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キンクスにハマった

オタクなので、自分の好きなコンテンツに新しくハマった人の動向を見るのが好きだ。
同担拒否のタイプではないから仲間が増えるのは純粋に嬉しいし、自分もかつて辿った道を今まさに沼めがけてダイブした相手が喜々として溺れているのを見るのは何より楽しい。

キンクス(The Kinks)というバンドがいる。
音楽に明るい人ならば名前を聞いてピンとくるかもしれないが、彼らは60年代〜90年代に活動していたイギリスの4人組ロックバンドだ。というのを、わたしは先週知った。

そして沼に落ちた。

noteという存在は知っていても自分が何かを書くとは微塵も想定していなかったし、この先このnoteアカウントを稼働させるかも果たして微妙なところである。だがわたしはオタクなので、2020年のこのご時世にいわゆる60年代UKロックバンドに急転直下してしまったことについて記しておかねばならないと強く思ったのだ。
別に新参者が講釈を垂れるつもりもない(というか垂れられるほどの知識を持っていない)。ただ昔からキンクスを好きな人がこの記事を見て、新しくコンテンツの沼に落ちてしまった人間が楽しそうにもがいている姿にほくそ笑んでくれたらいいなあと思うだけなのだ。わたしがいつも誰かにそうしているように。

前置きが長くなった。
先ほど「先週」と書いたが、実はキンクスのことを知ったのは先週よりももっと前だ。
2015年、エドガー・ライト監督による2008年の映画「ホット・ファズ」を観ていたわたしは、劇中で流れるある挿入歌の美しさに心を奪われた。
それが「Village Green」だった。
その歌を歌っているアーティストがキンクスというバンドだということをネットで調べて、わたしは近所のゲオに走った。そして「The Kinks Are The Village Green Preservation Society」と「Single Collection」を借りてきた(この2タイトルしか置いていなかった)。
聴いてみて、非常に驚いたことを覚えている。「You Really Got Me」を知っていたから、この曲を歌ってたバンドだったのか、と世界の人口の30%くらいは同じ気持ちに浸れるのではないかという普遍的な驚きだ。あと同時に「You Really〜」と「Village Green」、路線が違いすぎない?? とも思った。今になって考えればその路線の違いというのがキンクスの味でありレイ・デイヴィスの凄さなのだろうが、そのときのわたしはそんなことを微塵も考えなかった。ただ楽曲の振れ幅に戸惑い、「『Set Me Free』が名曲すぎる」とか思っていた。

わたしは音楽に明るくない。
キンクスにハマったと自信を持って言える今でさえ、ようやく彼らの名前と顔が一致するようになったくらいだ。未だにビートルズはジョン・レノンとポール・マッカートニー以外のメンバーが誰なのかわからず、曲こそイエローサブマリンとかストロベリー・フィールズ・フォーエヴァーとかヘルプとかそういった有名どころは何となく知っているもののあまり真剣に聴いたことがない。ローリング・ストーンズはサティスファクションしか知らないし、ザ・フーに至ってはマイ・ジェネレーションという曲のタイトルは知っていてもいざ口ずさもうとするとザ・ナックのマイ・シャローナが出てきてしまう。
だから当然キンクスなんて、名前すら知らなかった。
わたしが2枚のアルバムを聞いて気に入った「Set Me Free」と「Sunny Afternoon」と「Picture Book」を作ったのがレイ・デイヴィスという名前のフロントマンだということも、リードギターを奏でるのが彼の実弟だということも、知ったのは先週だ。

ビートルズから入って幅を広げたらキンクスに行き着いたわけでもなく、ロックに造詣の深い知り合いにオススメされたわけでもなく、たまたま観ていた映画からの邂逅。
そんな感じで、好んで聴く洋楽と言ったらクイーンとワムとサイモン&ガーファンクルしかないというものすごく偏った嗜好のわたしはキンクスと出会ったのだった。

だがそのあと、2枚のアルバムをiPodに入れて何度か繰り返し聴いた以降、特に彼らのことを思い出すことはなかった。
それがいったい何の縁か、先週唐突にキンクスを聴こうと思ったのだ。
2019年の映画「ロケットマン」を観てからエルトン・ジョンしか聴かなくなっていたので、たまには他のアーティストも聴くか、と気まぐれを起こしたのである(ちなみにエルトン・ジョンのことも映画を観るまではユア・ソングの人、というだいぶぼんやりとした認識しかなかった)。そこで何となく、本当に何となく、キンクスのことを思い出した。

