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筆は選びたい。

エンジニアはキッチンへ向かう

「最近、低温調理に凝ってるんです。」
あるエンジニアが、そう言った。
昨年くらいから一人暮らしを始めた彼は、それまでそんな素振りは見せなかったのにマメに料理をしている。
そして炊飯器を使った低温調理に行き着いたようだ。 

低温調理。一度に高温で加熱するのではなく、じっくりとタンパク質が変成するかしないかの温度で加熱し
最後に焼き色だけつける調理方法。
この低温調理を成功させるアプローチとしてクックパッドなどではなく論文から引用してくるあたり、いかにもエンジニアだ。

そんな雑談を、少し集中力の途切れる時間帯にしていると
だんだん盛り上がっていき、実は料理をそれなりにやっている人がそこそこいるとわかった。
ついには「貸しキッチンを借りて料理会をやろう」というところまで行き着いた。

貸しキッチンの罠

そんなこんなで貸しキッチンに到着した。
事前にわかっていたことではあるが、普段使っている調理器具とは違う。

件の低温調理家は炊飯器を使い低温調理を行うのだが、炊飯器が肉に対して小さい。
5人の調理者に対して鍋が2つしかないため、綿密なタイムマネジメントが求められる。
普段電磁調理器を使っているメンバーが無慈悲に高温化する油と苦闘している。

それでも、結果としては悪くなかった。

タコスにサラダ、唐揚げとステーキにパスタ。そしてデザートのプリン。(唐揚げは写真を取りそびれた)
どれも美味しくいただくことができた。
が、作った本人達は一様に「ほんとはもっと美味しくできるんだけれど…」と、少し残念そうな顔をしている。

結局のところ、調理器具だったり調味料だったり、普段は意識せず使っているものがあまりにも前提となっているために、ひとたびその道具が封じられると本来の力が発揮できなかったのだろう。
私自身も、作成したカルボナーラの乳化がいつもより甘く、「違うんだ、もっと美味しくできるんだ…!!」という気持ちになった。

戦場で、筆を選べているか

とまあ、料理会の話をしてきたわけだが
これは日々のオフィスにおけるエンジニアリングでも気をつけたいことだなと感じた。
ハード面でいうと、モニターやPC、マウスやキーボード。
これが自分にとって馴染むものになっているか。
手足のように使えているか。
ソフト面でいうと、慣れているIDEが使えているか。開発プロセスは自分のモノになっているか。なによりチーム内の意思疎通はスムーズか。

趣味では道具や環境にこだわる人でも、こと仕事となると何故かデフォルトの道具や環境を甘んじて受け入れてしまうことがままある。
もちろんデフォルトでパフォーマンスを出せる、という方もいるだろうが
仕事の現場でもあらためて、道具、環境を見直してみてはどうだろうか。
 
私はそう自分にいい聞かせ、財布とは相談せず、今日もAmazonをクリックする。

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