深夜ナポリタン

帰宅する頃には大体酔ってヨレてしまっている。お酒と一緒にご飯はあまり食べない、なので帰ると妙に炭水化物が食べたくなってしまって 酔っているのか はたまた操られているのか 自然と乳白色系の何かをほうばっている。

言い訳がましいのだけれど、昨日は家に帰るまで珍しくシラフだった。ただ、飲みたくなかったわけじゃない。昨晩は車で出かけただけで、飲んで帰るわけにはいかなかったが、帰宅すればやっぱりというか、なんというか、寝酒とばかりにアーリーの瓶を掴んでいた。

そのうちに、妙にそわそわし始め、読んでいた本を閉じて台所に向かった。掴んだパスタをへし折って鍋にいれ、茹でている間に玉ねぎとウィンナーを炒める。茹で時間?そんなものはかっていない。どうせのびた方が美味い。それがナポリタンのいい所──と言いたいのだけれど、本当の所は、タイマー入れ忘れたのだ。にもかかわらず、ナポリタンはそんなミスすら受け入れたのか、塩を入れたかどうかもわからないのに、いつも通りの味。少し僕をあまやかし過ぎじゃないかと思う位に。

そもそも、深夜にナポリタンというだけで危険極まりない。ナポリタンのカロリーは当然だけど、それよりも胸やけが怖い。にも関わらず目玉焼きを乗せたのは無意識で、一口食べ、内なる声とやらに喋らせてみれば「これが間違い無いんだ」とのこと。そういえば 最近は喫茶店に行ってもよくナポリタンを食べていることに気がつく。結局、意識で語る僕は、どうやらナポリタンに卵を乗せたこいつのお飾りでしかないらしい。そんなもんだ。乗せているはずが乗せられているし、人はいつまでも上手に嘘はつけない。おまけに、酔ってる自分はこらえ性がなくて、人より嘘を諦めるのがはやい。仕方ないと、僕はカロリー計算を止めて、ふやけたパスタと、とくに語る必要もない事が売りのケチャップをほうばり、読みかけのピカレスク小説を読んで眠る。

 そして今朝、雑居ビルで豚を密輸をする夢を見たあと、胸やけと頭の痛みで目覚めて知ったのは、あいつは次に粗びきソーセージを乗せるつもりだという事実だ。頭蓋の中のテロリストの計画を聞いたらなら、普通は意識に救いを求めるものだが、僕の場合、助けてくれるとは思えない。嘘が下手なせいで、夜になれば酒におぼれるマニラの警察と同じで、きっと僕はまた止められない。優しすぎて、ヒモ男にばっかり引っかかりそうなナポリタンがもう脳裏にちらつく。僕はとっくに諦めてる。これを書いている最中、スマホから目を離し、横に居る連れの顔を見た時にも、頬の端を通り過ぎるスーパーのチープな看板が気になってしょうがないのだから。


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