ジョン・W・キャンベル『無限からの侵略者』十二章 試訳

 更新が遅くなってしまいました。今回はアーコット一行がシリウスへ向かいます。登場するシリウス人はかつて「暗黒星通過!」で地球を襲撃した種族です。古本がAmaz●nかなんかで買えますので、興味があるかたはどうぞ。

ジョン・W・キャンベル『無限からの侵略者』
渦巻栗訳

十二章 シリウス

 一行は約三十分後に着陸したが、アーコットはコテージへ行って寝ただけだった――軽い睡眠薬の助けを借りて。モーリーとウェイドが装置類の撤去を指揮したが、実際はアーコット老博士が作業を終わらせた。機械類は、十時間のうちにアーコットとモーリーによる完璧な計画通りに、設置されるはずだ。設計図を金属とラックスに変換していく最新機器のおかげで実際の作業はすばやく行われ、多くの人員を雇うはめにはなったが、時間はほとんど要しなかった。
 アーコットその友人が起きたときには、機械はもう準備できていた。
「あの、お父さん。ぼくらが持ってる機械の設計図はすべてお持ちですよね。ぼくは二週間のうちには帰って来るつもりです。その間に、船をたくさん建造してください。すごく分厚いリラックスの装甲を持っていて、光線にもしばらく耐えることができる船で、ここにある簡単な人造物質装置を積み、計算通りに作業を進めてください。ゼットは新しく機械類を降ろしてくるでしょう、ここか――月に。おそらく地球全土を照射しようとするはずです。光線を充分に収束して惑星を動かしたり、深刻に冷やしたりはしないと思います。しかし、生命は別問題です――ひどく敏感ですからね。緩やかな光線でも死んでしまうでしょう。ぼくが考えているのは、数基の飛び抜けて強力な光線スクリーン基地を建造して、電離層のE層でもって振動を地球中に伝達することです。お父さんならすぐおわかりになるでしょう。それだけの価値があるとお考えなら――それか、惑星間防衛委員会の石頭政治家を説得できるなら――
「何はともあれ、ぼくは二週間以内にまたお目にかかるつもりです」アーコットは背を向けて乗船した。
「シリウスに船首を向けて、出発しよう」アーコットは地球から充分離れたところで船を回頭させ、宇宙の闇に輝くシリウスへ向けた。コントロールを〈二分の一〉まで押すと、空間が周囲で閉じた。クロノメータが六・五秒経過するまでそのまま押し続けた。シリウスはいまの距離から見るとほとんど惑星と同じ光度だ。じかにコントロールしながら、彼は船を近づけていくと、ついに一つの惑星が大きく眼前に膨れあがった――巨大な惑星で、岩がちな大陸や、うねる大海、ぎざぎざした盆地が白く見える。巨星シリウスの莫大なエネルギー放射のもとにあるためで、その眩しさは後にしてきた太陽の二十六倍にも及ぶ。
「けどよ、アーコット、のんびりやるべきじゃないのか?」ウェイドが訊いた。「奴らはこっちを敵と見なすんじゃないか――そうなるとおもしろくないぞ」
「ゆっくりやるのがいいだろうね。実を言えばぼくの計画でも、ゼットの船を調べて、たまたま戦闘になり、ぼくらの好意を示す予定になってるんだ」とアーコットが答えた。
 モーリーはアーコットの論理を見抜き――いきなり笑い出した。「その通り――ゼットに攻撃だな。しかし、あたりに見当たらないとなると、一つでっちあげなきゃならんな!」
 ウェイドは煙に巻かれて、モーリーに疑わしげでいやみな目線を向けた。「いいアイデアみたいだが、ただ気になるのはこの長く続く精神的な緊張に――」
「とにかく見つけに行こうぜ!」アーコットは船を安全のため人造空間へ突入させ、静止させた。惑星は見えなくなり、退いた。
 人造物質制御室で、アーコットは作業に取りかかり、制御盤で形状の数式を大量に導出した。これら形状の方程式には持てるすべての形状制御が必要だった。
「さて」とアーコットはついに言った。「きみはここにいてくれ、モーリー、ぼくが合図を送ったら、モノを近場の丘の後ろにつくって、上昇させて、船の方へ寄越してくれ」
