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キンクスにハマっている

オタクなので自分が新しくハマったものについて書き記しておきたい、とか何とか言いながらこんな記事を書いた。
去年の今頃の話だ。

あれから一年、わたしは未だにキンクスにハマっている。


人間、一年もあればそれなりに成長するものだ。ジョージ・ハリスンとリンゴ・スターの名前もわかるようになったし、ようやくジャンピン・ジャック・フラッシュのサビを口ずさめるようになった。マイ・ジェネレーションとマイ・シャローナがごっちゃになることもなくなったし、それどころかドアーズやらアニマルズやらゾンビーズやら、数曲かいつまんでではありつつも様々なバンドの曲を聞くようにもなった。何という進歩だろうか。朝から晩までSpotifyに入り浸った結果、初めてキンクスのシングルコレクションを借りたときのような「あ、この曲聞いたことある。この人たちが歌ってたんだ」という気づきをどれほど得ただろうか。モンキーズ、今まで忌野清志郎のイメージしかなくてごめん。ビーチボーイズ、名前から勝手に湘南乃風みたいなヒップホップ系だと思っていてごめん。ヤードバーズ、バーズ、タートルズ、世界にはわたしの知らなかった音楽がこんなにもある。何はともあれホリーズがめちゃくちゃ好きだ。

でもやっぱり、一番はキンクスなのである。
あのとき気まぐれにキンクスのことを思い出さなければ、ビートルズの四人の名前を覚えることさえ未だになく、こんなふうに様々なバンドに触れることもなかっただろう。朝から晩までSpotifyに入り浸ることもなければディスクユニオンに通い詰めることもなかっただろうし、9000円ちょっとのLola〜50周年記念BOXの送料に6000円取られることもなかったはずだ。

そう、一番はキンクスなのだ。毎日のように何かしらの曲を聴くのはキンクスだけだし、インタビュー記事などを見つけてはGoogle翻訳片手に読みふけるのも彼らだけだ。再発されていないThink VisualとUK Jiveを除いてアルバムはあらかた聴き終えたし、VGPSから連なる記念BOXはもちろんすべて揃えた。At BBC、Picture BookなんかのBOXも、レイ先生の自伝もワン・フォー・ザ・ロードのDVDも何とか入手した。物欲は非常に満たされている。何せこの一年でキンクスに一番金を使っているのだ。いや、レコードにまでは手を出していないのでまだマシなほうだろうか。だがはたして自分がここまでズブズブになるとは、一年前のわたしですら想像していなかったに違いない。
ただ、さすがにリンカーンカウンティを聴かないと出勤できない呪いからは解放された。これも成長である。


オタクにとって、好きな対象に次から次へと金をつぎ込めるのはありがたい話だ。2021年はマスウェル・ヒルビリーズの50周年記念BOXが出る予定だというし、この先も金をつぎ込む予定がある。50年以上に渡る長い歴史を持つキンクスの動向を過去のものとしてではなくリアルタイムに追えるということが、どれほど嬉しいことだろうか。
それはひとえに、今までずっと彼らのことを応援し続けてきたファンの方々のおかげだと思う。誰も欲する人がいなければリイシューCDだってBOXだって世には出ない。彼らを愛し、CDが出たら買い、再始動のニュースに心踊らせるファンたちがいる、だからこそ公式も動き続けるのだろう。
わたしはその恩恵を受けている。


キンクスはたぶん、世界中の誰もが知っているようなバンドではない。でも、ひょんなところで目に(耳に)するバンドではある。
2020年6月に、「15年後のラブソング」という映画が公開された(以後、同映画のネタバレを含みます)。この映画には、イーサン・ホーク扮する落ちぶれた元ミュージシャンの男がロンドンはウォータールー駅を指して「ザ・キンクスの歌にもある」と言うシーンがある。もちろんこれは、ウォータールー・サンセットのことだ。その証拠に、物語終盤で彼は実際に電子オルガンを弾きながらウォータールー・サンセットを歌うのだ。

この台詞が原作小説にすでに用意されたものなのか映画化にあたり追加されたものなのかは定かでないが、こういうところで特定のバンドの名前を出すとしたら、それは少なくない観客が知っているバンドであることが定石だろう。誰も知らないようなインディーズバンドの名前を出しても一人よがりだし、共感は生まれない。
キンクスは「何故か知名度が低い」だの「世界一過小評価されてる」だのと言われることもある(らしい)が、少なくとも(元ミュージシャンというキャラクターは登場するものの)決して音楽をメインテーマに据えたわけではないロマコメ映画に、「彼らを知っていることが前提の台詞」が登場する程度の立ち位置ではあるということだ。

