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意外と深い松脂のお話。

 コントラバスの松脂についてのお話。

 私はこれまでにカールソン、コルシュタイン、リーベンツェラー、オールドマスター、アルシェといった松脂をメインに使ってきました。
 他にもポップス、ピラストロ、オーク、ロイヤル・オーク、ヤーデ、ペッツ、ペッツプレミアム、ニーマン、ハイダージン、ベルナーデル、アラスカ、スーパーセンシティヴ、シャーマンのヴァイオリンの松脂などを試した事があります。いったい幾ら注ぎ込んだのでしょう・・・。

 プロ、アマチュア問わず王道と言われるのはカールソン、コルシュタイン、ポップスですが、私はポップスが苦手です。引っ掛かりが良いので気に行っているプロ奏者は多いのですが、柔らかくてすぐに溶けるし、弾いているとすぐに落ちるし、何よりポップスを塗った時のガリガリした音色が嫌い。

 楽器を始めて最初に使ったのがカールソンでした。吹奏楽部で「これを使うといいよ」と勧められたのがカールソンだったんです。今でも、松脂に迷ったら一度カールソンを塗って原点に経ち返るようにしています。

 一番長く使ってきたのがコルシュタインの山本オリジナル。松脂の箱に赤いシールが貼ってあるヤツですね。これはもう20年近く使っており、今でもメインの選択肢ですが、素材が変わったのか、最近のものは感触が全く違うので、私は未だに20年モノのコルシュタインを使っています。「無くならないの?」と聞かれるのですが、もともと私はあまり松脂の力に頼らずサラッと弾くタイプなので、あまり量を必要としません。夏場なんか2週間くらい上塗りしない事もあります。
 楽器屋さんに「松脂は3年で成分が失われる、20年も同じのを使うなんて信じられない」と言われましたが、20年経った今でもこの松脂を超える手応えの商品には出会っていません。

 次に長く使っているのはリーベンツェラー。これはベルリンに留学していた頃に使い始めました。当時はベルリンフィルのコントラバス奏者たちの多くがフレクソコアのソロ弦をオーケストラチューニングで張り、松脂はリーベンツェラーを使用していたので、そっくり真似ていました。このセッティング、音色は柔らかいし響きが豊かになって、弾いていても気持ち良いのですが、吹奏楽にはちょっとパワー不足かもしれません。
 最近はコルシュタインを薄く塗り、その後、曲によってリーベンツェラーのゴールドやラピス、オールドマスターやアルシェを塗り重ねて使うようになりました。
 これも前述した楽器屋さんに「松脂の重ね塗りをする人が理解出来ない」と言われましたが、明らかに感触は違います。こればかりは感覚の問題なので、分かる人には分かる、というところでしょうか。
 ちなみに、違う楽器屋さんには「音色は松脂で決まるから、重ね塗りは正しい」とも言われた事があります。認識は人それぞれなので、自分の感覚や感触を信じるべきだと思いますね。

 松脂の保存については、私の著書でも述べている通り、コンビニのビニール袋を丸く切って包み、ケースに入れるようにしています。ある友人は「眼鏡ケースに入っている布がベスト」と話していましたが、これも人それぞれ。
 最近では「ロージンセーバー」という、容器の中を一定の湿度に保つことで松脂の乾燥、ひび割れを防ぐ専用の保存ケースも発売されておりますが、これ実は手巻きタバコの保湿剤を使用していて、この保湿剤はネットで5個セット1000円くらいで入手出来るので、それを松脂の容器に入れておけば良い訳ですね。

 松脂は弓の毛との相性もあります。楽器屋さんが「湿度が高くなると突然毛替えのお客さんが増える、その時期を耐えれば元に戻る物が多いんだけど・・・」と話していましたが、私自身、その時期に迷っていろんな松脂に手を出す傾向にあります。この数年同じような事を繰り返し、「結局はいつもの数種類に戻る」と分かったので、最近は落ち着いてきました。

