【全文無料】シン・特撮魂 小松左京映画 その魅力

この記事はshi3zさんによる寄稿記事です。

樋口真嗣さんが「小松左京音楽祭をやるぞ」と言う話をしてきたのは、シン・ウルトラマンの制作発表の直前だった。

前回、「伊福部昭音楽祭」のオーケストラのメンバーが、今度は「小松左京音楽祭」を計画しているという。
小松左京と言えば、泣く子も黙る日本SF界の巨匠であり、彼の小説が次々とヒットを飛ばし、数々の作品が映画化された。

しかしその記憶は時代の流れとともに薄らいでいき、今やオリジナルの「日本沈没」や、普及のドラマ「さよならジュピター」を知っている世代はどれだけ残っているのだろうか。

「シン・ゴジラ」によって、伊福部昭サウンドの良さ、素晴らしさが再評価されたことは往年のファンにとって、まこと喜ばしいことであり、その流れのなかで、「次はぜひ小松左京の映画音楽」を、とシン・ゴジラでもメガホンをとった樋口真嗣さんが鼻息を粗くするのも当然だろうと思った。

ところが、である。

小松左京そのものが忘れられようとしているこの時代に、小松左京の、映画音楽の、音楽祭と聞いて、ピンと来る人はどれだけいるのだろうか。

僕自身、小松作品の代表作である「さよならジュピター」は100回以上は視聴した自負がある。
さよならジュピターはサントラも購入しているため、愛車のミュージックライブラリではいつでもあの勇壮なテーマを楽しめるようになっている。僕の愛車に常に入っている映画音楽は、さよならジュピターとスターウォーズとシン・ゴジラとエヴァンゲリオンだけだ。

したがって、「さよならジュピター」以外の曲を流されてもピンと来るわけもない。
ということは、まず、小松左京作品の良さ、そしてその映画の良さ、さらにはその映画音楽の良さを三段論法的に多くの人々に伝えていかなければならない。

これは難事業だぞ、と思ったわけである。
なんせ、僕もわからない。

そこで急に思い出したのが、昨年のdrikinTVである。いや、もしかするとドリキンTVなる番組は存在しないのかもしれないが、僕の中の認識では「あれはdrikinTVだ」というものだったので、ここでは便宜上drikinTVと呼ばせていただく。

昨年末drikinTVに急遽出演した吾輩は、NeurIPS(今年も協賛した世界最大の人工知能学会のひとつ)からのRISC-Vカンファレンス出席でたいそう疲れていたのだが、そのまま勢いでドリキンとYouTubeに出ることになった。

僕にとっては、当時自分と社会とのコミュニケーションに悩んで一度ブログを全削除(15年ぶり5度目)した直後だったので、ドリキンのYouTubeに出て自分の意見を表明することは、賭けでもあったが、なにかもがいていた結果でもあった。

興味深いのは、その「あと」に起きたことだ。

今年に入ってから、とある証券会社系のシンクタンクから、「RISC-Vについて講演してほしい」という依頼が来た。RISC-Vについて日本ではあまり語られていなかったから、もしかするとWirelessWireの記事などを読んだ方からの依頼かな、と軽い気持ちで引き受けた。

いざ蓋を開けてみると、その後担当者が僕とRISC-Vについて知ったのは、ドリキンTVのあの回だったそうなのだ。

なんたるセレンディピティ!!!
そして一年前にはRISC-Vとほとんどなんの関係もなかった我輩は、先日東京で開催されたRISC-V Dayで講演を依頼されるほどになり、女優の彼女もできてプライベートジェットでロシアのワールドカップを観戦に行ったり、千葉に豪邸を立てたり酒池肉林の大成功を得た・・・・わけではないが、とにかくドリキンTVの威力は半端ねえぜと思ったのである。

そうしたら、もうこれは、我輩×樋口真嗣で映画評論の番組をやるしかねえ!という結論に至ったのである。
我輩はまあそれなりに鬱陶しいマニアであるため、我輩×サムバディとなると、相手をひどく選ぶ。

たぶん相手がドリキンだと単なるオタクのニワカ苛めになってしまうし、かといって松尾さんだとオタク同士がデュフデュフ言い合うだけの気持ち悪い番組になることは間違いない。

ここでは、半端なオタクである我輩を、むしろSFによって人生を破壊され、そして自らも作品によって他人の人生を破壊しにかかっている、一人で人類補完計画を遂行中の当第一の特撮映画監督である樋口真嗣に我輩がオタクとしての無知を怒られるという展開でしか、この番組は成立し得ないだろうと考えた。

そうして生まれたのが、「シン・特撮魂」である。

とはいえこれは苦難の道だった。
そもそもビデオ編集は得意だったとは言え、それは大昔の話で、YouTubeにおける適切な音量設定などのノウハウが全くなく、小手先のテクニックのみに頼った構成で自分自身も混乱した。

4KHDRがどうしてもやりたくて、変な色になってしまった第一回や、効果音がうるさすぎる第二回などなど、数々の苦闘を乗り越えてようやくまともな感じで視聴に耐えるクオリティにまでもってくることができたと思う。今は過去のエピソードは再編集中で、まもなく新規公開するつもりである。

そもそも第一回の途中で番組コンセプトが固まったので、最初はめちゃくちゃだった。
徐々に形になって来たというのが実態だが、それでも樋口さんと真剣に小松左京作品の素晴らしさについて語り合った日々は非常に勉強になった。

小松左京映画の素晴らしさは、一言では語り尽くせない。
その熱さ、素晴らしさは樋口監督自身の口から聞くのが最も伝わるだろう。我輩なんかが語るというのは、失礼というものだ。

小松作品全体を通して伝わって来るのは、圧倒的な人類愛と、人類への希望である。
樋口監督自身は、「ひょっとすると唯一、それを正統に後継できているのは富野由悠季監督だけかもしれない」と言う。

たとえばモビルスーツが現れて、毒ガスやコロニー落としといった最悪の人災を経たとしても、なお人類は、ニュータイプという新しい形態に進化することでみんなと分かり合える世界がやってくるはずだという、願いに彩られている。

小松左京の軸で富野作品を振り返ると、より深く小松作品の世界を理解できるかもしれない。

メッセージは一度や二度で伝わるものではない。
宣伝に「もういい」はない。

基本的に樋口監督が多忙のなか、なにかにつけて時間をやりくりし、この番組を作り続けるのは、ひとえに人類への愛、小松左京を通じて多くの人々に人類の進歩とはなにかという問いをなげかけたいというひたむきな思いだけである。

ぜひ一人でも多くの方に番組ではなく、小松左京作品に触れていただき、その魅力に目覚めていただきたい。
そう切に願うのみである。

プロフィール

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Ryo Shimizu (@shi3z)
長岡市生まれ。プログラマーとして世界を放浪し、
人類の未来に想いを馳せる男。

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