悪魔の羽根 9
あの冬の日から五年。
僕は大学に進学したかったが、母は入退院をくり返し、手当で何とか暮らしていた我が家にはそんな余裕はなかった。精神的に立ち直り、真剣に勉強を始めた妹のために進学費用を稼いでやりたいと思った僕は、就職の道を選んだ。
父のかつての同僚が独立して作った小さな会社に就職できた。ただ、家から遠かったので、その社長が紹介してくれた会社近くの格安のアパートで一人暮らしをしながら、家に仕送りをする日々。
かつての友達や知り合いに会うことがなくなり、少しホッとした自分もいた。
『心は決まったか?』
スマホの短い振動とともに言葉が表示され、急に現実に引き戻される。
「い、いや、僕は復讐なんて・・・」
就職して四年。
やっと仕事を覚え、少しずつ任される仕事が増えてきた。
僕の稼ぎで家族を支えている自負心も少なからずあった。
そして、何より、こんなにお世話になっている社長に迷惑をかけるわけにはいかなかった。地元に残してきた妹と入退院を繰り返す母のことまで気にかけてくれているのだ。。
『わかっている。
俺は、ただ復讐ができればいいと思っているやつのところには来ない。
良心。
それがあるやつのところに現れる。』
「良・・・心?」
『俺の仕事は完璧だ。決して失敗はしない。
依頼人に迷惑がかかったり、疑いがかかることなく、復讐を完成させてやる。』
僕の心を見透かしたかのような言葉。
『良心のあるやつだから迷う。
即答するやつの復讐なんざ何の面白みもない。
だから俺は人を選ぶ。』
心が傾いてきているのがわかった。
まさに悪魔の囁き。
『さあ、選択するがよい。
YESか、NOか。』
画面に表示される二つのボタン。
僕はその一つを押した。
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