2016.7.29cakesウラ話 〜相模原大量殺人事件に思う〜

--この記事は「投げ銭記事」です--

こんにちは、外科医の雨月メッツェンバウム次郎です。

今日のcakes連載には、「いきおいで結婚し損ねた私は、論理的な結婚をするしかない」というお話を致しました。

久々に結婚の話を書いてみました。今回は日本人の結婚について、内閣府のデータからグラフを作成し説明しています。

さて、関東地方もいよいよ梅雨があけ、本格的な夏がやってきますね。夏には夏にしかないイベントがたくさんあります。海水浴、プール、富士山登山、花火大会、お祭りなどなど。食べ物も夏にしかないものって結構多いですよね。西瓜、素麵、出店のゴムみたいな焼きそばなど。夏という季節を満喫するために、「暑い暑い」だけではなくてこのような夏にしかないものを楽しんでみましょう。

さて先日、神奈川県の障害者施設でおそろしい大量殺人事件が起こりました。

障害者施設19人殺害、刃物のほかにハンマーや手袋

みなさんテレビやネットでご存知のことと思います。今回はこの事件について、一医師としての雑感を述べたいと思います。今回はcakes連載のウラ話というこの連載の趣旨を外れていますが、医師がどんな視点でこういったニュースを見ているか、あまり書かれていませんのでお話することに致しましょう。

この事件の概要を聞いてまず強く感じるのは、その手口の冷静さと用意周到さです。容疑者は元々勤めていた施設に、夜勤のスタッフしかいない真夜中を狙い侵入し、スタッフを拘束、そして重症な障害者から順に刃物で刺していったそうです。つまり無抵抗な人から順番に刺していったということでしょう。おそるべき計画。

しかもこの容疑者は、報道によると被害者を刃物で首を刺していったそうです。首を刺すということは、腹や胸を刺すよりも首を刺す方が致死性が高く、確実で簡便に死においやることが出来るだろうと思います。例えば腹を刺しても腸が邪魔をして即死に至る腹部大動脈まで切るのは極めて困難ですし、胸を刺すなら肋骨と胸骨の間に刃物をいれて心臓を刺さねば即死にはなりません。胸には心臓のほかに肺もありますが、肺を刺しても気胸になるだけですぐには死に至りません。

一方、刺すところが首であれば、適当に刺しても何度目かで頸動脈か気管に当たりますので、そうすればかなり高い確率で5分あるいは10分以内に死亡するのではないかと思います。このあたりの知識も容疑者にはあったのでしょうか。事実、ニュースでは死亡者のほとんどが失血死(体内から血液が失われた結果死亡すること)であったと報じていました。

次に私が驚いたのは、包丁やナイフを複数持って行っていたということ。私がこのニュースの翌日に職場でほかの医師たちと事件について話していたところ、ある女医さんが「でも何十人も刺すなんて、刃物はすぐに刃こぼれして切れなくなるでしょうねえ」と言いました。確かに・・我々が手術でメスを用いて切っていても、すぐに切れ味が悪くなってしまいます。今はメスを使い回すことはしませんから手術のたびに新品の1回使い切りのメスですが、それでも手術の後半に (ドレーンを入れるときなど)はあまり切れがよくなくなってしまうのです。人間の皮膚や組織って思ったより頑丈ですからね。

つまり犯人は、人間を複数人刺すと刃物の切れが悪くなるということも知っていたのではないか。そう思わざるをえないのです。

そしていくら夜中とはいえ、そしてスタッフが少ないとはいえ、かなり首尾よく動かなければ何十人も刺してまわることは出来ません。誰かが一人通報したらそれでアウトになりますから、きっと容疑者は職員であったころの知識を使って最も効率的なルートを考えたのでしょう。

この容疑者について、一部では「なんらかの精神疾患」の可能性、「大麻などの違法薬物使用」の可能性もあると報じられています。確かに「ヒトラーが降りてきた」なんて言っているというニュースは、誇大妄想という症状の名の下に医師にいくつかの疾患を想起させます。

ヒトラーの思想が降りてきた」19人殺害

精神科医であればこういった発言や事件前後の行動などから強く疑う精神疾患があることでしょう。

この容疑者は以前、措置入院をしていたことがあるそうです。措置入院とはわかりやすく言えば、「自分か他人を傷つける可能性のある精神障害者」を本人や家族の同意なく強制的に入院させるというもの。知事の診察命令により指定された精神科医2人が診察した結果入院が必要とされたときに、強制的に入院となります。例えば、「渋谷駅前でいきなり周りの人を殴った」などと通報され警察に身柄を拘束されている段階で、変なことを言っている場合に精神病院に連絡が来て、そのまま病院に連れてこられ診察の結果入院が必要と思われた場合に措置入院となります。

妄想性障害など複数の診断名 植松容疑者 

このニュースにある医師の診断からは、この犯人は薬物に関連しなんらかの妄想に取り付かれているという診断を受けていることがわかります。

これから議論になることは、この容疑者の責任能力の有無になるでしょう。


この事件に対して、政府は閣僚会議を緊急で開き、対応を協議しました。

「速やかに対策実行を」…相模原殺傷で首相指示

これからは措置入院をし、退院後の患者さんの「監視」についてが話し合われることだろうと思います。
究極的には、人権と公共の安全のバランスをどこに取るか、という議論ですね。法律家の方、憲法13条はこの場合どのように考えるべきなのでしょうか。13条とはこれです。

「すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。」

措置入院後の患者さんを監視しないことが公共の福祉に反しているかどうか、という点がこれからの議論になることでしょう。

そしてこれからは再発防止が声高に叫ばれることになりますが、残念ながら完全な再発防止は不可能です。やれることといったら、小学校などのセキュリティが幾つかの事件をきっかけに高まったように、病院や施設などのセキュリティをさらに上げていくことくらいでしょうね。

そして大手メディアは急速にこのニュースの報道を終息させていくでしょう。「障害者」「精神疾患」という二つの極めて彼らが扱いづらいテーマですから、報じること自身のリスクがかなり高く、発言一つ一つ、表現一つ一つに十分注意せねばならないのです。

今回は真面目なお話でした。いつも通り投げ銭制にさせていただきます。

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2016.7.29cakesウラ話 〜相模原大量殺人事件に思う〜

雨月メッツェンバウム次郎

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cakes連載記事、あそこには書けない週刊ウラ話

cakesで毎週金曜の連載「それでも僕は、外科医をやめない」のウラ話や続きを書いています。ここだけでもお楽しみ戴けます。

コメント2件

政府通達があったらしいですね。模倣防止?抑止?何れにしても我が職場の文面は見馴れたつまらないイチブンでした。
ダレも真似しないって…
危険な思想(考え)は果たして病でしょうか。
石原都知事も、似たようなお考えだったので実行犯と、「思想的背景」のどちらが悪・病・危険・排除必須なのか考えると面白いですね。
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