【論説】合気道 大いなる遺産、そして、未来への掛橋

文・合気ニュース編集長 スタンレー・プラニン
 

(1994年4月 季刊『合気ニュース』100号より)
  ※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース』に掲載当時のものです。

 『合気ニュース』は本誌で百号を迎えました。今年は合気ニュース創立20周年でもあり、私にとっては二重の喜びの年です。本誌がこれほど長く出版されようとは・・・ 意外に思っているのは誰よりもこの私ではないでしょうか。今では『合気ニュース』は私のライフワークの感さえします。これまでのご愛顧を感謝し、今後もよりよい誌面作りに努力していきたいと思います。

 ご承知のように、私たちの関心は合気道にありますが、術理面だけではなく闘争の解決手段としての面にも関心を払っています。つまり開祖が道徳を重視して創始された合気道が本誌の拠点であるわけです。ですから当然、本誌が合気道技や思想を判断する時の基準は、開祖の合気道であり、同時に合気道の目指す未来が本誌の未来像でもあるのです。つまりそれは、”できる剣”を鞘におさめたまま平和な社会を実現させるというビジョンです。

 これまで「論説」の中で私は、今日稽古されている技および合気道諸流派で行なわれている真剣味の足りない稽古法について、批判的な立場をとってきました。このような稽古では、開祖の残された、天才的ともいえる武道は伝わらず、質が落ちていくばかりだと思えたからです。好きなように稽古する自由は誰にでもあります。しかし、今日稽古されているような合気道を見ると、はたして「合気道」と呼んでいいものか、疑問です。

 合気道開祖 植芝盛平

 ところが意外なことに、合気道は現在国内外で異常なほどの成功をおさめています。世界的にメジャーな武道のひとつとなり、ほとんどの先進国で「合気道」が日常で口にされています。柔道、空手、剣道などと異なり、合気道は富木合気道をのぞき、スポーツ形式をとっていないため、興味を湧かせる競技性に欠けるにもかかわらず、これほど普及し、稽古生の数でも全古武道の生徒数を上まわってさえいます。いったい、この魅力はどこにあるのでしょうか。

 これについていろいろ考えた末、二つの理由に思いあたりました。まず、合気道技特有の美しさです。他の武道のように激しく戦うこともなく、演武する二人がまろやかに動く。見ても美しく、なにか詩的なものさえ感じさせます。ここが合気道の前身である大東流合気柔術と根本的に違うところです。次の理由は、武道を平和の手段とする革新的な考えです。このような考え方は過去にも古武道に存在したのでしょうが、そうした高邁(こうまい)な思想はエリート武士階級の間に普及しただけで、足軽といった下層武士階級には浸透しませんでした。まして一般大衆にはなおさらのことです。また、今日稽古されている古武道でも武道を平和の手段とする思想は重要な要素となっていません。といって、古武道が(また現代武道も)精神性、自己の向上に力をいれていないかというと、そうではありません。強調はしています。しかし、それは技に反映されていないのです。これに反し高邁な思想が動きにはっきり現れ、技にも欠かせない要素となっているのが合気道なのです。

 このように、独自な技と思想によって、合気道は今日まで生き残り盛んになってきました。そこでもし開祖の技と理念が今日の合気道に今一度注がれたならば、その社会に与える衝撃たるや、たいへんなものでしょう。

 しかし、ことはそう簡単ではありません。「合気道は精神的武道だ」と口にするだけで、開祖を理解したような気になるのは間違いです。それには、師範や指導者こそが精神性を身をもって示さなければなりません。また、受けが馴れ合いとはっきりわかるやりかたで投げられる演武では、たとえ合気道が有効な武道であっても、人を納得させることはできません。スキがなく力強い、しかも抑制され、相手への思いやりをもった技を見せることが必要です。それでこそ、開祖が意図した合気道が認められるのだと思います。合気道の研究と普及にとりくんできた本誌としては、今後も上に述べたメッセージを誌上から読者に呼び掛けていきたいと思います。

 昨年来、本誌では『合気ニュース』英語版と日本語版の内容について、読者のニーズに応えられるよういろいろ模索してきました。この百号で、いくつかの新しい企画をスタートさせました。ご感想はもとより、ご意見、ご希望をぜひいただきたいと思っております。

 ところで、合気道家のみなさん、ここでご自分の合気道稽古を今一度振り返ってみたらいかがでしょうか? それには、まず開祖の研究をお薦めします。盛平翁のご子息吉祥丸道主は、伝記をふくめ開祖についての著書を数冊出されていますし、『合気ニュース』でもこの20年間に、開祖の生涯と技についてかなりの記事を掲載してきました。盛平研究の資料はこのように十分あるのですが、開祖について詳しく知る人はあまりいません。また、合気道に本格的に取り組んでいる方のために、合気ニュースでは1935年から69年(開祖逝去の年)までの開祖の技をビデオテープ5巻(現DVD『植芝盛平と合気道』全6巻)にまとめ提供しています。ぜひ開祖の技をご自分の目で確かめてみてください。

 最後に、稽古の活性化をみなさんに提案したいと思います。みなさんがこれから数年、いえ一生の場合もありましょう、護身や健康のために合気道を稽古するつもりでしたら、常にご自分の能力の限界に挑戦してみてください。合気道には修行によって人を成長させ、社会を改善していく力があります。開祖が合気道をそのように創始されたにもかかわらず、私たちが開祖の意図に添って稽古をしないというのは、恥ずかしいことではないでしょうか。みなさんの奮起を願ってやみません。

 次の20年がみなさんにも、合気ニュースにも、実りある月日であることを願って・・・。

 ―― 季刊『合気ニュース』 №100(1994年4月)より ――

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?気軽にクリエイターを支援できます。

どう出版

コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。