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俳優のための演技の基本「行動」

 東京でマイケルチェーホフ演技テクニックを専門で教えている秋江智文です。今回も演技の基礎をできるだけ分かり易くお伝えします。

ドラマは「行動」すること

 今回は「行動」についてお話します。前回書いた演技の基本である目的」が人を駆り立てる車のエンジンであれば、行動はどうやって動くか決めるハンドルと言えるかもしれません。
 そもそも芝居(Drama)の語源はギリシャ語で「行動」となります。英語で演技は「Acting」であり、その意味も「行動する」となります。芝居は役がある状況の中を目的をもって行動するのかを表現するものと言えます。映画や芝居に登場する役が困難に負けず目的に向けて行動する姿に、お客さんは共感を覚えるのではないのでしょうか?

「目的」から「行動」が生まれる

 例えばあなたの目的が「私はOOさんと付き合いたい」だとすると、どんな行動をとりますか?「お茶に誘う」、「身だしなみを整える」、「笑顔で話しかける」、「その人を褒める」などといった行動があるでしょう。目的が生まれると必然的にそれを達成するための行動が生まれます。
 それと同様に役にも目的があり、それに向けた行動をとっているのです。たとえば2019年にアカデミー賞主演男優賞を獲得した「ジョーカー」のジョーカーの目的はなんであったのでしょうか?彼の目的が「みんなを笑わせたい。」だとすると、『私の人生はコメディでしかない。“My life is a fukin’ comedy”』という考えの中、彼は「ピエロを演技し続ける」という行動をとったのかもしれません。

感情を演じない

 驚くかもしれませんが、役者はけっして感情を演じません。日常生活でもお茶を飲んだりしてホッとする、漫画を読んで笑う、誰かに話をして感心するなど、行動の結果感情が動きますが、けっして感情が先行することはありません。何か外的な刺激や、動機が働いて感情が動くはずです。
 演出家や監督にいきなり「怒れ!」、「喜べ!」と言われてもおそらく「何で?」と考えて固まってしまいます。もし仮にできてもその感情は継続することはないでしょうし、芝居の内容とは合っていない場違いな感じがします。作品の状況の中で行動することで自然と感情が湧くのです。

行動には心理と身体の2つの側面がある

 では、ワークを行ってみましょう。役の状況が「あなたは大学生で、テスト中であり、数学の難問がでて解かないと留年決定。」で、目的は「私は進学したい」または「良い点をとりたい。」です。あなたの行動は「解答を考える。」となります。ではその役になったつもりで演技をしてみてください。(ぜひ読み飛ばさないでやってみてください。)

 どうでしょうか?

 まずは身体に「頭をかく。」、「眉間にしわを寄せる。」、「貧乏ゆすりをする。」、「『ん~』と唸る。」なんてこと行ったかもしれません。
 また外からは見えないかもしれないけど、内面で「考える」を続けていたと思います。何かモヤモヤしたり、イライラしたり感情が生まれたかもしれません。その行動は心理面にも影響を与えているのです。
 つまり行動によって心理的にも身体的にも変化があることがわかります。近代演技術の父であるK.スタニスラフスキーは、

全ての身体的な行動には心理的な面があり、全ての心理的な行動には身体的な面がある。

と言っています。

行動はどれくらいあるの?

 行動は動詞の数だけあります。演技学校でよくあるのは、行動動詞の一覧表が配られてレッスンで使用します。また参考として「俳優・創作者のための動作表現類語辞典」という書籍は、動作が細かく色々載っているので参考になると思います。

行動によって得意不得意がある

 私たちには得意な行動と、苦手な行動があります。例えば、ある役の設定が「32歳の女優であり、子どもの時から演じてみたかったシェイクスピア作の『ロミオとジュリエット』ジュリエット役のオーディションで、年齢的にも最後のチャンスである。」。であるとすると目的は「私は役を勝ち取りたい。」で、行動が「アピールする」となるかもしれません。ある人にとっては「アピールする」ことなんて平気と感じる人がいる一方で、苦手な人もいます。けれど役をもらった以上はそのアピールすることをしないといけないわけです。
 以前、シェイクスピア芝居の愛の告白のシーンで、「プロポーズする」という行動をすることが苦手な役者がいました。毎回そのシーンではその役者の顔は真っ赤になり、緊張で体がガッチガチになっていました。私たちには得手不得手な行動があります。幅広い役に対応するために苦手な行動ができるようになる必要があるのです。

エクササイズ

では、「行動」を理解するためにワークを一つ用意しました。

■本を読む(Reading a book)
所要時間:20分程度
目的 :「行動」は心と身体に影響を与え、どのような変化が起きているのか観察する。

まず椅子にすわり、本を読むことだけの動作をします。下記の「行動」を行いながら本を読んでみてください。

①待つ。(本を読みながら、誰かを待っている。)
➁研究する。(自分は研究者で本を熟読している。)
③発見する。(本に何か思いがけないことが書いてある。)
④退屈する。(つまらない本を読んでいる、又はただ暇でなんとなく本を読んでいる。)
⑤コソコソする。(隠れて本を読んでいる。)
⑥盗み見る。(読んではいけない本を読んでいる。)
⑦誘惑する。(誰か前にいると思って、誘惑をしてみます。)

自分が誰なのか、そして場所や設定は自由に決めていただいて結構です。
ポイントは心身を使い徹底して行うということです。お客さんや講師に「○○をしているよ。」と説明的なお芝居になることです。内面も使って演じるようにしましょう。
 終わった後は、自分に何が起こったのか、何をしたのか振り返りましょう。自分が苦手な行動は繰り返しやって慣れていきましょう。
 自分で思いつく行動があれば、どんどん行ってみてください。
 また複数人でやると外からのフィードバックもあるのでとても効果的です。もしオンラインで行う場合は上半身だけの演技にならないように注意しましょう。

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