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学校教育関係者のためのAI×教育(5)+α

前回(4)までは、ユネスコ資料を中心に、AIについての簡単な知識と論考をまとめていきました。
今回の(5)から、『AIと教育を理解する:新たな実践と利得-リスク評価』という、ユネスコ資料の第3章を中心とした本題へと入ります。

1.「AIと教育を理解する」

第3章の冒頭では、教育現場へのAIの導入の歴史がさらっと書かれてあります。
私も(1)〜(4)で、既に現在の日本の学校教育現場には、知らず知らずのうちに、AIを活用したサービスが導入されている旨を記しました。

※ユネスコ資料には、下記の引用にあるような、A.〜E.は記入されていません(筆者注です)が、AIと学校教育を理解することは、単にChatGPTなど生成AIのみの学校教育における一時的な How to の議論だけではなく、これから到来確実な、AIと人との共生時代に向けて、AIと学校教育はどうなるかを考える基礎教養として、深く考える土台として、必要に感じています。 

A. 教育へのAIの導入

教育現場へのAIの導入は、1970年代にまでさかのぼることができます。
当時、研究者は、AIの利用は、最も効果的な教育方法と考えられていましたが、ほとんどの人が利用できない一対一の人間の個人指導を、コンピュータがどのように代替できるかに興味を持っていました(Bloom, 1984)。
初期の取り組みでは、ルールベースのAI技術を使用して、学習者一人ひとりに合わせて学習を自動的に適応させたり、(進度や単元を)パーソナライズしたりしました(Carbonell, 1970; Self, 1974)。

このような始まりから、教育におけるAIの応用は多方面に発展し、
生徒向けのAI(学習をサポートするために設計されたツール)
から始まりました。

UNESCO資料(2021)

B. 教育におけるAIの応用

(B)
こうした始まりから、教育におけるAIの応用は、
◆生徒向けAI(学習や評価をサポートするために設計されたツール)
◆教師向けAI(教育をサポートするために設計されたもの)
◆教育組織向けAI(教育機関の管理をサポートするために設計されたもの)

も含めて多方向で発展してきました(Baker et al., 2019)。

C.AIと教育の相互作用

実際、AIと教育の相互作用はさらに進み
◆教室内でのAIの応用(=AIを使った学習)
◆その技術を教える(=AIについての学習)
◆AI時代を生きる市民の準備(=人間とAIの協働のための学習)
にも及んでいます。

D.教育へのAIの導入と影響

教育へのAIの導入は、教育学、組織構造、アクセス、倫理、公平性、持続可能性などの問題にもスポットライトを当てます

何かを自動化するためには、まずそれを徹底的に理解する必要があります。

E.教育でのAI利活用で重要な3視点

AIを利活用する機会を十分に引き出し、AI利活用の潜在的なリスクを軽減するためには、以下の主要な政策課題に対する学校教育システム全体の対応が必要です:

1.  AIを活用して、どのように教育を充実させることができるのか?

2.  教育におけるAIの倫理的、包括的、公平な利用をどのように確保できるのか?

3.  AIと共に生き、働く人材を育成するために、教育はどのように準備することができるのか?

UNESCO資料(2021)

A.〜E.をまとめると、こんな図になるのでしょうか。

Fig.1. UNESCO資料(2021)を元に筆者作成

どうも、G7教育相会議などのマスコミ報道を見ておりますと、日本は未だ「生成AI」に対する警戒心が強く、中教審での安宅さんの講演資料(議事録も出ましたね)にもあった「健全な懐疑心」というよりかは、『猜疑心』となって、規制・抑制の方向に、政治家の皆さんは動いてはいないか、と気になって仕方ありません。

ちなみに、「健全な懐疑心」は、公認会計士の業界では、
職業的懐疑心』として使われています。

職業的懐疑心とは、誤謬又は不正による虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、監査証拠を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢をいう。
監査という業務の性格上、監査計画の策定から、その実施、監査証拠の評価、意見の形成に至るまで、財務諸表に重要な虚偽の表示が存在する虞に常に注意を払うことを求めるとの観点から、監査基準において特に強調して定められている。

日本会計士協会
https://jicpa.or.jp/cpainfo/introduction/keyword/post-56.html

これを、学校教育に当てはめると、

学校教育関係者的懐疑心とは、誤謬又は不正による虚偽表示の可能性を示す状態に常に注意し、学習者の言葉を鵜呑みにせず、批判的に評価する姿勢をいう。

とでもなるのでしょうか。
基本は『性善説』であることが多い学校教育現場において、どこまで懐疑心を持てるか、逆に懐疑心が行きすぎて猜疑心となり、より行き過ぎた結果、こどもや若者を傷つけないか?という、アンビバレントなバランスを常に取り続けないとならない点には、十分に留意せねばならない話だといえます。

今回のUNESCO「AIと教育」の内容のご紹介はここまで。


+α. 生成AIと文部科学省・中教審動向

2023.05.16. 16:00〜 中教審の初等中等分科会の特別委員会として設置された、『デジタル学習基盤特別委員会』が開催されました。

この特別委員会の主たる検討事項は、

(1)学校ICT環境の整備やその活用推進の在り方
(2)デジタル教材の在り方
(3)教育データの利活用や教育情報セキュリティの推進方策
(4)児童生徒の情報活用能力の育成・把握の在り方
(5)校務DXの推進方策
(6)教育行政調査の電子化・クラウド化の推進方策
(7)その他

