ジョン・W・キャンベル『無限からの侵略者』十一章

 連投ご容赦ください。十章の続きです。今回は南極のゼット人基地を叩く話となっています。

『無限からの侵略者』
十一章 「磁石を切れ」

「こちらは戦隊司令官サーントンだ。惑星間警備隊七三‐Bスコードロンは、これよりアーコット博士の指揮下に入る。南極へ最大戦速で向かえ」と通信機が唸った。命令の事務的な口調の背後には、押し殺した激怒と決意の雰囲気が窺える。「戦隊司令官は、アーコット博士が南極でも北極基地の破壊と同様、徹底的かつ完全な掃討に成功することを期待する」
 艦隊は南へ進路を取り、高度百マイルの薄い空気中で白熱するほどのスピードを出した。より高く飛ぶのは不必要に時間を食ってしまうが、白熱しても居心地が悪くなるわけでもない。南極には十分ほどで到着した。ゼット艦隊はちょうどドーム璧の巨大エアロックへ入っていくところだ。地球艦隊を一目見るやただちに回頭して、護衛艦の方へ突進した。スクリーンは下げていた。極めて厚いリラックスで装甲してあるので、地球艦の薄いリラックスなら深刻なダメージを受ける前に撃破できると踏んだのだ。
「いずれスクリーンをあげるぞ」アーコットが短く言った――新たな計画が思い浮かんだ。ゼットの分子光線が輝くスクリーンに命中するが、損害はない。「全艦、順繰りに三十秒間、スクリーンを下げ、全分子光線を一隻に集中しろ――旗艦を狙え。太陽調査艦は攻撃には参加しない」
 スコードロンの旗艦がスクリーンを下げ、途方もない光線の爆撃が敵艦の一点に集中した。リラックスが輝き、乳白光が当惑させられる混沌とした色へと移ろう。それから地球間はスクリーンをあげたので、ゼットは無防備の艦を攻撃する間もなかった。ただちに別の地球艦がスクリーンをひらき、先ほどの敵艦を叩いた。さらに二隻が続き――敵はスクリーンを使わざるを得なくなった。
 が、だしぬけに地球艦が一隻轟沈した。張りつめたスクリーンが過負荷となり――崩壊したのだ。
 アーコットの磁力ビームが発射された。ゼットの光線は消えない――ちらつき、ぼやけてはいるが、致死的であることに変わりはない。
「遮蔽されているな――磁石を切ってくれ、モーリー。もはや強みにはならない」
 アーコットは固有空間に守られてすばやく考えをめぐらした。分子光線は――使えない。スクリーンは保持し続けなければならないからだ。人造物質は――こちらの分子スクリーンに邪魔されてしまう! 磁力ビームは防御を施されたドームの機構にたいしては無力だ。敵艦はまだ防御されていないが、ドームは違う。
「たぶん安全なのは地下だけだぜ――地面に潜るしかない!」ウェイドがそっけなく言った。
「地面の下か――ウェイド、お前冴えてるな!」アーコットは歓喜の叫びをあげ、ウェイドに操縦を任せた。
「船を通常空間へもどして、〈ドーム〉の後ろにある丘へ向かえ、そこに降下するんだ。しっかりした岩盤だから、奴らの光線でも動かすには手こずるだろう。着き次第、地面に潜ってスクリーンを切るんだ。いや――それはぼくがやろう。きみはあそこへ飛ばして、着地させて、スクリーンを切ってくれ。ぼくが残りを片付ける!」アーコットは人造物質室へ飛びこんだ。
 船はいきなり通常空間に出現した。スクリーンはあがっている。ドッグファイトは終わっていた。地球艦隊は完敗していた。〈エンシェント・マリナー〉の出現は全分子砲への合図となった。十隻の巨艦、六基の小要塞とシールドを解いた〈ドーム〉が参戦した。スクリーン・チューブは、丘の背後へ飛びこむうちにも過熱し、融け、焼け落ちた。自動機構がチューブを交換し、別のチューブが負荷を受け――発熱した。丘の後ろで当座の安全を確保できたときには、スクリーンは穴だらけになっていた。