 間もなく通常空間にもどり、いまは彼方の惑星へ急行した。一行はさきほどとは別の都市のそばに着地した。山脈の近くに位置しており、作戦にはうってつけだ。身を落ち着ける一方、ゼズドン・アフセンは友好のメッセージを送った。最後には、応答を得ることに成功した。懐疑と不信の感触――だが興味も含まれている。一行は友人を必要としているし、相手が友人でさえあればと望んでいた。アーコットは合図用の小さなボタンを押し、モーリーはいたずらでの自分の役割を果たしはじめた。低い丘の後ろから、先細りの物体が現れた。美しい流線型の船体をしていて、かたちは一目でゼット艦だとわかるうえ、舷窓からは光があふれていて、船体周囲の目に見えるイオン化した気体が分子光線スクリーンの存在を示している。ゼズドン・アフセンは、計画の真相を知ることがないよう注意深く避けられていたので、物体を発見するやいなやすぐに激しい驚きを感じ、他の者を呼んだ。その間も、思考は眼下のシリウス人へ放射されていた。
 敵艦から、砲弾が途方もない速度で発射され、〈エンシェント・マリナー〉をかすめて、向うの斜面に潜りこんだ。凄まじい爆発とともに着弾し、土をまき散らしてものすごいクレーターをつくった。〈エンシェント・マリナー〉は旋回して、相手に向き直り、分子光線と宇宙線の爆撃を加えた。が、イオン化した空気の大火炎が現れただけに終わった。敵の光線が命中した。扇形に広がる光線だ。〈エンシェント・マリナー〉に命中しても損害を与えなかったが、後ろにあった斜面は急激にしなびて黒ずみ、温度の上昇とともに煙を出した。
 またもや砲弾が敵艦から放たれ、猛烈に炸裂したが、そこは〈エンシェント・マリナー〉から百フィートも離れたところだった。地球船は揺れてぐらつき、離れた場所にいる敵艦ですら爆発に揺すられた。
 白熱する砲弾が地球船から発射された。敵艦へ突進していき、かろうじて触れるか否かというところで炸裂して激しい炎をあげた。火が船全体を包み、燃えあがる。瞬く間に燃える船は傾き、墜落しはじめ、地面に触れる前に蒸発したように見え、完全に消滅した。
 ゼズドン・アフセンは心から安堵したので、シリウス人にも勝者が友好的であり、その恐ろしげな武器でもって、明らかにゼット籍とわかる船を落としたということがはっきりした。例の物体は正確に同じかたちではなかったが、あまりに見慣れた輪郭をしていた。
「彼らは歓迎しています」とゼズドン・アフセンは連れに精神メッセージを送った。
「会いに行くつもりだと伝えてください――熱心にそう思ってますとか、何とか、思考で伝えてください」アーコットがにっこりした。モーリーが戸口に姿を現し、顔いっぱいに笑みを浮かべた。
「ショーはどうだった?」と訊いた。
「凄まじかったよ――何であれを落として、ばらばらにしなかったんだ?」
「移動したら残骸はどうなるかな?」とモーリーは皮肉そうに言った。「べらぼうに上出来なデモンストレーションだったと思うがね」
「違いない」アーコットは笑った。「彼らはいまじゃぼくらを必要としてるからね!」
 巨船は螺旋降下して、そっと都市の外に着地した。ほぼ同時に、葉巻型のシリウス船が数隻、都市の中庭から飛びたって〈エンシェント・マリナー〉へ急行した。ほとんど間を置かずに五十隻があらゆる都市から発進した。シリウス人はひどく人間らしい好奇心を抱いているらしい。
「ここでは慎重にいきましょう。与圧服を使わなきゃならないんですよ、ニグラ人は酸素じゃなくて水素の大気を呼吸してますから」アーコットは口早に同伴のオルト人とタルソ人に説明した。「みな行きたがるでしょう。このスーツは間違いなくあなたやゼズドン・アフセン、それからステル・フェルソ・テウにとっても不快でしょうが、それでもみんなでこれを着るのが賢明だと思うんです。そうすればシリウス人もずっと納得するでしょう、少なくとも三つの世界の人間がこの同盟に関心を寄せていることを見せればね」
 かなりの数のシリウス船が周りに着地し、一億歳の古い種族のほっそりした男たちが巨大な茶色の目でもって少し離れたところから眺めていた。哨兵線の男たちが明らかな権威でもって、後ろにさがらせていたのだ。
「あなたがたは何者ですか、友よ?」哨兵線の男が訊いた。強靭な骨格、高い額、大きな頭、一目でこの男がリーダーだとわかる。
 シリウスの光がすさまじい変化をもたらしていたにもかかわらず、アーコットはこの男を、ニグラ通過時に太陽が捕獲した惑星上で見た写真の原本から、見つけ出すことができた。そんなわけで、彼が思考の質問に答えた。
