見出し画像

コンクール審査員を経験して思ったこと

 前回の記事から3ヶ月が経過していました。

 この間にいろいろありました。演奏関係の仕事は本格的に戻り、7月~8月にかけてはコロナ以前を超えるような忙しさでした。その間に母が我が家の近くに越して来たので引越しを手伝ったり、子供たちを一人部屋にするべく大規模な家庭内引越しを敢行したりして3kgも痩せました。
 子供たちの夏休みに合わせて休みを取り、家族で湘南に住む父の家に行って3日ほどのんびり過ごしてリフレッシュ。

 そんな夏休み明け、日本演奏家コンクールの審査員を務めてきました。

 コントラバスコンテストを主催する僕ですが、実は審査員は未経験。しかもヴァイオリンからコントラバスまでの弦楽器部門とあって、最初オファーを頂いた時は「コントラバスだけならまだしも、ヴァイオリンの審査なんて出来ない」「大御所の先生方とご一緒させて頂くような立場にない」とお断りしたのですが、熱意のあるお誘いのお言葉に「コンテストの主催者としてコンクールの雰囲気や方法を見るだけでも経験になる、審査員の苦労を知る事も出来る」と考えてお請けしたのでした。

 正直引き受けてからは不安しかなくて、まず日本を代表するようなレジェンド級のソリストが揃う審査員の顔ぶれに、僕のような無名でフリーの、しかもオーケストラ奏者が入る事には違和感しかありませんし、技術でコントラバスを遥かに凌ぐ他の弦楽器なんて、みんな上手に聞こえるに決まっていると思っていたので、講評なんて何を書けば良いのだろうと思って悩み、とりあえずコントラバスコンテストの審査員講評が手元にあったので、一通り読み込んで使えそうな言葉を頭に入れておきました。

 さて、いざ審査会場に到着したら案の定、名だたるレジェンド級のヴァイオリニストがいらっしゃって早くも萎縮したのですが、皆さん母と仲の良い方だったので「え~加寿子ちゃんの息子さん?」などと気さくに話して下さって少し緊張が和らいだのでした。ここでも母の偉大さを思い知ることに。

 審査が始まってから、僕が音楽家の家庭に生まれ育った経験が活かせる事に気づきました。何しろヴァイオリニストだった祖父のレッスンを耳にしていたので曲の知識があり、かつ幼馴染でもあるフランク・ペーター・ツィンマーマンや佐藤俊介君の演奏をずっと聴いてきたので世界トップクラスの音楽を知っている。また、これまでにオーケストラで共演してきたヴァイオリニストたちの演奏が記憶に刻まれているので、聴いていて「もっとこうしたら良いのに」と感じる部分がたくさんありました。

 ちなみに、コントラバスコンテストの講評はほとんど参考になりませんでした。というのも、コントラバスで指摘されていたような技術面について、ヴァイオリンの生徒さんは中高生の段階で既にほとんどクリアされていたんです。自ずと講評は音楽面、音色面そして楽器の鳴りなどの指摘中心となりました。

 審査は1人100点満点で80点が合格ラインと言われました。この日は2次予選だったので、80点を突破した人が本選出場資格を得て、平均が高ければその中で審査員の話し合いとなる訳です。
 この100点というのが難しい。人によって基準を何点に置くかが分からないので、僕は最初の中学・高校部門で最高85点、最低75点の中で審査しようと決めていました。出場している時点で称賛されるべきですからあまり低い点数はつけたくない、しかし90~100点というのはスペシャルな存在であって欲しいので、特別に素晴らしい演奏があったら90点をつける、という発想から基準を決めました。
 審査をしながら点数を何度も書き替えていくうちに自分の中での評価基準はよりしっかりしたものになったように思います。審査員の耳が出来上がっていないトップバッターは不利と言われますが、後から点数は修正出来ますから、そこまで違いは無いかもしれないですね。

 さて、審査を終えてみて、やはり他人の演奏に点数をつけるというのは本当に難しいと感じました。自分の演奏を棚に上げなきゃやってられないなというのが素直な感想です。
 それから、開始1、2分でだいたいその人の実力が分かるというのも本当ですね。後から評価を覆すのはかなり難しい。惹きこまれるような演奏をする人は最初から雰囲気が違いました。

 その他審査方法、会場の雰囲気なども含め、コントラバスコンテストとの違いや共通点を発見する事が出来たので、継続すべきところは継続し、改善出来る部分は積極的に変えながら、コントラバスコンテストをより良いイベントにしていきたいと思った1日でした。

 審査員という役割についても、最初は「今回限り」という決意で引き受けたのですが、これはかなり自分の勉強にもなりましたから、またお声がかかるような事があればやらせて頂き、全力で務めさせて頂こうという方向に考えが少し変わりました。

 最後の審査会議が終って談笑していたら、落としたペンを拾おうとした瞬間にスーツのズボンのお尻が破けるというハプニングに見舞われ、緊張感に包まれた帰路となったのはご愛敬でした、、、
  
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?