2016.2.5 続々々 ドイツの上でピアノを

(前回までのあらすじ)

14歳のころ、僕は小学校時代の友達と「通学デート」をしていた。ある日来た一通の手紙には、「あなたが好き」の文字。差出人は通学デートをしている子の親友の女の子だった___返事をせず何食わぬ顔で通学デートを続けているともう一通の手紙が同じ子から届いた。電話番号と「電話をください」のみ。僕は意を決して電話をかける。


家族は居間に揃っていて、テレビを見て大笑いをしていた。素人が番組の作った「城」を攻略するという趣旨のものだった。

僕は電話機のコードを伸ばし、ドアの外まで引っ張った。かろうじて部屋の外で会話をすることが可能になった。

僕は何度も躊躇いつつ、遂に意を決してボタンを押した。手紙に書いてあった、彼女の家の電話番号だ。

「もしもし」

「はいー、山岡です」おそらくお母さんの声だ。

「あ、雨月と申しますけど、ちづるさんいますか」

「ちづるね、ちょっと待っててね」ちづるー、電話よーという声が終わるかどうかのところで、プツンと電話が切れてしまった。

ええ?切っちゃったの?

もう一度かけろってこと??しかし相手は僕の家の番号を知らないし、かけられても家族中にバレてしまう。

焦った僕はいそいでもう一度同じ番号をプッシュした。リダイヤルなんて、頭から抜け落ちていた。


「もしもし、山岡です」

で、でた、今度はちづるちゃん本人だ。

「もしもし、雨月ですけど」

「うん、私、ちづる」

「うん」

「お電話、ありがとう」はきはきと喋る彼女。

僕は固まってしまったように、何も話せない。

「・・・」

「ごめんね、あんな手紙出しちゃって」

「うん」かろうじてそれだけを言った。

「あのさ、雨月くんは、」

あっという間に沈黙が支配する。電話は相手の表情も仕草も全てをキャンセルするのだ。

「好きなひと、いるの?」

(続く)

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