「ぼくは、あなたがたが数年前に故郷として求めていた太陽の第三惑星の者です、タジ・ラモル。あなたがたがぼくらを理解しなかったことから、そしてぼくらがあなたがたを理解しなかったことから、戦いになってしまいました。ぼくらはあなたがたの種族の記録を太陽が捕獲した惑星で見つけ、あなたがたが最も欲していたものを知りました。意思を通じることがいまのようにできていれば、ぼくらが争うことはなかったのです。
「どうやら必要だった恒星にたどり着いたようですね、一緒にいた天才のおかげですな。
「しかし、いま、あなたがたが新たに築いた平和へ新たな敵がやって来ました。奴らはあなただけの恒星のみならず、銀河中の恒星を欲しています。
「あなたがたの殺人光線、反触媒光線は試してみましたか? 損害を与えることなく奴らのスクリーンに飛び散ったでしょう? 奴らの恐ろしい光線、山を溶かして宇宙へ放り投げる光線は体験しましたか? ぼくらの世界とこちらの二人の世界は同様に脅威に晒されています。
「さて、こちらはオルトのゼズドン・アフセンで、銀河の反対側から来ました。こちらはタルソのステル・フェルソ・テウです。ふたりの世界はぼくらやあなたがたの世界同様に、彼方の銀河から来た敵に襲撃されました。ヴェノーン銀河は恒星アンステックの惑星ゼットから来た敵です。
「いま、ぼくらは史上類を見ないほど広範囲の同盟を組まねばなりません。
「あなたがたを探してここに来たのです。ぼくらの同盟のいかなる種族よりも古いですからね。あなたがたの科学はぼくらのそれを凌駕しています。どんな兵器を古文書から見つけたんです、タジ・ラモル? ぼくらは一つ、あなたがたが間違いなく必要としている武器を持っています。スクリーンといって、分子指向装置の光線を食い止められます。何か交換できるものは持ってますか?」
「われわれは援助をひどく求めています」という回答。「敵の着陸は阻止してきましたが、多大な犠牲を強いられました。彼らが着陸した惑星はわれわれが暗黒星を去るときに持ってきた星ですが、住人はいません。この惑星を基地にして襲撃してきたのです。われわれは惑星をシリウスへ放り投げようとしました。敵は慌てて逃げだして、こちらの引力光線を逃れましたが」
「引力光線! では、その秘密を見つけたのですね?」アーコットが熱心に尋ねた。
 タジ・ラモルは何人かに引力光線プロジェクタを船に持って来させた。装置は千ショートトン近い重量があり、長さは二十フィートほど、幅は十フィートで高さは約十二フィートだと判明した。この巨大マシンを〈エンシェント・マリナー〉に積むのは不可能なので、その場で調査が行われた。計器の読みは操作する地球人たちにも判別できるものだ。装置の根本的な欠陥は、途方もない質量エネルギーを供給されても、なおすさまじいエネルギーを飲みこまなければ肝心の引力を発生できないことだ。光線は、長く維持されていれば、実際に惑星や他の物体を動かすのに費やすエネルギーしか使わない。光線が作用する間のエネルギーは結果に見合うのだが、すさまじいエネルギーがなければ引力を発生できないし、このエネルギーは取りもどせないのだ。
 そのうえ、いかなる反作用も装置内部には発生しない。照射対象を問わず、である。つまり惑星を振り回す場合にも、宇宙船を土台にできる。装置は反作用を受けないからだ。
 こういった乏しい手がかりと、計器から、アーコットは解決の糸口をつかんだ。というのも、タジ・ラモルが情報を入手した文書は、シリウスの都市が陥落したときに無残に消滅してしまい、タジ・ラモルは先祖の機械しか複製していなかったのだ。
 装置類にものすごい価値があるのは明白だった。これらがあればアーコットは多くの不可能事を成し遂げられるのだ。ステル・フェルソ・テウへの説明は、装置の使い道を予感させるものだった。
「兵器としてみると」と指摘した。「いちばん深刻な欠点はかなりの時間をかけないと必要なエネルギーを注入できないことですね。同じ欠点はあなたがたの人造物質にも言えることですが。
「見たところ、あの光線は指向性を持たせた重力場のようです。
