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#(ハッシュタグ)で共感を呼ぶ広告と嫌われる広告

「#(ハッシュタグ)」が入った広告を見かけることがある。消費者を巻き込むことで話題化し、普段は見向きもしない消費者にもリーチすることが狙いかもしれない。
「#マクドナルド総選挙」のように、AKB総選挙を模した娯楽として楽しむキャンペーンもあれば、パンテーンの「#この髪どうしてダメですか」のように社会の閉塞状況に対する問いを投げかけ、消費者のアンサーを求めるキャンペーンもある。
 いずれのタイプのキャンペーンにしても、そのまま模倣して成功することはないだろう。マクドナルドは国民の多くが認知している前提で成立するキャンペーンであり、どこそこのメーカー、飲食店が同様の企画を実施しても効果は限定的だし、既視感がある二番煎じに終わるだろう。パンテーンのような社会に問うタイプの場合は、そのブランドの存在意義が明確であり、そのブランドが消費者に価値を提供することによって世の中をどうしたいのか、そこに強い大義がないと消費者の心を動かすことはないだろう。

 Lancers(ランサーズ)が就活選考解禁日を狙い、日本経済新聞の全面広告に「#採用やめよう」のメッセージを逆さまにして掲載した。「#採用やめよう」という声高のメッセージには身構えて警戒する性質のため、どうせ釣り広告だろうと予想はしていたが、案の定、「真意はそこにありません」と失言した政治家ばりの紋切り型回答が予め用意されていた。
 この広告に連動して、ランサーズの何人かの取締役陣がこの広告に込めた想いを吐露しているが、必ず採用や正社員を「決して否定していない」「誤解を与えたかもしれない」と断りを入れて持論を展開する。「終身雇用の限界」「まずは正社員を採用するという先入観をアップデート」という主張は、人材派遣業でも同じことが言われて久しいわけで目新しさがなく、こうした主張こそがステレオタイプではないかと疑う。
 ランサーズのCMO(マーケティング責任者)は『「人が足りない」→「人がほしい」→「採用する・雇用する」という、一見確からしい既定路線の思考をやめよう。』と主張しているが、それを「#採用やめよう」と大味にしてしまったことで、多様で自由な働き方の選択肢を提供し世の中を変えていくランサーズの存在意義という旨味が消えてしまった。
「#採用やめよう」のメッセージは、議論を起こすことはできても多くの人の心を動かし鼓舞する大義が伝わらない。ランサーズのTwitter公式アカウント曰く『「採用やめよう」としていますが、色んな思いが込められています。代表の秋好を筆頭に考えに考え、開始したプロジェクトは本当に魂がこもっています。是非中身を覗いてみて頂けると嬉しいです。』とあるが、否定する既存の価値観が「正社員だけが人材である」というおそらく20年前も30年前もどこかで聞いたことがあるような言い古された価値観の提示に留まり、新たな発見もないステレオタイプの批判であることに幻滅する。
「#この髪どうしてダメですか」は多くの女子が感じた髪型校則に対する疑問が共感を呼んだ。「#(ハッシュタグ)」を入れる広告は、表層的な価値観の否定では共感を呼ばす、なんとなく感じていたけど言語化できていない感情と深く結ばれる。ランサーズはそのメッセージのチョイスを間違えて大味で声高にしてしまった結果、人間の心の機微に触れることなく、Yahoo!ニュースのコメント欄を見る限りではむしろサービスの実態とメッセージの一貫性の疑問が問われ嫌われてしまったのかもしれない。声が大きい人とは友達にはなれないが、個人的にはランサーズの活動は社会的大義があると思っているので応援したい。

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