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全文公開 『2020年6月30日にまたここで会おう』 第四檄「交渉は『情報戦』」

 ちょっと10分間のトイレ休憩を挟みましたが、ここからは少し趣向を変えて、しばらく「交渉」の話をしたいと思います。
『武器としての交渉思考』という本を出したばかりだからその宣伝がしたいというわけじゃなくて……、何度も言うように本の売上というのは僕にはあまり関係がありませんので、とにかくパラダイムシフトを起こす可能性のあるみなさん方にですね、今日はちょっとした武器を持ち帰っていってもらいたいと思っています。
 はい、ではなんで「交渉」を学ぶ必要があるのでしょうか?
 本では、「これから生き残る仕事は交渉を伴うものだけ」だとか、「新しい仕組みやルールをつくるために交渉による合意形成が必要」みたいな話をしましたが、今日はちょっと別の角度から説明してみましょう。


相互依存の時代に必要なもの

 社会を見渡してみると、いま、「ピラミッド型組織の崩壊」があちこちで起こっていますよね。
 社会を見渡してみると、いま、「ピラミッド型組織の崩壊」があちこちで起こっていますよね。
 昔は会社も学校も、先輩や上司、先生の言うことは基本的に正しいから、部下や生徒はそれに従って当然、反論の権利はない! みたいなのが社会常識でしたが、今はだいぶ変わって、たとえすごく強い立場にいる人でも、弱い立場の人を完全に屈服させることはできないようになってきています。
 それはどの業界でも同じで、これまでの常識や正解が通用しづらくなり、さらにブラックボックスだった内部情報がネットで筒抜けみたいな時代に、「王様と家来」型のガチガチの秩序は、あらゆる組織で強制力を持たなくなってきているんですよ。
 むしろオープンで対等な人間同士が違う立場で集まって、共通の目的のため、プロジェクトを実行したり、フラットな組織や共同体なんかを立ち上げたりする動きが盛んになってきていて、要は、トップダウン的な「支配関係の時代」から「相互依存の時代」に、完全に変化してきているんです。

 そういえば今、国会の前に人がうろちょろしていますよね(編集部注:原発再稼働への大規模デモのこと)。
 あれって、もし圧倒的に国家が強ければ、ふつうに捕まえて弾圧しちゃえばいいと思うんですよね。すぐ終わるわけです。でも日本はいちおう民主主義国家ですから、それはできない。
 でも、もしほんとうに十数万人が国会を取り囲んだりしたら、さすがに政府も無視できなくなってくるじゃないですか。ただ騒いだり文句を言うだけじゃなくて、うまくネゴシエーションすることで、政府の言動を変えることだってできるかもしれません。でも、あの活動はそんなふうにはならなそうですよね。
 その点でいうと北朝鮮という国は、小国なのに、いや小国だからこそ、ネゴシエーションが抜群にうまいんですよ。
 じつは北朝鮮というのは、世界でも有数の交渉が得意な国だと僕は思っていてですね、(核が)何もないのにあるように見せることで生き残って、その間にほんとうにつくるみたいなことをやって、アメリカのような大国とも渡り合っているわけです。
 このように、けっこう強い立場であっても弱い立場の相手を屈服させるのは今やむずかしいし、弱い立場であっても、考え方や行動次第では強い立場に影響を与えることも可能なんです。
 政治に限らず、相互依存の社会では、見かけ上の強い弱いっていうのとは関係なく、交渉することによって自分を非常に有利な状況に持っていくことができるわけです。


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● 第一檄「人のふりした猿にはなるな」 (常時全文公開中)
● 第二檄「最重要の学問は『言葉』である」(常時全文公開中)
● 第三檄「世界を変える『学派』をつくれ」(全文公開終了)
第四檄「交渉は『情報戦』」(全文公開終了)← イマココ
第五檄「人生は『3勝97敗』のゲームだ」(全文公開終了)
● 第六檄「よき航海をゆけ」(全文公開終了)

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