「ひとつ、もっと興味深くて、有用な事実があります。装置が力学の法則に逆らっているように見えることです。装置は作用を及ぼしますが、目に見える反作用は存在しないのです! 小船が世界を動かせるんです! ほら、引力を生む力場は完全無欠の、綿密に折られた宇宙の網目の一部でしょう。力場は網目の外にある物体によってつくられます。人造物質のように、これはその場所に存在し、その場所でのみ存在するのです。その引力場には反作用が生じますが、宇宙のなかの一点にのみ生まれますから、反作用は全宇宙が引き受けてくれます。動かないのも不思議ではありません。
「動作の考察はきわめて簡単です。まず力場ができます。これはエネルギーを食います。ビームが物体に集中すると、物体は近くに寄ってきて。ただちにエネルギーを吸収し、速度を得ます。装置はエネルギーを再び放出しますが、これは力場内で一定のエネルギー水準を保つよう設定してあるためです。そのため、装置は船を動かすはたらきをします。それが駆動装置であるかのように、です。ビームは目的を達成すれば切られるので、力場内のエネルギーはいまやどんな仕事でもできるようになります。例を挙げると、ぼくらが使ってるもののように動力コイルへもどすこともあるでしょうし、最後の一滴まで目標達成に使うこともあるでしょう。
「駆動装置に使えば、船全体を引っ張っていくので、いかなる加速度も船内の人間には感じられません。
「あれを巨大船舶に使おうかなと思ってるところです」と言葉を結び、目を遥か未来のアイデアへさまよわせた。
「天然の物質の天然の重力は、幸運にも、選り好みしません。あらゆる方向へ伸びていきます。しかし、この人工の重力は制御されているために拡散せず、結果として物体質量の引力は、距離の二乗に反比例して減衰することもなく、平行ビームを発するスポットライトの光のように保持されます。
「実際、彼らはとびきり強力で、とびきり小さい重力場をつくり、それを直線に指向させたのです。この力場の形成にはちょっとの時間しかかかりません」
 ゼズドン・アフセンは、疑問に頭を悩ませていたが、心配げに友人の方を見た。ついにはそれら暗号めいて省略された思考に割って入った。その思考は教授が問題を解く過程のようで、あまりにすばやくて省略されているため、学生はついていけないのだ。
「しかし、どういったわけであの装置はそんな力を物体に投射しても動かないんです?」とついに尋ねた。
「ああ、光線は重力を収束して、投射するんですよ。実際のひずみは空間内にあります。空間がひずむわけですが、普通、物体がきわめて大きいということでもなければ、それとわかる加速度が遠距離まで発生することはありません。この法則は引っ張られる物体にもはたらきます。物体はその重力場を、通常の逆二乗則に従う重力場として引っ張るのです。
「が、その一方で重力ビームは一定の力で引っ張るのです。
「これはスポットライトの光圧と星にたとえられるでしょう。スポットライトは一定の力で太陽を押します。どんな距離であっても、太陽の光圧は距離の二乗に反比例して変化します。
「しかし、思い出してほしいのですが、物体が別の物体を引っ張っているわけではなく、重力場が引っ張っているのです。力場は空間内にあります。通常の力場は必然的に、その力場が表す物体、言い換えれば、力場を表す物体に付随しているのですが、この人工の力場は物体といかなるつながりも持たないのです。装置の生成物であり、空間のひずみとしてのみ存在するのです。力場を動かすには人造物質みたいに全空間を動かす必要があります。生成されたところでしか存在できないからです。
「なぜ作用反作用の法則が真っ向から破られているのか、おわかりになりましたか? 実際、反作用を引き受けるのは空間なんですよ」
 アーコットは立ちあがり、体を伸ばした。モーリーとウェイドはずっと彼を見ていて、さきほどいつ銀河間宇宙へ出発するつもりなのかと訊いてきたのだ。
「いま、だね。やらなきゃならないことが山ほどある。いまのところ、人造物質に関する数学の研究を進めなきゃならないし、人造重力の数学もやらなきゃならない。シリウス人には人造物質と分子光線のすべてを教えたよ。
「彼らは持てるすべてをわけてくれた――人造重力のほかはたいしてなくとも、課題は山積みだよ。とにかく、出発しようぜ!」

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