見出し画像

Apple Vision Pro発売から読み解くAppleのヘルスケア戦略

Apple Watch、Airpodsに加えて今月発売されたApple Vision Pro。Appleはこの3点セットでヘルスケア×ウェアラブル×データの世界最強ヘルステックインフラになろうとしています。

Apple Watchは生活習慣やバイタルサインの測定という文脈を中心としてウェアラブルの火付け役としてここ何年も注目を集めてきましたが、Airpodsのヘルスケアへの応用も近年話題になりつつあります。去年には今後脳波測定も可能になるのではと発表されており、益々神経系への応用が期待されているところです。

そして3点目となるのがApple Vision Pro―究極のエンターテインメントデバイスと謳われていますが、ヘルスケアでの応用ついても見逃せません。目・声・皮膚・耳・体動など様々な体の情報を収集することが可能となる中でも特にVision Proの特徴として注目されているのは「アイトラッキング」と呼ばれるユーザーの目の動きを追跡して映像に反映する機能です。本記事では、この技術を軸とした医療への活用例や今後の展望等をご紹介します。


手術現場の業務効率化


一つ目は手術への活用です。例えば整形外科の脊椎手術の領域では、CTやMRIで撮影した画像を手術中の患者さんの身体に重ね合わせ、脊椎のどこを手術しているのかわかりやすくするような取り組みがOssoVRUCSF整形外科などVision Proとは異なるデバイスですが既に実現しています。他にも整形外科領域に限らず手術全体をAI×VRでコーディネートするプラットフォームとしてeXeX等もあり、Vision Proでもこのような手術支援がなされるようになると予想されています。

また、手術時の麻酔科医への支援も期待されています。麻酔科医は患者さんの身体の状態を観察しながらバイタルサインのモニターを複数見るなど、常に様々な方向を見て情報を統合する必要があります。Vision Proを活用することで、各情報がヘッドセット上に統合され、患者さんの身体の方向を見ながらも異常を検知しやすくなるなど、手術現場の効率化・安全性の一層の向上が期待されます。

診断・治療


VRを活用した疾患の治療は近年各所で話題ですが、特に注目を集めているのが神経・精神疾患領域です。例えばAppliedVRという慢性疼痛のVR治療を行う会社は、痛みの軽減に役立つリラックス方法等のセッションをその内容とするVision Pro向けのアプリ開発を行っています。また、ロサンゼルスにあるCedars-Sinaiという病院はVRを用いたメンタルヘルス向けチャットボットXaiaを発表しました。

他にも、認知症、脳梗塞、めまい、PTSDなどの診断・治療の応用が広く期待されています。Vision ProのようなVRデバイスは通常の液晶画面に比してより没入感のある体験を提供できる結果、患者さんの神経や精神への働きかけが重要な領域において特に期待が高まっています。

また、いずれに領域においても、これまでは専門医しか診断・治療できなかった疾患が、Vision Proを活用することで非専門医でも扱えるようになることが期待されています。例えば、眼科が専門でない医師が眼の検査をVision Proの補助下で行うようなイメージです。医師不足やバーンアウトが世界的に叫ばれる中、医療従事者のスキル拡張という側面にも注目です。

医学教育


医学教育においては心臓の構造など複雑な身体の仕組みを立体的に把握することが重要となりますが、これはまさにVRの得意領域であり、Vision Proの活用も積極的に検討される見込みです。例えば、医学系出版社・データ分析会社として有名なElsevier社は心臓の構造や色々な心臓の病気になった場合の心臓の様子のシミュレーションアプリを開発しました。

他には、Boston Children's Hospitalによる、手術や検査など医療機器を使うシーンのシュミレーションができるようなVRアプリCyranoHealth、CTやMRI等の2Dの画像と3Dの人体を行き来することで解剖への理解を高めたり診断率を向上するアプリVisage等も気になるところです。

より実戦に近いかたちで医学教育を行うことで、医療従事者が自信を持ってより安全に施術できるようになることが期待されています。

今後の課題・展望

以上のように様々な活用方法が期待されるVision Proですが、Appleはプライバシー保護の観点から第三者の開発者にアイトラッキングのデータを公開しておらず、この点は今後の発展にあたって大きな課題として残っています。

また、価額も$3,499と他のVRデバイスと比べて高額であることから、どこまでマスユースに活用されるかも懸念されるところです。Airpodsは最初から比較的手が届きやすい価格で販売することで、高機能ウェアラブルよりはマスでの普及を優先するという戦略を取ったとのことですが、Vision Proについては逆の戦略となります。

Apple Vision Proは個別化医療のための包括的モニタリングツールとしての地位を確立できるのか。様々なヘルスケア・ウェルネスソリューションのための必須インフラとなれるのか。

課題もまだまだ残されており、発展途上の分野ではありますが、医療現場での活用のみならず、より広くコンシューマー向けのVRを活用したヘルスケアサービスの発展も期待されるところであり、今後のVR×ヘルスケアの発展から目が離せません。

参考文献:


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?