見出し画像

Guardant Healthとリキッドバイオプシー

Guardant Healthは、がんのリキッドバイオプシーのサービスを提供している会社です。創業者のHelmy Eltoukhy氏はスタンフォード大の研究者でした。Helmy Eltoukhy氏とAmirAli Talasaz氏は、ゲノム配列決定のパイオニアであるIllumina社で様々な研究職に就いた後、2013年にGuardant Healthを設立しました。Gurdant Healthは、がんのあらゆる段階の腫瘍細胞内の分子情報を活用することで、がんの克服を目指しました。そして、彼らはこれまでのところ成功を収めています。

2014年には、進行期のがん患者に最適な治療法をマッチングさせるリキッドバイオプシー検査「Guardant360」を発売しました。これは現在、世界で最も売れている総合的なリキッドバイオプシー検査です。Guardant Healthは2017年に「GuardantOMNI」を発売し、製薬会社が抗がん剤の効果を評価する臨床研究の支援をしています。

Guardant360とGuardantOMNIは、これまでのところ驚異的な売上を上げています。2019年第4四半期には、Guardant Healthの売上高は前年同期比91%増の6,290万ドルに急騰しました。

Guardant Healthの株価

画像2

株価はIPO価格(19ドル)を著しく上回る水準で推移しています。ソフトバンクGが2017年のラウンドからGuardant Healthの資金調達ラウンドに参加し、400億円の資金を注入しました。2019年9月には、Guardant Health株490万株を売却しましたが、依然2000万株を保有し、筆頭株主ということです。

Guardant Healthの製品の今後の可能性

画像3

Guardant HealthのGuardant360の潜在的な可能性については、同社は、リキッドバイオプシーの市場規模は米国で60億ドル規模と推定していますが、それに対して昨年の同社の総売上高は2億1440万ドルでした。純利益に関しては、依然マイナスであり、成長優先となっています。

非小細胞肺がん(NSCLC)患者のうち、リキッドバイオプシーによるゲノム検査を受けている患者は8%未満です。大腸がん患者のうち、ゲノム検査を受けている患者は40%未満です。これらのデータはGuardant Healthにとって大きなチャンスとなることを示しています。

Guardant Healthで、現在研究用としてのみ利用可能ないくつかのリキッドバイオプシー検査は、さらに大きな可能性を秘めています。LUNAR-1は、がんサバイバーの再発の検出を対象としているだけでなく、製薬企業が補助化学療法などの、新薬開発の機会を提供するのにも用いられています。LUNAR-2は早期がんの検出を対象としています。LUNAR-1の潜在的な市場規模は、年間約150億ドルになる可能性があります。LUNAR-2の市場は、米国だけでLUNAR-1の2倍以上になると考えています。合計すると、年間500億ドル以上の市場機会があると見ています。

日本においても、Guardant Healthは、国立がん研究センターと共同でSCRUM-Japan GI-SCREENプロジェクトを実施しています。この研究では、抗EGFR抗体薬による治療を過去に行った大腸がんの患者さん約200名を対象としますが、今後は全消化器がん患者さん約2000名に対象を広げ、リキッドバイオプシーを使った遺伝子解析の有用性を確認する予定です。この研究で、特定の遺伝子異常が見つかった患者さんは、対応する治療薬の臨床試験へ参加できる可能性があります。

リキッドバイオプシーとは

画像3

固形腫瘍の性質が、悪性なのか良性なのか、また、どのような治療法が効くのかを調べるためには、従来、固形腫瘍の一部の採取のため、体に針を刺したり、内視鏡を入れたりる必要がありました。リキッドバイオプシーは、血中に流れるがん細胞が放出するDNAやRNAを読み取り、がん細胞の有無や性質を読み取る技術です。採血のみでできるため非常に低侵襲ですが、血液にはがんの遺伝子だけでなく、その他、様々なものが流れ込むため、精度を上げる技術が必要です。近年、それらの精度は、AI技術の発展で飛躍的に高まりました。Guardant Healthのサービスは、競合他社のサービスと比べても、その精度が高いことが特徴です。これは、先行者利益やAI技術者、医学研究者の力の賜物と思われます。

リキッドバイオプシーは、DNA、RNA、たんぱく質、細胞外小胞であるエクソソーム、様々な種類の腫瘍由来生体物質をターゲットとし、また、血液、尿、脳脊髄液、または唾液などの様々な体液を解析します。Guardantの技術は、CtDNAという血液循環腫瘍由来(Circulating tumor: Ct)DNAが使われています。他にもエクソソーム中のmiRNAをターゲットとした方法が、より早期のがん発見につながることが期待されています。

日本でも、2019年「がんゲノム医療」が動き始めました、その中核となるのが「がん遺伝子パネル検査」です。保険収載されたのは、国立がん研究センターとシスメックスが開発した「NCCオンコ パネル」と、中外製薬が扱う「ファウンデーションワンCDx」の二つの検査システムで、厚労省が認めた全国11カ所の中核拠点病院と、連携する135の医療機関で検査ができますが、一定の条件があります
(固形がんで再発や進行により標準的な治療が受けられない患者、小児がんや希少がんなどの)。Guardant360を日本で受けるのは、自費診療になりますが、日本でも多くの有名病院で提供しており、費用もおおよそ40万円ほどで受けられます。Guardantの製品は、前述の通り、高い精度を有していることが指摘されています。人種の違いなどによる精度の差などあると思いますので、人種差を考慮した、また日本人に適したリキッドバイオプシー検査の開発などが今後待たれるところです。

Guardantのライバルは?

画像4

今の所、この有望な市場でのライバルは、Grail(カリフォルニア)です。Grailは、DNAシークエンシング最大手のIlluminaからスピンアウトした企業で、Microsoftの創業者ビル・ゲイツやAmazonのジェフ・ベゾスから資金調達しています。血中の無細胞血漿DNA(cfDNA)に含まれる肺癌由来遺伝子変異を、次世代シーケンサー(NGS)で検出するリキッドバイオプシーを行なっています。

米国臨床腫瘍学会(ASCO)2019では、Guardant、Grail双方が、それぞれの固形腫瘍血液検査のデータを発表しました。Guardantは、大腸癌の外科的治療を受けた患者では陽性的中率は88%、陰性的中率は79%であったが、補助治療を受けた患者ではより正確では、陽性的中率は100%、陰性的中率は81%と発表しました。これらのデータは、再発モニタリング検査としてのLunarの採用を推進する上で非常に重要な意味を持ちます。Grailは、CCGA試験に参加した166人のがん患者の血液サンプルで、Grailのメチル化技術を用いて検査されたデータを発表しました。この検査では、乳がんの96%、肺がんの88%、肝臓がんの90%、膵臓がんの100%を含む166検体中144検体(87%)で、腫瘍の由来組織を正確に同定することができたとしています。

Guardantは個々の適応症に焦点を当て、Grailは汎癌検査に全力で取り組んでいます。これらの戦略のどちらがより成功したかが明らかになるまでには、もう少し時間がかかるでしょう。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?