先週のことなのに、もう詳細がわからない。
Amazonミュージックで配信されていた何を聞いて、わたしは再び彼らに興味を持つまでになったのだろう。「Waterloo Sunset」だっただろうか。それとも「Till the End of the Day」? 正直まったく覚えていない。
気がついたらAmazonミュージックで配信されているキンクスのすべての曲をプレイリストに突っ込んで、社用車の中で延々と流し続けるオタクが爆誕していた。在宅ワークのときはそれこそ朝から晩までひとつのプレイリストをエンドレスリピートだ。完全にキマっていた。配信で聴けるとは言えアルバムの1枚くらいは欲しいと思ったが、あまりにタイトルが多すぎて何を買ったらいいかわからんと思ったのでとりあえず「The Ultimate Collection」を買った。結果「Shangri-La」にやられ、今日もレイ先生の歌声に合わせて「シャングリラーーーーーーアァァ」と絶叫している。

さて、この頃に初めて「キンクスってどんなバンドなんだろう」という疑問がわたしの中に生まれたように思う。どんなも何も曲はすでにかいつまんで聴いているわけだが、そうではなくてメンバーの名前とかいつどこで結成されたバンドなのかとか、そういった情報を得たいと思ったのだ。
今の世の中、本当にインターネットというものは便利で、単語を入れて検索すると様々なウェブサイトが出てくる。そこでわたしはディヴィス兄弟というこのバンドの中核を担う存在のこと、それから彼らは非常に仲が悪いこと、そしてそんな関係性でも一応バンドは解散という形を取ったわけではなく再始動の可能性も見え隠れしていること、などを知った。同時に60年代や70年代に撮られたと思しき彼らの写真もたくさん見た。初期のデイヴ・デイヴィス、あまりにも美少女では??? そんなことを思いながら。

いや、本当にデイヴ・デイヴィスの顔面はドツボだった。別に顔面偏差値が高いからバンドの価値が上がるとか顔が好きだから曲も好きになるとかそんなことを思うわけではないが、曲が好きで顔も好きだったら好きの二乗でしかない。こうしてオタクはその対象の好きな部分に好きなところをひとつひとつ重ねていって、深みにハマるのだ。
もちろん彼の性格が、というよりバンド自体のキャラクターがかなり破天荒なことも知った。だが深みにハマったあとのオタクにとって、それは一種のスパイスに過ぎない。隠し味のブラックペッパーの主張がすこし強かった、それだけのことだ。

ありがたいことに彼らの公式YouTubeでは音源がたくさん配信されている。あまりにも出ているアルバムが多くどれを買うべきかわからないため、とりあえずすこしずつ聴いて気に入ったところから買おうともくろむ人間には非常に助かる話だ。
有志のレビューサイトもいくつか拝見した。どうやらリリースの年代によってレーベルが分かれ、それが音楽性の区切りにもなっているらしい。今までベスト盤でかいつまみつつ聴いた感じ、わたしの耳にはパイ時代の楽曲が一番好ましく聴こえるようだった。
この日もAmazonミュージックの配信で気に入った「Afternoon Tea」を聴こうと思って、公式の作成した「Something Else」のプレイリストを再生していた。
そしてわたしは出会ってしまった。

「Lincoln County」に。

絶対このアルバムで取り上げるべきはこの曲じゃない。わかっている。「David Watts」とか「Death of a Clown」とかもっと他に色々あるだろうとは思う。そもそも名曲揃いなのでどれかひとつの曲を特別に取り上げること自体が難しいが、それにしたってリンカーンカウンティではない。もちろんこれだって良い曲なのだが、違う。そうじゃない。
初めて聴いたとき、「?!?!?!?!」となった。いや、なるだろう。明らかに音が上ずっている。そして何だそのフヤフヤなラララは。いつもの落ち着いたヴォーカルとあまりにも違いすぎるその自由奔放な歌い方にわたしは驚き、そして同時に何故か虜になった。
彼らのことを調べ始めてから弟がリードヴォーカルを務める曲がいくつかあることも知ったから、すぐにこれはデイヴが歌っているのだとは気が付いた。だが「Death of a Clown」は違和感なく聞けていたし「Susannah's Still Alive」も普通に聴けていたから(正直「Love Me Till the Sun Shines」は改めて聴くとかなり不安定な歌い方をしているのに完全にスルーしていた)、唐突に現れたこのデイヴ節炸裂の楽曲にわたしは衝撃を受けてしまったのだ。

