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『ムービング』ロス期に振り返る。〜韓国ドラマと原作の違いや共通点①〜


はじめに

 こんなに楽しみな週の真ん中水曜日はあっただろうか。終わってしまった、“ムービングデイ”を引きずり、曜日問わず『ムービング』を思い出しては、空を見上げ、トンカツが食べたくなり、思い耽ってしまう。ここまで夢中にさせる理由は複数あるが、多様性を描きながら、生きづらさと生きる上で大切にしたいことを、道徳的にファンタジーにロマンチックに描き切っているのが素晴らしいのだと思う。そして、シンプルな善悪の対立構造というよりも、悪そのものを生み出した背景にスポットを当てて描いている点が秀逸で、散りばめられた伏線がラストにかけて繋がる瞬間は……もう100層に重ねられたミルクレープを味わっているよう。

 本作は、ウェブ漫画を原作としており、ドラマの脚本も原作者が手がけている。ここまで夢中になった『ムービング』、原作が気になって読んでみたので、ここに感想を書き留めておきたい。一部本編を含むので、ネタバレを含みます。

ヒスに惹かれる理由

 ボンソクがヒスに惹かれる理由。ドラマを見て、なんとなく分かっていたつもりでいたが、原作を読んで理解が深まった。原作のボンソクは、人前で飛んではいけないという母かの教えを守り、いつしか飛ぶことを忘れ、飛べなくなっていた。ドラマよりも一層内気で自信がないように見える彼の前に、突然現れた転校生ヒス。大学受験のために、カッパを着て全速力で走りながら登校し、放課後は靴を泥だらけにしながらトレーニングに励む。そんな彼女を見て、心が動いていくボンソクの姿が描かれていた。ここからは想像になるが、きっと自分の限界を超え、一歩踏み出す勇気を持つヒスが眩しく見えたのだろうなと思う。そしてこれは余談だが、ボンソクの家の前の道をヒスが走っている理由も描かれていた。人目を気にする彼女に、走るのに良い場所があるとボンソクが紹介した道なのだ。その背景を知ってから改めてドラマを見ると、心が一層ホクホクする。(ちなみに、ボンソクの家は南山トンカツではなく、ドジョウ汁屋として登場する。)

『あんたは変じゃない。少し違ってて特別なだけ。』

 感情の揺れによって身体が浮いてしまうボンソク。ドラマの中では、ボンソクがヒスに秘密を打ち明けた後に、彼女が彼に送ったセリフだ。原作ではどうなっていたかというと……ボンソクの父ドゥシクが母ミヒョンにかけた言葉だった。ボンソクが生まれてまもなくして、彼の身体が浮くことを知った二人は、何かあるのではと病院を駆けずり回る日々を送る。だが、何も異常は見つからず、ミヒョンはどんどん不安になっていく。健康でいてくれたらと願う気持ちと、変な目で見られないかという気持ちで揺れ動くミヒョンに、ドゥシクが安心させるように伝えるのがこのセリフだった。そこからさらに物語は続き、原作だけのシーンがある。これがめちゃくちゃ泣けるのだが……続きは本編で確認いただきたい。

僕は上から、君は下から

 最高で胸熱パートナーといえば、チャン・ジュウォンとキム・ドゥシク。ドラマでは、空に浮かぶドゥシクとの出会いのシーンが印象的だった。原作では二人の出会いのエピソードは無く、挨拶のシーンから始まる。「僕は上から。君は下から。」「いつも通りに。」という合言葉のようなセリフは、ドラマも原作も変わらずだが、原作にはもう一つセリフがある。それは、「再会地点で任務終了だ。」ということ。そして、片目をつぶるという二人だけの合図があること。この3つのセリフが日々の任務の中で使われるのだが、最も切ないのがミヒョンとドゥシクの関係を公の場で否定するためのあのシーン。展開は同じだけれど、原作で見るとまた一味違っていて、こんなに切ない再会地点があるのかとうるうるしてしまうはず。

怪物と呼ばれた男チャン・ジュウォン

 泣き虫で、方向音痴で、一途で、とにかく不器用で、優しい男。それが、フライドチキン屋の社長兼店長チャン・ジュウォンだ。自己治癒という力を持ち、その力は娘ヒスにも受け継がれている。ドラマの中では、彼の性格や、ヒスの母ジスとのエピソードが描かれており、涙した方も少なくないはず。原作では、付き合うまでの詳細エピソードはなく、結婚を間近にしたあたりから描かれ始める。(冷凍庫にたまっていくお肉や、自動で消える電気をつけるシーンはドラマならではだった!)
 ドゥシクがヒューマニストであり、ジュウォンがロマンチストであること。この辺りの、登場人物の背景に焦点を当てて、一層理解を深めていくような部分は、ドラマの中で追加されているもののようだ。一方で、原作では、ドゥシクに対するジュウォンの心の声が描かれているのが面白い。ぐっと胸が熱くなるような1シーンがあり、また泣きそうになってしまった。

 きっと、明日も『ムービング』のことを考えてロスになってしまうのだろうな……。続きは、また次回へ。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

原作は、有料でこちらで読めます。(一部無料でした!)