昨今、既存のアーティスト曲が映画のBGMとして使用されることは珍しくない。わたしがキンクスにハマったきっかけも、エドガー・ライト監督の「ホット・ファズ」だった。この映画ではThe Village Green Preservation SocietyとVillage Greenが挿入歌として使われている。
パイ期の楽曲はメロディも特にポップでキャッチーなものが多いから、挿入歌として使用しやすいのだろうか? そう考えると、伝記映画の計画が頓挫したらしいことが非常に残念に思える。それこそ楽曲は挿入し放題だろうから、さぞ楽しい映画になっただろう。2019年の傑作「1917」で主演を張ったジョージ・マカイが演じるデイヴを見てみたかったというのももちろんあるが。
だがやはり挿入歌の面で言うなら、もっとも言及すべきはウェス・アンダーソン監督の「ダージリン急行」だろうか。この映画ではThis Time Tomorrow、Strangers、Powermanの3曲が印象的な場面で効果的に使用されている。ひとつのアーティストのひとつのアルバムから3曲もが選定されてひとつの映画の挿入歌として使われるのは、あまり無いことなのではないだろうか。プロモーション用ムービーじゃあるまいし。どうしてアンダーソン監督がその3曲を起用したのかは知らないが、「Lola〜のアルバムが好きだったから」と言われても納得してしまう。

キンクスの楽曲を挿入歌として使用した映画やドラマは結構多い。60年代が作品の舞台だからYou Really Got Meを使う場合もあるだろうし、登場人物の特異なキャラクター性を表現するためにI'm Not Like Everybody Elseを使う場合もある。2015年のアルゼンチン映画「エル・クラン」にはSunny Afternoonが使われているが、これまた映画にぴったりの選曲だ。Sunny Afternoonが映画の内容にぴったりという時点で色々とお察し下さいという気はするが。
「もう泣くのはやめなよ」から「僕の宇宙船でこの星をめちゃくちゃにしちゃおうぜ」まで、歌詞がイメージさせる情景の振り幅が広いのも、キンクスの楽曲が映像作品にしばしば使用される理由になるのかもしれない。


noteが「登録してから一周年だよ!」と通知をくれたので久々に自分の書いた記事を読んだ。
オタクが必死になって冷静を取り繕ったような文章には若干引いたが、たぶん一年後には今書いているこれも同じ道を辿るに違いない。それはさておき、一年前の、キンクスにハマった当初のわたしはShangri-Laがいたくお気に入りだったらしい。
なるほどな、と思った。だから今、これを書いている。一年前のわたしがShangri-LaとAfternoon TeaとLincoln Countyを特別愛していたことが伝わってきたので、今のわたしが何を特別愛しているかを記すためだ。こういうのは、それこそ年単位で見返すと面白い。去年の自分が何を好きだったか。ぶっちゃけリンカーンカウンティを好きすぎて引いた。聴かないと出勤できない身体になったって、何?

だから、2021年のわたしが特別好きな曲を10曲選んだ。10曲しか選ばないなんて正気じゃないと思いながら、頑張って選んだ。以下にその10曲を記しておく。ちなみにリンカーンカウンティは10曲のうちには入らない。いや、もちろんリンカーンカウンティも好きな曲なのだが、これについて語ろうと思ったらあと3段落は必要になる。去年の記事を読んで「今の10曲」を書き記しておきたくなっただけなのに随分と前置きが長くなってしまったように思うので、リンカーンカウンティについての言及は割愛としたい。
まったく長い前置きだ。だが仕方がない。一年を通してハマってきた相手に対して、わたしは語ることが多すぎる。


#1 Mr.Songbird

#2 Waterloo Sunset

#3 Strangers

#4 A Rock 'n' Roll Fantasy

#5 This Time Tomorrow

#6 Afternoon Tea

#7 Shangri-La

#8 Little Miss Queen Of Darkness

#9 Come Dancing

#10 Scattered


いや、でも、そうは言っても、好きな曲ってその日の気分によって変わったりする。ここにSitting In My Hotelが入ることもあるし、Sleepwalkerが入ることもある。そうなると結局、どの曲も好きという結論に落ち着いてしまう。
まあ、別にそれでも良いのだ。もしかしたら来年の今頃は、Lincoln Countyが一番好きと言ってるかもしれないし。




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