悪魔の羽根 8
その考えは間違いだった。
彼女にもあいつの手は伸びていた。
取り巻き連中も一緒になって、美緒の友達や僕の友達も巻き込んで、僕のあることないこと、家族の悪い噂を吹き込んでいったらしいのだ。
そこに僕の美緒に対する素っ気ない態度も加わって、美緒は”僕”をあきらめる選択をした。
僕は家族の平和を、友人を、好きな人を失った。
あいつの目的は果たされたかに見えた。
何とか受かった高校に通う日々の中で聞く、同級生たちのその後。
まさかと耳を疑った一つの話題。
“北瀬と美緒が、付き合い始めた。”
それで僕は確信を得た。
あいつの目的は僕を追い落とすことではなかったのだ。
美緒を手に入れる。
それが最終目標だったのだ。
それには僕が目障りだった。
傷心の美緒を手懐けるのは、あいつなら簡単だろう。
二人が同じ高校に行ったのだって、きっと偶然じゃない。
僕は、高校入学でバラバラになった北瀬の取り巻き連中を一人ずつ当たった。
そいつらは夢から覚めたかのように、北瀬と自分たちがしてきたことをぺらぺらとしゃべってくれた。
僕の父親の会社の取引先に、地元で力を持っている北瀬の父親の経営する会社があった。そこから父親の人事に対して圧力がかけられたこと。
北瀬の母親は小学校のPTA会長を務め、さらに北瀬の父親の会社の社員が父兄の中に少なからずおり、取引先を含めるとさらに多数いることから、逆らえなかったこと。
その権力の前に小学校の教師たちも、妹のために何かすることができず、黙認する形になったこと。
全部つながっていたのだ。
しかし、分かったからと言って何かできるわけではなかった。
僕には何も残されていなかったのだから。
ただ、一回だけ、僕は美緒に会いにいった。
高校二年生の冬。
学校帰りの美緒を待ち伏せした。
粉雪が舞う中、美緒は一人で歩いてきた。
僕に気付いた美緒の顔は、みるみるゆがんでいった。
口を手で押さえ、しゃくり上げ始めた。
僕は何も言わず、その場から離れていった。
僕が知りたかった答えが、全てそこにあったから。
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