なんて悪意に満ちた平和なんだろう

峯田和伸は歌った。幸せそうな恋人たちを電動ノコギリでバラバラにしたい。世界のどこかにきっと僕を待っている人がいる。あいどんわなだい。あの子に1ミリでもちょっかいかけたら殺す。高校時代の僕にとってはその言葉が全てで、神聖で、進むべき道標だった。峯田だったらこんな時どうするかと考えて、一番相応しいと思った方向に進んだ。辛いことがあると峯田に救いを求めたし、峯田は答えてくれているような気がした。

峯田にどれだけ影響を受けたかというと、こんな言葉で語るべきではないのかも知れないけど「青春」の言葉に尽きる。だからみんなと遊んで分かれ道で一人になった時、イヤホンをつけて聴いていたし、同じく銀杏が好きな友達としか共有できなかった。みんながわかるものでなくていい、俺らだけがわかっていればよかった。だから街中で仲間と銀杏の曲を合唱してる大学生は地獄に落ちればいいと思っていたし、楽しそうに歩く高校生カップルとすれ違ってはどうせ銀杏なんて知らねえだろざこがと心の中で罵っていた。非常に擦れた高校生だったことは否めないけど、それくらい銀杏が、峯田が言うことが全てだった。

先日のレコードストアデイにて、銀杏BOYZのデビューアルバムのLPが再販された。第三次世界大戦とDOOR。買わないと言う選択肢は考えられない。絶対に買おうと意気込んで電車に揺られて1時間強、吉祥寺へと向かった。

銀杏BOYZは今回のRSDの中でも目玉商品の位置付けで、目当ての人も多かったからしく開店から1時間経ったタワレコやhmvでは売られていた形跡すら発見できなかった。完全に舐めていたとしか言いようがない。ただココナッツディスク吉祥寺は12時開店なので、確実にゲットするならここしかないと11時40分に店の前へ向かった。ついた時点で20名くらい前に並んでいたけど、ギリギリ買えるだろうと踏んで列についた。

定刻より早くオープンした店内へと数名ずつ入っていく。7名を超えた時点で入店が制限されるから前の人が出ていくまで列について待ち続けた、そうして第三次とDOORを抱えた人が店から出てくる。この時の感情は青春を銀杏BOYZとともに過ごした人にしかわからないだろうけど、涙が溢れるシーンだ。どんな青春映画だって収めることができないだろう。もっとリアルな僕らの青春がそこにあった。

そうして退店していく人の中に、ちらほらカップルや男女グループの姿があった。袋を見ながら笑い合って、仲睦まじく歩いて去っていく。大人気ないと言われたらそれまでだけど、僕はそれを見て信じられなかった。キレてしまった。その光景の意味がわからなかった。

ライブハウスにカップルでくる。それはごく一般的なことで音楽好きなカップルなら理想のデートコースだろう。ロックやパンクのイベントでもよく見かける。レコード屋にだってたまにいる。ただそれについてなんとも思うところはないけど、銀杏BOYZのレコードを買うカップル。これだけは違う。何度考えたって許せない。

銀杏BOYZには「夢で逢えたら」、という一番有名であろう曲がある。夢で逢えたら、だ。会えてるお前らにどうこの曲が刺さる? 君に彼氏ができたら悲しいよ。そういう曲をどう理解してる? 違うんだよ。銀杏の良さってこんな俺があの子に告白したらひかれちゃうよなとか、もしかしてあの子が好きになってくれて駅前で告白されたりして、とか妄想したりするあの刹那にあるわけだよな。ダサいやつのためのものなの。グループで来てるやつもそう。銀杏は一人で買いに行って一人で家に帰って酒飲みながらきくもんなのよ。例え今絶好調で友達も彼女もいるとかいう状況でも一人で行くって礼儀みたいなもんじゃないですかね。

その光景に目を伏せて店内に入って、残り数枚の平積みを手に取ってそそくさとレジを済ませ店を出て、まっすぐコピスの屋上へ行ってタバコを吸った。青春時代から変わらない煙のキツさがいつもよりキツく感じた。帰って聴いたLPは想像以上に良かった。

でも一生、カップルで銀杏BOYZを聴く奴らだけは許せそうにない。


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