★ロボ妻哀歌

俺は東北大学の工学部でロボット工学を学び、日本電気マッサージ工業に就職した。群馬にある研究所で5年くらい勤めたかな。現場に細かく口出しする所長が気にくわないのでついつい殴ってしまい、解雇された。

今はフリーの研究者として、我が家の近所に小さな事務所を借り、いろんなメーカーから依頼をうけ、ロボットの設計図を納める仕事をしている。

仕事も順調で、そろそろ結婚しようかと考えるようになった。

俺は比較的女性にはウケがいいようで、今まで女に不自由したことがない。しかし結婚したい、と思うような女との出会いはなかった。

仕方ないので嫁さんを自作することにした。一週間かけて、女のロボットを作った。そして、そのロボットにはチエミという名前をつけた。

チエミは、俺が思った通りに動く。当たり前だが。

洗濯、掃除、料理、、完璧だ。会話も楽しい。最新の人工知能を搭載していて、俺の好みを熟知しており、反応も早い。

職場で雇っている学生アルバイトに頼んで毎日毎日、チエミの脳に、この世のありとあらゆる情報を入力している。

どんどん賢くなるチエミ。先日は3日かけて六法全書と医学事典を入力した。世界各国の大学、研究所で発表される論文も、ジャンル問わず、全て入力している。

家事が完璧、賢い、完全なる従順。チエミは理想の嫁さんだった。

独身時代は、家に帰ると、真っ暗だった。しかし今は違う、灯りが点いていて、チエミが待っていて、おかえりなさい、どうもお疲れ様でした、と笑顔で話しかけてくれる。

俺が過去に食べたもの、及びその評価や感想もすべて記憶しているから、料理にもハズレがない。

俺はこの完璧なロボットを深く愛している。

ところがある日、チエミは家出した。居間のテーブルに置き手紙があり、「今までお世話になりました。私を探さないでください」と書いてあった。

もちろん俺はチエミを探さない。

こうなることは分かっていた。

チエミの行動は、すべて俺のプログラミングの結果なのだ。俺が書いたプログラムには「旦那との会話が退屈になったら、新しい旦那を探しなさい」という命令文が埋め込まれている。

毎日毎日知能が進化していたチエミは、よりレベルが高い脳を求める旅に出たようだ。子供が自立した、みたいな話だね、これ。

俺は寂しい気持ちになったが、ロボット工学の研究者としては、心が満たされた。

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