そして次にわたしがしたことと言えば、デイヴ・デイヴィスがリードヴォーカルを務めた曲を集めたアルバム「Hidden Treasures」を買うことだった。
そこじゃない。絶対にそこじゃない。絶対に違う。ベスト盤の次に手を出すべきは普通に考えてサムシングエルスかヴィレッジグリーン、あるいはローラ、そのあたりだろう。にも関わらず、無情にもわたしの人差し指はAmazonの「カートに入れる」アイコンをスワイプしていた。
届いてから数日、もう朝の通勤時にリンカーンカウンティを聴かなければ出社できない身体になってしまった。この下手なんだか上手いんだかよくわからない、奔放で勢いがあってあまりにも軽快なウェイ系ソングが社会とコロナの間で板挟みになるわたしの一番の癒しとなったのである。

そんな王道を一歩外れたトチ狂い方をしてしまったわたしだが、昨日「Arthur (Or the Decline and Fall of the British Empire)」の50周年記念デラックス・エディションを注文した。レコードプレイヤーなんて家にないので宝の持ち腐れ感が半端ないが、それでもブックレットやポスターは欲しい。そもそも2020年4月のこのご時世、はるばるイギリスからCDが送られてくるはずもないとはあとから気付いたが、そんなのはどうだっていい。1年でも2年でも待とうと思う。このアルバムが届いたら、わたしのコーラスレパートリーに「オーストレイリア~~~~~~~~~」が追加されるのだろうから。

キンクスの楽曲の、メロディラインが大好きだ。
代表曲である「You Really Got Me」のように勢いの強いパンキッシュな曲も、これまた有名な「Waterloo Sunset」のようにただひたすらに美しい曲も、ベクトルは違えど耳なじみが良くつい口ずさんでしまう。そのほかにも前述ではあるが「Set Me Free」「Shangri-La」「Afternoon Tea」、あるいは「I Gotta Move」「Tin Soldier Man」「Starstruck」……挙げればキリがない。
レイ・ディヴィスの魅力はその類稀なるメロディセンスのみならず、独特の歌詞にあるのだというレビューをいくつも見かけた。残念ながらわたしは曲を聴きながら歌詞の意味を理解できるほど英語に堪能ではない。せいぜいグーグル翻訳片手にじっくり読み込むか、訳詞を載せてくれているウェブサイトを探すくらいのことしかできないのである。
とは言え、そのめくるめく歌詞の世界をまったく味わえないかと言われればそうでもない。たとえば「Shangri-La」において、

Sit back in your old rocking chair
You need not worry, you need not care
You can't go anywhere

という部分があるが、これが大好きなのである。
優しい語り口で「何も心配はいらない」と言っておきながら、最終的には「きみはどこへも行けない」と切り捨てるところに切なさややるせなさを感じてしまう。ようやく手にしたシャングリラは、どこにでもある建売住宅。きっと、これ以上は何も望めない。「ちっぽけなシャングリラの中の人生はそう幸せなものでもない」と歌われるけれど、世間一般的には自分の家を持つことは人生の幸せの一部として捉えられるのだろうな。わたしを含め、大半がその幸せの中にすっぽりと納まるのだ。どうせ、どこへも行けやしないのだし。
わたしはどれだけこの曲が好きなんだろう。やっぱり、アーサーの記念ボックスを注文して良かった。

レイ先生が歌詞に込めた意味をもっと知りたいと思ったとき、わたしはさらに彼らの楽曲の深みにハマることになるのだろう。そうなるのが楽しみだ。
長くなったので、最後にまだパイレーベル時代の数枚のアルバムを聴きかじっただけのわたしが特に気に入っている曲をメモ代わりに残しておこうと思う。

次はどのアルバムを買おうかな。



・Afternoon Tea
もういいよって感じである。この記事で2度名前を出した。だが好きなものは好きなのである。

・Shangri-La
もう言うことない。

・Mindless Child of Motherhood
イントロが好きすぎる。これB面だったって本当ですか? こんなにもかっこいい曲なのに?

・She's Got Everything
ポップで陽気なコーラスがあまりにも可愛いのに突然ギターソロが炸裂するギャップが良き

・Lincoln County
もう言うことない。全人類リンカーンカウンティを聴いて。




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