【論説】「合気道友好演武会」―― 演武会実行にあたる合気ニュースの舞台裏

文・合気ニュース編集長 スタンレー・プラニン
 

(1985年2月 季刊『合気ニュース』66号より)
※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース』に掲載当時のものです。

『合気ニュース』 66号表紙
写真は田村信喜師範


合気道友好演武会 

 これまでの長い経験から私たち合気ニュースは、理想主義と現実主義、この両方を合わせ持つ目で活動をしていかなければならないことを学びました。活動において理想面を強調するのは、愛や調和、生命への深い尊厳を重視した大先生の合気道の命ずるところだからです。しかし私たちは、政治や経済そして人格の異なるいろいろな人たちとの関わりあいが不可避な現実のなかで生きており、また活動しているのです。ですから上に述べたこととは逆に、実用主義的な態度も、ある程度まで必要になってくるわけです。これと同時に考え合わせれば、私たちの活動に対しての反響が長年にわたり圧倒的に肯定的であるのにもかかわらず、こうした研究活動やそれに携わる私たちの非排他的態度に、今もって眉をひそめる方がいらっしゃるということを、読者の皆さんはお気づきになられるはずです。

 異なる組織からの、そして明らかに異なるスタイルを持つ一流の先生方を一緒にしようとする計画は、必ずしも総ての人、団体から喝采を受けているわけではなく、まだまだ多くの困難が私たちの前に立ちはだかっています。この酔いがさめるような現実を前にして、「1985年合気道友好演武会」の計画にあたる私たちの希望と興奮が、いかにして縮小を余儀なくされてしまうか、読者の皆さんは、上記したことを心に留めていればご想像できると思います。

演武会への様々な反応

 この演武会が考案されたとき、私たちは合気道界の内外にいらっしゃる多くの方々に助言を求め、そのご意見を参考にさせていただきました。案に対しては、意外に幅広い反応がありました。即座に賛成をしてくださった方もいれば、心情的には支持するが、そうした行事を行なうには現時点では時期が早すぎ、結局徒労に終わってしまうだろうと考えた方もありました。またある方は、合気道の歩むべき正しい方向の逆を行くものであり、大先生が賛成なさるような活動ではないとしてこれを激しく非難なさいました。面白いことにその方は、そうしした種々の個人を一つに集めることは、水と油を混ぜ合わせようとするようなもので、不可能であるとおっしゃるのです。これに対し私たちは以下のことを申し上げなくてはなりません。私たちの願いは、人と人を混ぜ合わせるということではないのです。それよりもむしろ、出席される先生方の一人一人に、長年の経験や合気道に対するそれぞれの御意見を互いに分かち合えるような、そんな和やかな場を提供したいのです。正直なところを申しますと、心の奥底で私はこうした立派な先生方も、本当はこの演武会を、お互いの技を吟味するまたとない機会だと考えていらっしゃるのではないかと思っているのです。合気道友好演武会は、実に論争の絶えぬもののようです。仕方がないですね。

出席してくださる先生方

 お蔭さまで、出席してくださる先生方が最終的に決定致しました。以下の6人の先生方を合気道を始められた順にご紹介いたします。砂泊かん秀先生、斉藤守弘先生、西尾昭二先生、黒岩洋志男先生、小林保雄先生、五月女貢先生。この場を借りて私は、演武会に参加することを承諾してくださった先生方にお礼を申し上げると共に、その勇気と誠実さに感謝致したいと思います。このような独自の演武会への参加を決めるまでには、深い思慮が必要であった場合もあることを、私たちは知っておかなければなりません。

説明演武及び映画会

 先生方は、それぞれが一番ふさわしいと考える形で、詳細な説明演武を披露して下さいます。その内容や必要時間には何も制限は加えられておりません。従って演武会の部は、2時間から3時間にわたると思います。言うまでもなく観客の皆さまには、こうした6人の独自な、そして刺激的な合気道を存分に楽しんでいただけると私は確信しております。

 説明演武に引き続いて行なわれる映画会では、私たちの映画資料にある素晴らしい大先生の16ミリフィルムを何本かご紹介致します。またこれに続き、同会場内の会議室においてパーティを開きます。これにより観客者の方々が、参加された先生方に直接お話しする機会もあることでしょう。

 最後に、演武会の計画実行にあたる私たちの目的を明確にしておきたいと思います。これは決して「合気道の統一運動」を目指すものではありません。何故なら私自身そうした統一された合気道を好まないからです。そのような統一された条件下では、個々別々の道場が、ある種の強力な組織の権力下に縛りつけられるということが考えられます。そして、守るべき一連の規則や規制、基準がしかれ、会費制度が課されるのです。集められたお金は費やされ、下された決定は公布され強要されるのです。そうして、こうした管理体制を悪用するあらゆる機会が生じます。私個人としては、相互のコミュニケーションを発展させるための土壌を築くことがもっと大事であると思っています。そして情報を自由に交換し普及させていく媒体となり、また、かけがえのない合気道の伝統を守っていける道を築いていくことです。互いが分離されてしまうから、本来持つビジョン(理想)が曇ってしまい、そこに敵意が生まれるのです。上記した目標は、このような分裂状態を設けることにより達せられるのではなく、むしろこうした障害を取り除くことにより成されるのです。もちろん、自由な条件があるからといって、異なる信念を持つ方々が対話をし、親しく交際をするようになるとは限りません。しかし、もしそれを望めば誰にも咎められることなくそう出来るということなのです。これが私たちの目指すところであり、「1985年合気道友好演武会」は私たち合気ニュースの証であります。

  ―― 季刊『合気ニュース』 №66(1985年)より ――


季刊『合気ニュース』66号 論説ページ 
当時は英語と日本語のバイリンガル版だった

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?