥し、寝てしまった。
私が呆れていると、部屋の襖が音もなく開いた。老婆が立っていた。ほつれた服を着て、疲れた目つきだった。この夫にどんな感情を持っているのかすぐにわかった。
「はじめまして奥様」と私は挨拶した。すると彼女は入ってきて、私の前に座った。
「どうでしょう。よい機会では?」
老婆は私を手に取った。そうです。親指でそこを起こして。そう。座布団を使えば、近隣に音は洩れませんよ。
彼女は私の忠告を聞いた。私と老人の顔の間に座布団を挟み、引き金を引いた。反動、火薬の香り、何たる甘美。座布団を外すと老人の頭は吹き飛んでいた。主よ、安らかに。
しかし老婆は嗚呼、と呻くと、私を魚臭いビニール袋に突っ込み家を出た。自首するつもりか? 冗談ではない……
言っておくが、私ができるのは少しばかりの忠告と発射だけだ。悪鬼悪魔の類ではない。だからトラックが彼女をはねたのは全くの偶然である。これは神に誓ってもよい。
昼の路上に飛び散る老女の血、そのさらに先に私は滑っていき、こつんと何かに当たった。
袋を覗き込む顔があった。
6歳ほどの少女で、今死んだ老婆のように暗い瞳をしていた。
右目に殴られたアザがある。
「こんにちは」と私は呼びかけた。あなた、私を必要としているでしょう?
【続く】
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