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鉤括弧付き「コンテンツSEO」からの脱却

アイレップ渡辺氏とJADE辻氏のトークイベント「THE VISION OF SEO」に参加した。少なくとも辻氏は日本のSEO専門家の誰よりも膨大なデータと時間を費やし、世界一複雑なGoogleの検索エンジンのアルゴリズムと格闘し、インターネットの世界をより良く浄化しようという高い志を持つ、まさにSEOの神様と呼ばれるに相応しい日本の宝であることは間違いない。同時に、聴衆の前に降臨するときは、正しさだけを良しとしない、むしろ面白きことを良しとするエンターテイナーの顔も併せもつところがチャーミングで、表向きのキレイな回答と本音のぶっちゃけた回答を常備している。
さて、そのイベントで辻氏が発言した一部を検索アルゴリズムの傾向、SEOに必要なこと、SEOの未来に分類し編集した。

検索アルゴリズムの傾向

直帰率・滞在時間は確実に見ていない
滞在時間が短くても満足するサイトがたくさんあるから。 2014年ぐらいまでは見ていたが、今は見ていない。
カテゴリ設計・サイト設計、マークアップの影響力は軽微
かつてはカテゴリ設計、サイト設計で内部リンクを強化したりテキスト追加すると効果があったが今はその影響は軽微。例えば、昔はリンクの力が8割ほど占めていたが、今はリンクの力がなくても上がるようになっている。とはいえ、探しやすかったり、満足度が上がるようなUXの観点で考えることは重要。マークアップも同じくその影響力は軽微。
検索順位は見ていない
20万キーワードの順位は計測しているがランキングは普段見ていない。ランキングデータを出しているのはクライアント十数社のうち一社だけ。改善するときは流入の解析をしたほうが明らかに改善の示唆が得られる。(渡辺氏の発言だったか?)基本はSearch ConsoleやGAを見ている。それだけだとユーザーの動機がわからないのでユーザーの心理や行動のフィードバックを見ている。
ユーザビリティがよいから上がるとは限らない
ユーザビリティをよくするためにアプリのUIをよくすればSEOにもよいと言われているが、アプリがよくなればWEBからアプリに流れるのでSEOがよくなるはずがない。同じく、ログイン後のユーザビリティを強化しても当然Googleが見ないのでSEOがよくならない。
コンテンツSEOの終焉
記事を大量生産するようなサイトは落ちているし、質が高い記事も上げるのが厳しく、賞味期限も短くなっている。コンテンツSEOを初期に提唱したのは私(辻)なので責任も感じているが、記事に頼ったSEOは終焉している。

SEOに必要なこと

検索エンジンの仕組みの理解が必要
検索結果の順位や何が出てきて何が出てきていないを見るのではなく、世界一複雑なGoogleの検索エンジンがどういうシステムでどういう意図でどういう結果になっているのか、だから今これをやらなければならない、という構造的な理解がないままに検索結果だけをみているだけでは楽しくない。
Googleが機械学習する餌となるデータを渡す
大規模にデータを取得しているGoogleの意図や仕組みを理解し、それをユーザーがどのように見てアクセスするのかを把握し、そのためにどんなデータを渡す必要があるのか、格納しやすくなるかを考えていくことが重要。
UXコンサルの特化版
UXコンサルというとおこがましいので言わないが、検索結果のランディング先ページに特化し、全力でページを改善している。UXコンサルは全てのUXを扱うが、SEOの専門家はLPに特化すればそのパターンは限定される。そこだけを切り取ればUXコンサルにも負けないと自負している。
記事だけに頼らないサービス価値を伝える手段は多々ある
記事以外にもサービス価値が伝わっていないケースが多々ある。商品一覧ページでその価値が伝わっていないコンテンツの改善、2ページ目以降のページが辿れなくなっていたりする技術的な改善、FAQなどを含むユーザーの満足に貢献する機能の追加などやれることはある。

●SEOの未来

情報をプッシュするディスカバーに注目
コンテンツをレコメンドするディスカバーが流入の4本目の柱になっているサイトがある。検索、広告、ソーシャルに次ぐ4本目の柱になる可能性がある。いずれにしても、ディスカバーの仕組みを把握する必要がある。※セミナー後日、辻氏の同志でJADEを経営する長山氏が寄稿した記事「『Google 砲』を生み出す『Discover』とは何か」にもその重要性に触れている。

以上だ。
定石とされているSEOのちゃぶ台をひっくり返す、SEOの神様しか語れない重要な発言の連続に驚きを禁じえなかった。中でもコンテンツSEOの終焉宣言はとても重いものがあった。

いつしか手段が目的化されるKPI

コンバージョンサイトでよく実施されているコンテンツSEOは、購入前の検討層にターゲットを広げ、その層が知りたい情報を記事にしてサイトの接触機会を増やし、リターゲティング広告などで購入機会の接点を増やす施策だ。
その施策目的自体は間違ってはいないと思うが、いつしか流入を増やすことが目的となり、流入を増やすための記事数をKPIに設定してひたすら量を増やすことが目的となり、量だけではなく質が大事そうだとなれば様々な記事をまとめたような、やたら文字数が多い長尺記事が目的となる。
記事を書くテーマが枯渇すればエンタメや漫画、コンバージョンが程遠いジャーナリズム風の記事、主語が大きいテーマの記事に走り、いつしかサイト全体のテーマがぼやけ、コンバージョンサイトなのかメディアサイトなのかよくわからない状態になる。

そのサイトが何屋なのか不明

Google社で検索アルゴリズムの最適化に携わっていた現JADEの長山氏が執筆した記事「レンダーバジェットとは何か、あるいはなぜ私は心配するのをやめてサーバーサイドレンダリングを愛するようになったか」では、サイトの人気度と URL の数をベースにクローリングやレンダリングのバジェットを決定しているという。もちろんバジェットの決定とサイトやページの評価を分けて考える必要があるが、その「サイトの人気度」とは何かが問われる。それを測る指標として複数の指標があるに違いないが、サイトのトラフィック推移や上位ランディングページの推移(そのサイトはどのページが好まれて読まれている何屋のサイトなのか)なども見ているとすれば、本来副次的な情報であるはずのコンテンツSEOの記事が上位を占めるようになると、そのコンテンツSEOの上下変動によって、コンバージョンに直結するページにも影響を与えることになるのではないか?と先日閉鎖を決定した「an(アン)」のようなアルバイト情報サイトを見ていて邪推する。

コンテクストがあるコンテンツの必要性

辻氏が終焉を宣言したコンテンツSEOは、きっと鉤括弧付きのいわゆるコンテンツSEOであると思う。誰に何を伝えたいのか、何のために何で今やるのか、コンテクストが明確で自分が良いと思うものを読者が今読みたい形に編集されたコンテンツは今後も求められるだろう。

良いSEO担当の定義が変化

その意味では、従来のSEO担当者がキーワードと検索順位を主に見て施策を考えることをメインの仕事にしていたのに対し、今後のSEOは、良きマーケターであり、良きUX設計者であり、良き編集者であり、良き分析者であり、良き部門をまたぐ調整者であることが求められる。各領域単体でプロが存在するほど奥深い領域なのだから、門戸を開けば可能性ある未来が(きっと)待ち構えているに違いない。

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