犬人

けんと、と読みます。20代は映画製作を志し、いまはみた映画を感想・批評によって表現する…

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けんと、と読みます。20代は映画製作を志し、いまはみた映画を感想・批評によって表現することに楽しみを覚えています。

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ケイコ 目を澄ませて

2022年12月16日公開。岸井ゆきの、三浦友和出演。三宅唱監督作品。99分。 恵子はホテルの清掃の仕事をしながら、ボクシングジムに通っている。プロテストも通過した。彼女は聾だ。それでも職場やジムではハンドサインや相手の口の動きをじっと観察して、ちゃんとコミュニケーションをする。ときどきマスクの下の表情がわからずに戸惑うこともある。 ジムの会長は経営と健康面の両方で翳りを感じている。先行きの不安さと、それでもじわじわと過ぎていく一日の積み重ねは人間を鈍らせもするし、研ぎ澄

    • ロード・オブ・ザ・リング3部作

      外出のしづらいゴールデンウィークも2年目になり、連休は雨模様が続いた。 上映は20年前であるが原作はその約50年前に発刊された、北欧の神話をベースにした長編小説であり、多くのファンタジー作品の古典とされた名作「指輪物語」を紹介する。 世界を統べるひとつ指輪を巡り、人間をはじめエルフ、魔法使い、ドワーフ、オーク、怪物の類が入り乱れる世界で起こる、人間が文明を築く現代のはるか以前の物語である。そのベースとなるのは人間社会というより、超自然的で複雑な共同体が辿る運命とそこに立ち

      • ひまわり(1970)17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン(2020)

        今回は2作品のレビューになります。 一作目が「ひまわり(1970)」。第二次世界対戦下のイタリアが舞台の恋愛映画。 二作目が「17歳のウィーン<フロイト教授人生のレッスン>(2020)」。こちらも第二次世界対戦下のオーストラリアを舞台に、少年とおじさんの心の通じあいを基軸にした、青春映画である。 「ひまわり」は大戦によって引き裂かれたカップルが、お互いを想い再会を果たすものの、心情の微妙な変化によってすれ違い、結ばれないさまを描く。 大戦に夫を送り出すシーン、出征先の

        • 純粋さ、こだわるところは?

          真っ白なキャンバスに墨で描く。 描かれたキャンバスから元の白地を見つける。 どちらに創造する純粋さがある? 真っ白なキャンバスに墨で鮮やかに描く行為には、実はひとつとして同じものはない。その程度は無限である。例えば1つの線、それは純粋なるものである。 多色で彩られたキャンバスに部分的に見える元の白。新たに塗り重なれる前の姿を顕そうという行為。キャンバスは塗られる為にあるからこそ、そこに純粋さがある。 だからなんだ、という話なのだが。。 もし創作の場面において純粋さ

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        ケイコ 目を澄ませて

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          家族を想うとき

          2019年。100分。イギリス/フランス/ベルギー合作 巨匠ケン・ローチ監督の最新作。 彼の作品には、いつも「構造」への怒りが溢れている。社会の忙しなさの奥にひっそりと息をしているような生にスポットを当てる。しかし、それ自体を光として捉えるような描き方はしないことが多い。むしろ、中心に佇む灯台から離れた場所でそっと輝くサーチライトのような、人生の部分的な閃きを写実的に映し出そうとする。 近代の映像作家という肩書きが最も良く似合う。そこには、いつも思考を搾取される市井の人

          家族を想うとき

          学生支援緊急給付金③

          ②から続きます。 I've had one motto which I've always lived by: "Dignity. Always dignity". (人生の規範にしている座右の銘があるんだ。「どんな時でも尊厳を持って」というものさ。) ー雨に唄えば(1952)よりー 大学や昔の映画が推してくるDignityとは何でしょうか。 直訳すると尊厳になりますが、日本では仏教的な響きを持つ「徳」、そして哲学者カントの云う理性的な人格などが近い意味を持つ気がします。

          学生支援緊急給付金③

          学生支援緊急給付金②

          ①から続きます。 僕がアメリカの大学で受けたのはProbationでした。Probationには警告の意味があります。厳密には、奨学金による保証が絶たれる前の最終通告。アメリカの大学は容赦が無く、留学生でも例外なくdismissal(退学)させる。奨学金による進学以外には選択肢が無い自分には二度目のProbationからSuspension(停学)というかたちがとられた。 一度帰国し、必死で復学の道を探ると、地域のワンランク下の大学で及第点を取れば本学に戻れることがわかっ

          学生支援緊急給付金②

          学生支援緊急給付金①

          コロナで自宅にいることが多くなり、もうすぐ2か月が経ちます。仕事が日常からはなれ、ストレス、罪悪感を感じる人。仕事によるストレスから解消され、日常の幸福感を感じる人。 僕自身は、このコロナ禍まで商業施設でのパート店員として働いていましたが、4月になりほぼ休業状態へ。ところが4月半ばに会社から休業の説明を受け、正社員として登用してもらうことで会社に残ることが出来ました。現在は本業をお休みし、会社紹介で派遣のようなかたちで土木工事の作業員として働いています。 コロナショックは

