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リーキーブレインって知ってますか?

こんにちは、Dr.K(ドクターコージ)です。
予防医学の世界では当たり前の様に語られる「リーキーガット」あるいは新しい「リーキーブレイン」と言う疾患概念を知っていますか?
学会やWHOなどに認定された正式な病名では無いので、知らない医師も多い疾患概念です。様々な不調や病気に関与していると言われているので、noteにまとめてみました。
これを知っておくと、長年不調に苦しんでいる症状に効果があったりするかも知れません。長くなり分かりにくいかも知れませんが、ご興味ある方はぜひ読んでみて下さい。


【「リーキーガット症候群」について】

コロナ禍以降、免疫機能への関心が高まり注目を集めているのが「腸内細菌」ですが、私たちの健康を維持する上で重要な障壁となる機構が、小腸上皮に存在することが知られています。小腸上皮細胞同士は、物質を通さない様に「密着結合 tight junction」と呼ばれる強固な結合をしており、体内に不必要な異物や高分子量物質が腸管から血液中に移行することが出来ない様になっています。
そして小腸上皮細胞と同じ様に、不要な物質が脳や脊髄液内に入りこまない様に脳の毛細血管にも同様の機序があり、「血液脳関門 blood brain barrier」と呼ばれています。

「リーキーガット症候群 Leaky Gut Syndrome」は日本語で「腸管壁侵漏症候群」とも呼ばれる疾患概念で、「小腸上皮細胞の密着結合が過剰に緩んでしまうことで、異物が体内に入り込んでしまう状態」のことです。
異物とは、細菌やウイルス、真菌(カビ)、未消化栄養素など、本来腸粘膜を通過して血管内に入ってはいけない物の総称です。これらが体内に入ることで様々な不調を起こしていると言う病態理論仮説が、予防医学分野で近年注目を集めているんです。「リーキーガット症候群」自体に特有の症状がある訳ではなく、様々な不調や悪循環の引き金として危険なんですね。

【リーキーガット症候群の原因「ゾヌリン」とは】

小腸上皮細胞から「ゾヌリン」と言う蛋白質が分泌されると、細胞同士の密着結合を緩ませる作用があります。ゾヌリン自体は必要な物質であり、適度に分泌され働く分には、栄養素の吸収などに役立っています。

このゾヌリン分泌を高める物質として、小麦に含まれる「グリアジン」や加工過程で出来る「グルテン」が知られていますが、完全にダメと言うのでは無く、継続的に過剰摂取することで密着結合が必要以上に緩んでしまうことが問題です。とは言え、全てが小麦のせいというわけではありません。
小麦以外に、アルコール、カフェイン、唐辛子成分、カニやエビ等の殻に含まれるキトサン、大豆のサポニンなども密着結合を緩めてしまう食品として報告されています。
その他、食物アレルギー、腸内細菌叢バランスの乱れ、感染症、化学物質などの環境毒素、精神的なストレスなども、小腸上皮の障壁機構を弱めてしまい、リーキーガット症候群を引き起こす要因とされます。
花粉症やダニアレルギーの様な症状も、アレルギーの原因となる抗原蛋白質が。緩んだ小腸上皮間隙を通過して血管内に入ることで起きてしまうとも言われています。本来寄生虫に対抗する為のIgE抗体が暴走してしまう、と言う側面もあるのですが、話すと長くなりますので別の機会に。
また、小麦に関しては、品種改良前である古代小麦(ヒトツブコムギやフタツブコムギ)であればグリアジン含有量が少なく、グルテン不耐症の人の中には古代小麦を使った料理であれば大丈夫、と言う人もいます。

驚くべきことに、このゾヌリンは小腸上皮細胞の密着結合を緩めて障壁機構を解除してしまうだけでなく、その後血流に乗り脳血管の血液脳関門の密着結合も緩めることで、障壁機構を解除してしまうことが報告されており、リーキーガット症候群の先にある病態として「リーキーブレイン leaky brain」という病態概念が指摘されているんです。

日本では、認知症や自閉症、統合失調症などについて調べているとたまに見かける言葉かも知れませんが、認知度は日本国内では極めて低く、リーキーガット症候群と同様に、正式病名でも無いので、医師に聞いても知らない医師の方が多いでしょう。

【リーキーブレインについて】

【リーキーブレインで何が起こるのか】

リーキーブレインとは、上記説明の様に、血液脳関門の密着結合が緩むことで障壁機能が破綻した状態です。思考がスッキリしない、頭の中にモヤがかったような感じ(米国ではbrain fogと呼ばれる症状)などが起こるとされますが、その他にも下記の様な病気に関わっている可能性が指摘されています。