 ただちにウェイドは防御スクリーンを切った。時を同じくして、人造物質の円筒が船を包みこむ。円筒の先には完全な円錐がついていて、底面の直径は円筒と等しくなっている。全体が堅固な岩盤に沈んだ。上にある岩が砕け、後方に積もった。船はだしぬけに船尾にある円筒底面に押されて、岩のなかを進み、円錐が硬い花崗岩を切り開いていった。半マイルほど進んだところで止まった。船窓から差す光のなかに、想像できないほど硬い人造物質がぼんやりと見え、滑らかでつるつるした岩の表面を向うへと押しのけている。円錐はまだそこにある。
 凄まじい轟音が後方で響き、上方の岩が砕けてずれた。
「ぼくらが潜ったところを照射しているんだ」アーコットが楽しそうににっこりした。
 円錐と円筒が溶け合い、位置を変え、球体になった。球は上に長いかたちになり、〈エンシェント・マリナー〉はそのなかで回頭し、船首を上に向けた。球は楕円体になった。
 突然、船は動き出し、猛烈に加速した。岩盤を突き進み、上昇して――光の瀑布に出た。ドームのなかに入ったのだ。巨艦が離着床に投錨している。大きな機械類があちこちにそびえ――兵舎や――何もかもがあった。
 楕円体は球へ縮み、突起を生やしたかと思うと分離し、突起は棒状のシリンダに変形した。シリンダは向きを変えて、巨大ドームの壁へ突進した。小さな穴だったが、シリンダはすばやく円周に沿って回転し、てっぺんをきっちり切り取った。再び、巨人的なティーポットのふたのように、大構造体の全体が持ちあがったかと思うと動きを止め、そこに留まった。男たちが慌てて艦船へ走っていたが、いきなり立ち止まった。姿がぼやけたかと思うと、恐ろしく変化した。彼らは倒れ――空気がなくなった瞬間に死んだ。次の瞬間にはどっしりした氷塊と化していた。温度が二酸化炭素の融点を下回っていたのだ。
 巨大土突きの出番だ。ゼット艦が最初に破壊された。凄まじい円盤が数秒間暴れただけで、すべて粉砕され、叩き壊され、瓦礫と化した。
 ドームは破壊された。アーコットは何かやろうとしていた。コントロールに双曲線の方程式を入力し、定数を徐々に変えて二曲線を近づけた。そして二本を押しつけた。双方とも抗い、存続し続けようとやみくもにあがいた。途方もない光と熱がほとばしる。二トンの鉛のエネルギーが曲線を維持しようとした。幸運にも、それは爆発性ではなく、一連の出来事はリラックスの床面上で起きた。おおかたのエネルギーは宇宙へ逃げた。莫大な光の奔流は金星からも見えた。雲があるにもかかわらず。
 しかし、光は南極の大半を溶かした。南極のキャンプは隅々まで破壊された。
「ううむ――スコードロンは一掃されてしまったようだ」アーコットの声は平板だった。スコードロンは二十隻の艦船と――四百の人員からなっていた。
「ああ――でも北極と同じように、南極もうまくいっただろ」とウェイドが答えた。
「次はどうするんだ、アーコット。また銀河間宇宙へ出るのかい?」モーリーが機関室からあがってきて訊いた。
「いや、ヴァーモントへもどって、注文しといた時間フィールド装置を積みこみ、それからシリウスへ向かい、何があるか見に行こう。彼らは惑星たちをニグラの重力場から引っ張っていったんだ、あの死んだ暗黒星から、シリウスの重力場へね――それをどうやったか知りたい(原注:『暗黒星通過!』を参照)。それから――銀河間宇宙だ」アーコットが船をヴァーモントへ発進させるかたわら、モーリーはフィールドの様子を見に行って、一同に短く報告した。

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