 吹奏楽部の指導に行くと、とにかく「大きい音」を求められるあまり、松脂をベタベタ塗り過ぎて弓の毛は黒ずみ、弾くとガリガリ汚い音しか出ないといったケースによく出会います。
 松脂の量はほどほどにして、右手の技術でたくさん弦を震動させ「ブーン」という「空気、風を含んだ響き」を出してあげるのがコントラバスの仕事。ガリガリ弾いた音は、客席で聴くと細くて芯の強いミンミンした音になって耳障り。この辺りは「コントラバスは弦楽器特有の響きを出すために吹奏楽に加わっている」という顧問の先生の理解も必要だと思いますね。「大きい低音」が欲しいならテューバを増やせば良いんです。

 よく「今日はガリガリ、ゴリゴリ弾いてやるぜ」というツイートなんかを見かけますが、「あ~この人は汚い音なんだろうな」と想像してしまいます。本当にコントラバスらしい音を出そうと思ったら「ブンブン」が正解なんじゃないかなあ。

 ちなみに先日、吹奏楽コンクールを聴きに行きましたが、「吹奏楽ではコントラバスが聴こえない」という一般論は全く当てはまらないと感じました。きちんと奏法を学んでいないと思われる生徒さんの音ですら、2階席でもきちんと聞こえたので、コントラバスが聴こえないという人は単純に「弦楽器の響きを聴き取る事が出来ていない」だけなんじゃないかなというのが私の感想です。

 話は逸れましたが、美しい音色を出すためには弦と弓の毛と松脂の組み合わせ、そして何より音へのイメージと右手の技術が必要。どうしてもいろんな道具に手を出しがちになりますが、まずはイメージを持って練習する事を一番に考えてみては如何でしょう。

追記(2019/2/20)

 気に入っていた20年前のコルシュタインが残り僅かになってきたので、この半年くらい代わりになりそうな松脂を探していました。弦楽器の山本で個数限定で発売されたアルゼンチンのYUNBAはソロや室内楽向きでした。続いてたまたまネットで見かけて試したSalzmanSymphonyのNo.10は良いかもしれません。ガリガリ弾きたい人には向きませんが、ブンブン柔らかい音を出したい人にはおススメです。もう少し弾き込んでみようと思います。

再追記(2022/3/13)

 一昨年くらいから発売されたベスポークという松脂、こちらが結構良いかもしれません。硬さが20~60(数字が大きいほうが柔らかい)まで選べます。最初は2個セットで9000円という売り方をしていたのですが、最近はばら売りしてくれるところも出て来たようです。
 その他、一部コントラバス奏者の間では二胡用の松脂だったり、ペガサスという日本では入手出来ない松脂などが実験的に使われ始めました。
 最近の私はカールソンとペッツプレミアムを併用しています。
 
再々追記(2023/12/19)

 今年に入っての松脂事情メモ。変わらずメインはペッツプレミアムとコルシュタインのソフトを使用し、そこに薄く「光舜松脂」を上塗りするようになりました。
 この光舜松脂、前回の再追記で書いた二胡の松脂の製作者が洋楽器用に開発したものなんですが、これを最後に薄く塗るだけで音が豊潤というか、まろやかになるんです。もともとガリガリした音色が嫌いな私にはこれがかなりしっくりきます。本当はこれだけでも良いと思うのですが、日本のオーケストラはある程度近いところで音が聴こえないと評価されない傾向があるので、先に挙げた二つの松脂で芯を作り、光舜でカバーをするような感覚。あるコントラバス奏者の先輩からは「光舜と他の松脂を混ぜると音が出なくなる事がある」と忠告を頂きましたが、今のところその気配を感じないので自分の感覚を大切にしています。
 それから、もう一つ、ある職人さんが開発中の試作品の松脂も入手しました。めちゃくちゃ柔らかくてべスポークの50~60やポップス並みに粘度が高いのですが、ポップスより長持ちする。プロの間では口コミで少しずつ広まっているのですが、私は職人さんから「個人で製作していて生産が追いつかないので、あまり広めないで下さい」と言われているので、こちらにリンクを貼る事は控えておきます。今後少しずつ世に出てくるかもしれません。
 

  

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