地位活性化と動画活用1

なぜ、地域のPR動画は画一化していくのか?

2018年8月23日から24日にかけて、奈良県のNPO法人日本無形文化継承機構(ジッカ)さんにお招き頂き、奈良県立大学、天理大学、奈良女子大学の学生、地域おこし協力隊など、地元で地域づくりに取り組む方々を対象に、大和高原地域の魅力を発掘し、動画で発信するためのワークショップを開催しました。

この記事では、講座で提供したコンテンツのうち、下記の内容について紹介致します。

●地方からの情報発信が画一化してしまう理由
●幕の内弁当式動画の欠点
●見られる動画をつくる方法

まず、地方からの情報発信が画一化してしまう理由を、動画制作のコスト構造から解説します。動画を制作するには、大まかに下記のようなコストがかかります。

企画、制作、編集の3要素のうち、もっとも費用が膨れ上がっていくのが制作費です。
室内で撮れるかも知れない企画でも、室外に出ようとすれば、ロケハンが必要になり、そこに人を運ぶ車輛費や周辺環境が騒がしければ音声スタッフや照明スタッフも必要になってきます。動画を見た人が少しでもスマホやマウスを動かす手を止めてくれるようにするために、有名な俳優やタレントを起用すれば、そのキャスティング費用はもちろん、メイキャップやスタイリストなどの費用もかかってきます。このようにコストが雪だるま式に膨れ上がってきます。

果たしたい目的と限られたコストを天秤にかけ、最もその情報を届け・行動を促したいターゲットを絞り込み、必要にして十分なクオリティを発注者・企画者が知恵を絞らねばならないのですが、地方自治体がつくる動画の多くが、地方創生交付金という他者のお金で作られているためか、この知恵を必死に絞っていないように見えます。

そして、動画制作にはお金がかかるものという認識は、「せっかく動画をつくるなら、アレもコレも見せたい」という意識を働かせてしまいます。その結果、「色とりどりの四季、おいしい食事、豊かな自然あふれる」春夏秋冬の情報が詰め込まれ、老若男女誰もがターゲットの、地域名が変わっても特徴がわからない、幕の内弁当のような動画が出来上がってしまうのです。

幕の内弁当式動画には、当該地域の情報を発信して視聴者の目に触れる上で。そして、地域のファンを増やしたり、視聴者の行動を喚起する上で、「視聴される回数が絶対的に少なくなる」、「視聴者の文脈に合わない」、「自分事と感じてもらえない」という欠点があります。

春夏秋冬の情報が詰め込まれた動画を掲載・配信する媒体及び機会というのは、非常に限られます。日常的に発信するコンテンツではないため、自治体や同地の観光サイトのホームページに固定して掲載したり、SNSを運営していれば自身のタイムラインに一度流しておしまいです。仕組上、同じコンテンツを何度も配信することはできますが、同じ内容の動画を繰り返し見せられることを、視聴者は望んでいません。職場で同じ自慢話を延々と繰り返す上司や同僚をうっとうしく思う方は少なくないでしょう。インターネット広告のみならず、広告ではないSNS上のコンテンツでさえ、不快・不要と感じればそれを非表示にすることができる世界で、同じ内容の動画を繰り返し見せることは、自らの首を絞める行為です。

さらに、春夏秋冬、様々なアクティビティやスポットの情報が詰め込まれている動画は、汗がしたたる夏に見るのに相応しいでしょうか?あたたかい鍋が恋しくなる冬に見るのに相応しいでしょうか?そんな動画は視聴者の「行きたい、食べたい、体験したい」という気持ちを刺激するでしょうか?食べることは好きだけど、アウトドアのアクティビティを体験することは苦手という人に、その両方の情報が入った動画を見せることは、適切といえるでしょうか?

季節という文脈。趣味、好みという文脈がズレていては、その情報は自分にとって必要なものとユーザーに受け止めてもらうことは非常に難しい。ここにターゲットも絞れていないとなると、その動画は誰の行動も喚起せず、せいぜい広告出稿した力技で再生数だけを稼ぐだけの動画になってしまいます。

それともう1つ。webメディアやSNSに流れる情報流通量は、生活者が消費できる情報量を大きく超え、10年前に比べ圧倒的に情報が届きにくくなっています。繰り返しになりますが、そもそも情報が届きにくくなっている環境下で、ターゲットも趣味属性も絞らず、文脈を揃えることもしない動画は、お金の無駄遣いでしかありません。

この問題の対策はいたってシンプルです。

●制作する動画本数を増やす。
●視聴者との文脈度を上げる。

これらは共にこの問題解決の必要条件です。そして、次に紹介する施策を行うことで、この二つの必要条件を果たすことができます。

・ターゲットを分けて(絞って)動画を企画する
・(そのターゲットに合わせて)1テーマ1動画にする
・(それらの動画を)継続的に制作する
・その動画を出すのにふさわしい時期に配信する

この記事の冒頭に述べた動画制作コストの構造をご覧頂いた方には、この施策は実現不能のように感じるかも知れませんが、その動画の公開基準(クオリティ)をどのように持つかによって実現することができます。地方創生交付金などで制作されるシティプロモーション用の動画は、ホームページのトップで使用したり、広告で使用するとなれば、有名なキャストを起用し、高性能のカメラやドローンを使用。目にうるわしい映像効果などを駆使して、首長が納得するような高いクオリティが求めらるかも知れません。しかし、継続的に配信される、ブログコンテンツのような、webメディアのニュースのような動画に、そこまでのクオリティは必要ありません。

高いコストやスキルを駆使してプロがつくった動画と、県庁職員がiPhoneだけでつくった動画とのクオリティとその成果を比較するうえで、青森県庁の公式観光Facebookページ「まるごと青森」に掲載されている動画をご覧下さい。

これらの動画のうち、再生回数が1万回以上の動画と3000回未満の動画のどちらが、プロ・アマいずれがつくった動画かを当ててみて下さい。そして、そのクオリティ基準について考えてみて下さい。

これまでの幕の内弁当式の動画ではもったいなくて入れられなかった、地元の人だけしか知らない、それゆえ紹介する価値がないのではないかと思い込んでしまっている地域の情報を、ユーザーが見やすいよう最低限の編集をほどこし、コストをおさえて制作する。これにかかる時間的・費用的コストを下げることで、動画の制作本数と継続的な制作が可能になります。

次に、動画の本数を増やすためにお勧めしたいのが、動画の作り手を増やすことです。今回、奈良で開催した動画制作ワークショップは、上述のことを述べ、大和高原地域に関わる人々を作り手にするためのものでもありました。作り手を増やし、誰もがiPhone片手にいつでも動画を制作し、見てほしい人に旬な情報を届けることができるようになる。このワークショップは有償で提供しているため、その全てをこのブログで紹介することはできませんが、そんな状況をつくり出したいとお考えの方がいらっしゃれば、ぜひメッセージをお送り下さい。


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