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リーグ間格差は、指名打者制が原因か?

(昨年末にTwitterでつぶやいたものを、もう少し考えてみただけです。)

昨年は予定より3ヶ月ほど遅れて開幕したプロ野球も、アワード系も含めてなんとかすべてのイベントが終わった。
現在の状況では、今年もどのような形での開催となるかは不透明ではあるが、まずは2月のキャンプインに向けて選手たちは体を休めたり、あるいは自主トレで体を作ったりしているところだろう。

日本シリーズはソフトバンクが4連勝して日本一(事実上の世界一)となった。19年はリーグ戦2位での日本シリーズだったが、20年はリーグ戦も制してなので、完全優勝と言っていいだろう。
一方の巨人は、リーグ戦を圧倒的な差で制して勝ち上がってきたのに、日本シリーズではいいところなしで完敗。

このことに加えて、セパ交流戦でも、パリーグが大きく勝ち越していることから、「パリーグとセリーグで実力に差があるのではないか?」と言われるようになっている。
その原因として、「パリーグには指名打者制があるから」説がかなり出回っている。特に巨人の首脳陣はしきりに訴えており、20年の日本シリーズでは、巨人側の提案により、通常はパリーグ本拠地のときのみ適用される指名打者制が、全試合で実施するようことになった。
21年シーズンでの導入は見送られたが、近い将来にはセリーグも指名打者制になるかもしれない。

指名打者制に、そんな効果があるのか?

しかし、本当に指名打者制の有無がリーグ間格差の原因なのか?、もっと言えば、そもそもリーグ間格差は存在するのか?と。
直接対決の成績くらいしか比べるものがないので、過去の日本シリーズと交流戦の成績を見てみることにした。

日本シリーズをみれば、効果が出るまで38年

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グラフの使い方がヘタクソで申しわけないが、過去の日本シリーズの勝敗の推移を表したものだ。グラフの上がパリーグ勝利、下がセリーグ勝利。グラフが横に伸びている=それだけ同じリーグが勝ち続けていることを意味する。
赤い線はパリーグが指名打者制を導入した75年、青い線はドラフト会議が始まった65年を表している。

まず、ここ8年はパリーグが連覇している。確かに最近はパリーグが強い。ここだけ見れば、リーグ間格差があるといってもいいかもしれない。

逆に、70年前後にはセリーグが9連覇している。巨人V9時代だ。この頃はセリーグというか巨人が圧倒的に強かったのだろう。
その後はセパがほぼ均衡している。最大でも4連覇だ。
なぜそうなったかといえば、ドラフトの効果(戦力均衡)が出てきたからじゃないかと。ドラフト導入から約10年、ちょうど選手が代替わりした頃と考えれられる。

一方で、指名打者制が始まった75年以降はといえば、少なくともここ8年のパリーグ連覇までは差があるとは言えない。
指名打者制がリーグ間格差の原因だと仮定したとして、その効果が表れたのは2013年で、制度導入から38年もかかっていることになる。

交流戦をみても、効果がでるまで35年

一方、2005年から始まったセパ交流戦はどうか。

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これまでの交流戦の優勝チームと、単年と通算の勝敗を表にしてみた。

優勝チームだけ見れば、パリーグの12勝3敗で圧倒的にパリーグが強い。通算の試合の勝敗で見ても、パリーグの勝率は.551、132も勝ち越している。だがよく見てみると、明らかにパリーグの勝ち越しが多くなっているのは2010年以降だ。
指名打者制がリーグ間格差の原因だと仮定したとしても、その効果が表れたのは2010年、ということになる。制度導入から35年も経っている。

さらに、これまでセリーグが3回優勝している(12年14年の巨人、18年のヤクルト)が、それはいずれも2010年以降、パリーグが大きく勝ち越すようになってからだ。
リーグ間格差があるとすれば、これだけパリーグが勝ち越しているのに、セリーグのチームが優勝するほど勝てるのもおかしいのではないか?「たった24試合(あるいは18試合)ならフロックもある」というなら、日本シリーズなどたった7試合しかないのだから、もっとフロックがあっても良いのではないか?このあたりはどう説明してくれるのだろうか。

セがパに追いつくのは、2055年?

