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阿部醒石 天之武産塾合気道道場長

合気道は小戸の神技

「合気道も書も、芸の極地に至るのが禊の行」――禊の道に入って60年、また書道家として合気道家として半生以上を過ごした阿部師範は語る。後半は、禊の行、盛平翁の道歌と書を阿部師範の解説つきで掲載した。
(取材 平成14年4月16日 吹田市の道場にて)
※所属や肩書きは、季刊『合気ニュース 134号』に掲載当時のものです。



古代の素朴な生活にもどる“禊(みそぎ)”

―― まず、禊についてですが、阿部先生は以前の会見(季刊『合気ニュース』105号)で、(*)川面先生の禊行に触れられて、禊というのは、古代の日本人が日常やっていたことを神前で行じて形式化したものであると。つまり、インドからきた仏教的なものとか、中国からきた儒教的なものではなく、日本にもともとあって誰もがやっていたもの、それを形づけたものであるとおっしゃっておられますね。そうしますと、それは今までどのような形で伝えられてきたのですか。

【*川面凡児:1862~1929。大分県宇佐郷に生まれる。哲学者。15歳の時、宇佐八幡宮の背後にある馬城山にこもり修行を始める。以後、奈良朝以前の古神道に流れていた禊の行を復活させ、仏教や儒教の影響を受ける以前の日本古来の行法を集大成させた。1906年、稜威会を設立し、行法を伝えた。】

 今の人が氏神さまにお参りする前、手を洗い、口をすすぎます。また朝起きたらまず顔を洗って歯を磨きますな、それのもうちょっとていねいなほうかな。つまり、それをもうちょっと広げたのが禊です。それにはこういうふうにしたらいいというふうな形が作られたわけです。その形が行法(祝詞奏上 水の行 振魂の行 鎮魂の行 天の鳥舟の行 雄健雄詰の行 減食の行 分魂統一の行)として伝えられてきた。その行のはじめと終わりには二拝四拍手の拝神の行があります。禊の行となりますとそれは実にきびしく、命がけで行じます。

―― 禊行についてお話し下さいますか。

 まず、減食の行についてですが、一般の人が辛いと思うのは、水の行やね。しかしほんとにつらいのは減食ということ。断食とは違います。断食はものすごく気持ちいいから、1週間やったらもうすこしやろうと思ってやるわけね。しかしそのあとすぐ食べたら胃がものすごく荒れてしまう。だから断食を1週間したら、2、3週間かけてもとにもどさないと、死んでしまう場合もある。それで合気道では、本当は断食をすればいいのやけど、あとがものすごくむずかしいから減食です。
 減食は一日8勺(1合は10勺)を2食に分ける。副食は梅干かごま塩。もちろん玄米で。だから普通食からいくとものすごく辛いわけよ。それに耐えるということね。玄米を上手に炊いたら2杯分ある。それでごま塩や梅干だったら、うんとおいしい。これがほんとのおいしさ。ごはんのおいしさや。今の日本人はおかず(副食)ばかりで主食(玄米)を少しも食べてないわな。減食の行は1週間のうち、三日減食したら、いちおう自分の肉体も精神も古代人のようになります。わたしたちの先祖の生活のようにな。

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