          学生支援緊急給付金①

          ビリーブ 未来への大逆転

          ※2020/5/7.13:30改訂 2019年。120分。アメリカ製作。 のちにアメリカ合衆国最高裁判事となったルース・ベイダー・ギンズバーグが弁護士時代に史上初の男女平等裁判に挑んだ実話をもとに描いたドラマ。 貧しいユダヤ人家庭に生まれたルース・ギンズバーグは、「すべてに疑問を持て」という亡き母の言葉を胸に努力を重ね、名門ハーバード法科大学院に入学する。家事も育児も分担する夫のマーティの協力のもと首席で卒業するが、女だからというだけで雇ってくれる法律事務所はなかった。

          ビリーブ 未来への大逆転

          グレートデイズ!夢に挑んだ父と子

          2014年。90分。フランス製作。 映画を見ている時間が勿体無いと思う傾向は歳をとる毎に強くなっている気がする。映画を見るときに思考の螺旋から解き放たれたいという意思がはたらくのはごく自然なことなので、娯楽として期待した映画から残念な気持ちになることは誰にでもある経験だと思うからだ。しかし、ふと心を落ち着かせて人の心と向き合う時間をとることは大切だ。 映画グレートデイズは父と子、そして家族の話。生まれつき障害を抱えて車椅子での生活をする息子はもうすぐ18歳の誕生日を迎える

          グレートデイズ!夢に挑んだ父と子

          パラサイト 半地下の家族

          2020年。130分。韓国製作。 社会に取り残されないように、これまでとは変わらないといけないという焦りは誰にでもある。しかし、今していることが一体誰が望んだことなのか、わからないまま変わろうとしていないだろうか。それは自分のため?誰かのため?それとも社会のため?焦りが不安へと変わる。そんな気持ちがこの世界の仕事にあふれている気がする。 映画パラサイト~半地下の家族~に登場する貧乏キム一家は、家族ひとりひとりが別人に成り済まし、身分を偽装することによって、高台の高級住宅で

          パラサイト 半地下の家族

          ニュー・シネマ・パラダイス

          1989年。124分。イタリア・フランス作。 シンプルに、愛するということについて描いた映画だ。 恋焦がれる相手に対する愛の表現と幸せの主導権を保つ葛藤は、ときにお互いを攻撃し合ってしまう。愛の表現は瞬間的に切り取られた人間性を写し出す。すなわち、(すごく)鮮明に現在の自分をさらけだすこと。幸せだとそこで思っている間はいいが、やがて幸せの感性は欲求の際限無いことをいいことに、そこにあったはずの人間性をぐらぐらと揺らし、愛の存続を相手そのものに求めようとする。 幸せの主導

          ニュー・シネマ・パラダイス

          ゆとりとして

          90年代バブルの崩壊と共に僕らは生まれた。リセット世代、個性的な子どもたちを育てる教育改革、生徒の自主性を重んじるカリキュラム、そんなことばと一緒に在りながら、ゆとり世代という時系列で語られる我々がいま、大きな社会の変化にあってどんな意味を持っているのか。 少し思い出話を。これは中学校のときの話だ。僕らは体育の時間にもかかわらず教室のなかで、先生の話を聞いていた。その先生は黒板に「共育」と書き、そのことばの意味を授業一回分を使って生徒の僕らに教えてくれていた。これからは教育

          ゆとりとして

          スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け

          スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け 映画から経済を読みとく。もはや息を吸うことに近いほどに身体に染み付いているわたし。どことなく登場人物を現実世界に投影させて見ることは、映画の醍醐味だろう。映画とは何か、を模索し思考しながらいつも鑑賞している。 そもそもこの映画では善と悪を共有するのではなく、気持ちを共有することに主題があるような。ひとつひとつストーリーから読み取れる作品の時系列から見る時代の変化を探ってみたい。そこからわかる、日常で当たり前に起きている出来ないと思

          スターウォーズ スカイウォーカーの夜明け

          ジョーカー(2019)

          劇場を出て、たぶん世界にはジョーカーを感情移入させて歩く人がたくさん。人間はポリス的動物だから、自分たちは(ピエロを)演じていないか反省して、多くは日常に戻る。しかし、「群衆は何も考えない。何をするかわからない。」 だから少しだけ理解して、この世界とは関係のない話として、向き合うことにしよう。そんな風に処理しようとして、ふと気づいてしまった。自分の中に出来上がった大人としての都合のいい感受性の姿に。どこまでならセーフでどうあるべきか、経験から導きだした、自分で造ったあるべき

          ジョーカー(2019)

          ライオン・キング(2019)

          2019年公開。アメリカ製作。119分。 最大の印象は、原作より強く生命のつながりが表現したいという監督の意志の顕れ。というのは、超実写として表現された表情のない動物の映像が、虚構としてではなく生命の物語を繋ぎ、ミュージカル的な過剰演出に頼りすぎない動物たちの穏やかな営みとして脳裏に焼き付いているから。 ライオン・キングは、生命のつながりというスケールの大きな感動を、動物の日常にセリフを当てる、という"もしも"の設定で語りかける。観客が期待しているのは、草原や大地のなかを

          ライオン・キング(2019)