【アルツハイマー型認知症】
認知症は、アルツハイマー型、レビー小体型/脳血管型と3種類に分類されますが、アルツハイマー型認知症患者の脳内では、慢性的な炎症があること、脳の中に真菌(カビ)やウイルスが侵入した痕跡が発見されています。
その様な病原微生物や異物が継続的に脳内に侵入すると、脳組織内で免疫系として働くミクログリア細胞が活性化することで、抗菌作用などを発揮するアミロイドβの病的蓄積が進行するのでは、と推測されています。
アミロイドβ自体は脳内で作られる普通の蛋白質で健康な脳にも存在しますが、通常は短期間で分解排出されます。しかし、アミロイドβ同士が凝集し不溶性になると排出されずに蓄積され、不溶性凝集アミロイドβの毒性により神経細胞が徐々に死滅して脳が委縮し、認知機能の低下が進行していくことになります。

【自閉症やADHD等の精神疾患】
あくまで仮説であることに注意する必要がありますが、自閉症治療の専門家の中には、自閉症等とリーキーガット症候群の関連を指摘する人もいますし、リーキーガット症候群とリーキーブレインには明確な相関関係が認められていることから、自閉症やADHD等とリーキーブレインにも相関関係があるのでは、と推測されています。

【脳の炎症】
血液脳関門が緩んでしまい、ウイルスや真菌(カビ)、その他の有害物質がが脳に侵入すると、ミクログリア細胞が活性化し、脳に弱い慢性的な炎症が生じ、認知機能以外の神経系の異常や血管の動脈硬化性変化などに繋がることが懸念されます。

【リーキーブレインの原因とは】

リーキーブレインの原因については諸説ありますが、ゾヌリンの過剰分泌でリーキーガットが生じ、その結果脳血管まで流れたゾヌリンが血液脳関門の障壁機能を解除してしまう、と言う仮説が最も支持されています。

【リーキーブレイン対処法とは】

【リーキーガット症候群対策を行う】

まずはリーキーガット症候群のリスクとなる下記の様な行動を取っていないか、の確認をした上で、該当する場合は避ける様にしましょう。
・頻回に抗生物質を使う
・ゼロカロリー製品を含む甘味料を使った飲食物の摂取
・小麦加工品や乳製品の常食
・オメガ6不飽和脂肪酸の多い食用油脂、酸化油脂の摂取
・その他食品添加物などの過剰摂取

リーキーガットの改善の為には、下記の様な対策の有効性が報告されています。
・小麦粉加工品、乳製品を少なくとも症状改善までは摂らない
・甘味料だけでなく炭水化物も控えめにし、水溶性食物繊維を含む食材(きのこ類、海藻類など)を意識的に摂る
・良質な脂質(オメガ3不飽和脂肪酸など)、蛋白質を意識的に摂る
・自然な発酵食品の継続的な摂取(添加物で発酵風にした加工食品に注意)

また、余談ですが、妊婦さんには、小腸上皮、血液脳関門とは別に、「血液胎盤関門」と呼ばれる障壁機構があります。胎児に有害な物質が流入することを防ぐフィルターとして知られていますが、これもリーキーブレインの様に、リーキーガット由来の、過剰に分泌され流れてきたゾヌリンで緩む可能性が指摘されており、その結果として、化学物質や重金属類を含む様々な有害物質が退治に流れ込んでしまう可能性も指摘されているので、周産期の女性はリーキーガット対策を意識した食事をするのが良い、と言う専門家も居たりします。そのうち「リーキープラセンタ」と言う言葉を目にする様になるのかも知れませんね。

【「リーキー●●なんてエセ医学だ」と言う医師も多い】

細胞間の密着結合が緩んで悪さをするならば、緩んでいるところを見せてみろ!病気と認定されていない様な仮説に何の意味があるのか!と馬鹿にする医師も多いですし、こんなことで自己免疫疾患や神経変性疾患が治るのであれば、難病指定され苦しんでいる患者さんの苦痛や、日々治療薬や治療法の研究をしている医師達の努力は何なのか、と言う意見もあるでしょう。
しかしながら上記の様な病態があると過程して対処をすることで、実際にこれまで何をしても良くならなかった症状が改善した事例は数多く報告されており、それを無視するのもまたどうかと思います。

現代社会の中で生きる私たちは、環境中に存在する有害なものから常に影響を受けていますが、むしろ無菌室の様な超衛生環境では免疫機能も学習出来ず脆弱になりますので、ある程度の微生物やその他物質への日常的な暴露は必要だったりします。その為には、小腸上皮その他の障壁機能をしっかりしておかないと、大変だと言うことです。日頃からお伝えしています様に、様々な情報に溢れる現代社会において情報リテラシー能力が必要ですが、そのためにも、日頃から腸や脳を少しでも良い状態に保つ意識を持っていきましょう。

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