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大事なものだけ、残していこう

やらないことリスト

アジャイルのプラクティスに「インセプションデッキ」というものがある。
プロジェクトが良いスタートを切るためのブースターパックのようなものだ。
その中に「やらないことリスト」というものがある。
やること、ではなくやらないこと。実際には「やること」もリストアップするわけだが、目の前の課題や自分の視座・視野からの展望でつい手を広げてしまいがちなエンジニアという人種には「これはいらないです」と明示しておくことはとても重要である。

GTD

Getting Things Done. かいつまんでいうと「頭の中にあるものを片っぱしから書き出し、全てに優先度をつけ、優先度が高いものから取り組む」というやり方。

http://gtd-japan.jp/

ここでも「自分がやる必要があるか考える」ことや「優先度の低いものは先送りしたり移譲したりする」ことが説かれる。
このGTDについて書かれた書籍は当然のようにロングセラーであり、裏を返せばほっておくとやるべきことの優先度を見誤る人が少なからずいる、ということだ。

大晦日の大掃除

年末が近づくといつも思うことがある。
「どうしてもっとこまめに掃除しておかなかったのか」と。
掃除をこまめにしている人でも、年末という区切りではいつもより念入りに掃除するだろうし
思いもよらぬところに溜まった汚れを見つけることもあるだろう。
「現状維持」の掃除は表層的になりがちで、どうしても根深い汚れが蓄積してしまうからではないだろうか。
一方で、毎日大晦日レベルの完璧な掃除をしていたのでは毎日が家事に追われて過ぎていってしまう。

バックログ(やることリスト)の定期清掃

チームで開発を行い、個々が自主性を持っている。
タスクは、気軽に発行できる電子ツール、たとえばJiraのようなもので管理している。そしてそのチームは、そこそこ長い間稼働している。
そういったケースでは、知らず知らずのうちにバックログ、つまり「やることリスト」が肥大化することが多い。
バックログの発行を厳密に合意形成しながら行うのであれば起こりえないかもしれないが、そうするとスピードが出づらくなるという面もある。
また発行手続きの高コスト化は言わずに実行するもぐりタスクの発生を促進してしまうためあまり好ましくない。

さて、この肥大化したバックログをどう扱うべきか。
「定期的に棚卸ししよう」ということは、わりと思いつきやすいのではないか。
しかしこの棚卸し、なかなかに曲者だ。

あらためてチームを招集し、バックログを見始める。
・「あ~、これはやったほうがいいと思います」
・「異動した○○さんが発行したので詳細不明です」
・「これ見て思い出したんですけど、XXもやったほうがよくないですか?」

なんということでしょう。収束のために始めたミーティングが、匠の心意気によって発散する一方です!!

そう、いざ見始めると全部大事に見えてきてしまうのだ。
ここで理性的に整理できるチームがもし存在するのであれば、そもそも棚卸しが必要な状況にはならないかもしれない。

ではどうすればいいのか。

主は言われた。「わたしは、創造した人を地の表から消し去る。人をはじめとして、家畜、這うもの、空の鳥までも。私はこれらを造ったことを悔やむ。」 ー旧約聖書 創世記 6.7

キリスト教を信じておらずとも、ノアの方舟の伝説はご存知かと思う。
大洪水で全て押し流し、新たに世界の構築を始めるというものだ。

バックログでいうと「発行してから数ヶ月経ったのに優先度があがらないもの」「発行してから状況が代わり対応不能になったもの」「いま見返すとなんだかよくわからないもの」が洪水で押し流す対象だ。
一方で、現在進行形のものやプロダクトに責任をもつ立場(プロダクトオーナー)からみて重要なもの、これらが方舟に載せる対象だ。
(そう、なのでプロダクトオーナーは厳しい意思決定が求められる)

少々乱暴な気もするが、必要なものは一度押し流しても復活してくる。
Jiraを使っているならクローズするときに「対応持ち越し」ということを明示することだってできる。
いくつかのチームでこの「ノア作戦」を決行してきたが、「あのバックログがクローズされたことで困った」という話は聞いたことがない。
むしろ見るべきバックログの数がぐっと減り、意思決定の条件分岐が減り、チームとしての見通しはよくなる。

神よ、定期的に洪水を起こそう

・構造上、バックログは肥大化していく
・ミクロに棚卸しをすると全部大切に見えてくる
・思い切って消しても必要なものはあとから復活してくる

これらを踏まえ、定期的にチームの「やることリスト(バックログ)」に洪水をおこし「やらないこと」にしていくことをお勧めする。
そしてこの役割を、責任をもって主導していくべきは他ならぬプロダクトオーナーである。
ただしいことに集中し、やらないことを見定め、チームに翼を授けるために、神になったつもりでドラスティックに意思決定していこう。

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