上記URL(資料1)
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/mext_00544.html

であり、4年前から文科省が開始した(学校現場での利用・普及は実質3年前から)『GIGAスクール構想』が、コロナ禍対応も終わり、そろそろ端末の更新時期を迎え、「財源、どないすんねん?」の声が、学校設置者である地方自治体から出始め(たいていは、しっかりとGIGAスクール構想をこなしている先端的な自治体群から)て、
「(財源措置検討が始まる)第二期が始まる前に、ちと今回のGIGAスクール構想、一回、課題点とか総括してみよか?」
が主眼の特別委員会です。

冒頭、こんな言葉も文科省説明や委員から出てきました。
個人的には、もはや懐かしい。。「Digitalization」

全国紙とかTVニュースとか、検索エンジンのまとめニュースとか、既にいろいろと記事となっていますが、「生成AI」についての議論は、あくまでも、
「夏休みに入る前に、暫定的なガイドラインを出さないとね」
自民党PTとか、内閣府のAI戦略会議とか、G7教育相会議とかを踏まえて)
ということで、あくまでもオマケです。

永岡文科大臣のコメント('03''30〜)にも、生成AIの学校での利用の話が出てきます。

さて、
本日の会議は初回顔合わせの意味合いが強く、各委員が簡単な自己紹介と、お考えを述べ、各種の報道にあるような「生成AI」に関する議論までは、全くもって至っておりませんことは、Webで傍聴していた私としては、しっかりとお伝えせねばと思います。
(一番、正しく伝えている近似値は、「教育新聞」さんかなと)

「(生成)AIガイドラインver.1.0」

特筆すべきは、文科省が『AIガイドライン(仮)ver.1.0』の議論の敲き題にあげたこの資料ですね。

1. とにかく夏休み前までに作り上げる
2. AI活用の流れは社会において確実。利用全面禁止の方向ではない
3. ただし生成AIの構造や機能を知って、リスクも知った上での利用を
4. ver1.0は ※暫定的なものとして公表し、機動的に加除修正
5. 授業デザインのアイデア(具体的活用法)入れますよ

上記URL(資料6)をもとに筆者まとめ
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/mext_00544.html

いわば「生成AI」に特化した「利活用の仕方」夏休み前までに出すスピード勝負が最大の目標であり、まずはver.1.0のα版として世に問おうか、そのために、エッセンスの詰まった状態でコンパクトにまとめました!
という、とても Good Job! なものです。
(文科省・中教審には Critical で辛口な私でも、ちゃんと良いものは良いと褒めますよ)

Fig.2. https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/mext_00544.html


もしかして画期的な動きなのでは?

特に、

4. ver1.0は ※暫定的なものとして公表し、機動的に加除修正

の文言には痺れましたね。
文科省・中教審といえば、学習指導要領は10年かけて、ICT/Digitalとデータ利活用は3年かけてもまとまらず、生徒指導提要に至っては…という、時間が流れるスピードが、あまりにもゆっくりすぎて、社会変化に追いつかないことしばし、だったところが、暫定的とか機動的とか、もうね、画期的なんですよ。

今後、生成AIも含まれる「弱いAI」から、AGIという「強いAI」の出現が間近かもしれないという、本稿の(2)〜(4)で示したような話も踏まえての、これまでの文科省・中教審資料にはなかった、大転換な資料です。
(ただ、深読みすると、単にテクノロジーのスピードに合わせた、ということでもなく、AIに関する政策動向がまだ定まっておらず、柔軟に対応するという意味も十二分に含まれます)
(もっと深読みすると、この夏休みに、学校教員が、子どもたちが、「どのように『生成AI』を使うか、使うこと前提で、最低限のリスクマネジメントとしての「AIガイドライン」を、この特別委員会の審議も参考にして作成し、公表しますよ、ということでしょうかね?)

民間はガイドラインを待っているか?

英語とか、情報(プログラミング)とか、生成AIが得意で、正確性のある分野では、民間企業がサービスとして続々と生成AIを組み込み、有償サービスとして出始めています。
が、民間企業の初中等教育向け総合的なB2Cの通信教育(eLearning含む)の大手では(BとかRとかSとかZとか)、未だ「生成AI」を利活用したサービスがリリースがされていません。
この夏休み前に公表される「AIガイドライン」を待っているのか?と言われると、おそらく答えはNo.だと思います。
(理由は推測できますが、申し上げません。各自、お考えください。
 私の推測のヒントは、「生成AI」の仕組み、特にPre-Training という点)

さて、今後、いかがなるのか。動向に注目です。

【追記】

さて、左側のこの女性。
誰だかご存知ですか?
UNESCOのステファニア・ジャンニーニ 事務局長補です。

Photo.1 文科省note より

この方、今、ご紹介しているUNESCO資料の冒頭で出ていらっしゃる、偉い方です。

文科省のnoteを見ると、

UNESCOとは、持続可能な開発のための教育(ESD)について議論を行いました。

とありまして、「等」の中に「AIと教育」の話題が入っていた、と思いたいところです。

おそらく、現時点では、世界史上最強の「AIと教育」の知見を持たれている国際機関のDirectorクラスの方のお一人なので、文科相にとっても、素晴らしいレクになったのではないかと思います、もしも、話題が出たら、ですけどね。

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