以上のように、指名打者制がリーグを強くする効果があるとしても、それが現れるのには、少なくとも35年はかかっていることになる。
今からセリーグが指名打者制を導入しても、パリーグに追いつくには35年かかる、つまり2055年にようやく追いつくことになる。
その間に選手は何世代入れ替わっているのか?それで本当に効果があると言えるのだろうか?

もちろん、選手の分業制が進んだり、戦術が進化したり、選手の全体的な能力が上がったり、と色んな要素があるので、一概に効果がないとは言えないが、少なくとも指名打者制にリーグレベル向上の効果があると決めるだけのデータはないんじゃないかと。

アメリカでは、指名打者制の影響なし

指名打者制の元祖はアメリカで、日本より2年早い73年からアメリカンリーグが採用している。
その73年以降のワールドシリーズの対戦成績は、アリーグの24勝22敗でほぼ五分。ここ10年に絞れば、アリーグは3勝7敗で負け越している。
2000年前後にはアリーグが4連勝(無敗)で制覇している年がいくつかあるがが、同一リーグの連覇はヤンキース(アリーグ)の3連覇が最大で、現在の日本のように同一リーグが何連覇もしてはいない。

また、日本の交流戦にあたるインターリーグは、2004~17年は14年連続でアリーグが勝ち越している。中には54も勝ち越している年もある。しかし、2018~19年はナショナルリーグが勝ち越しており、19年は32も勝ち越している。そして、2020年は完全に五分だ。
しかもインターリーグは日本の交流戦と違って、全チームと対戦するわけではなく、物理的に近いとか、歴史的に因縁があるとかで、結構適当に決まっている。なので、どちらのリーグが勝ち越すかは、その年の対戦カード次第となることが大きい。

日本とは野球の質が違うし、選手の契約形態なども異なるので、単純な比較はできないが、少なくともアメリカでは指名打者制による格差、というかそもそもリーグ間格差がないと言えるのではないか。

単純に、ソフトバンク黄金時代なだけなのでは?

日本シリーズのパリーグ8連覇、交流戦優勝はパリーグの12勝3敗、と圧倒的にパリーグが強いように見える。
だが、よくよく見てみると、日本シリーズ8連覇のうちの6つが、交流戦12回優勝のうちの8つがソフトバンクによるものである。

これってパリーグが強いんじゃなくて、ソフトバンクが強いだけなのでは?
年俸総額は12球団トップ、FA市場にも積極参加して、まずは有力選手を囲いこみつつ、育成枠にも多くの選手を抱えた上で、多くの選手をレギュラークラスにまで育て上げている。そら強くなるでしょうと。

古くは巨人V9時代、80年代の西武黄金時代、そして現在はソフトバンク黄金時代だが、どちらもそのときの制度の範囲内でやっている。
ソフトバンク以外の球団、特にセリーグの球団は、ソフトバンクの球団経営や育成方針を見て、同じかそれ以上のことをするようにした方がいいんじゃないかと。

もう少し、理由を固めた方がよいのでは?

指名打者制は確かにピッチャーは投球に専念できるし、試合に出場できる選手が1人増えることから、出場機会が増え、選手の育成に寄与することは確かだろう。
だが、指名打者制がなければ、監督の采配、特に投手の起用法が勝負を大きく左右することになる。采配次第では戦力的に劣るチームでも勝てる可能性が高くなる。
ただの殴り合いがいいのか、戦術などを駆使する試合がいいのか、それは人それぞれだと思うが、後者が好きな人も(少なくとも日本には)多いと思うのだが。
それに、投手が打席に立ち、場合によってはヒットやホームランも打つというのが、セリーグの魅力の1つではないのか?と自分は思うのだが。

指名打者制導入の議論をするのは全然構わないと思うが、現段階ではリーグ間格差の是正という理由しか見えていないし、その理由も根拠が薄い。そんな状態で急いで導入するほどの制度なのか?という気がしてならない。

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