見出し画像

『週刊DiGG』#8 -最新HIPHOPレビュー 8曲 紹介('20/10/11〜10/16)-

今週も始まりました『週刊DiGG』。#8では、10/11〜10/16までに公開された最新MV8曲をレビューをつけて紹介します。数年後には資料として使えるよう、曲にまつわるエピソードや関連リンク、そして時代の空気を封入しました。

▶︎ カッコいい曲 + アーティストの事も知りたい
▶︎ 心に空いた穴は、音楽でしか埋めれない

という方にオススメの記事です。最新HIPHOPを一緒に味わってください。

※ 歌詞=リリック、サビ=HOOK、ラップをしているパート=Verse
とHIPHOP用語で表記しています。
※ アーティスト名に下線がある場合、TwitterまたはInstagramとリンクしています。

──────────────────────

|KREVA / タンポポ feat. ZORN|

2020/10/13 公開

「理想の自分とは程遠い でも…」

これは KREVA が2005年にリリースしたヒット曲「イッサイガッサイ」のワンフレーズ。

以前は、「CDを100万枚売りたい」と宣言していたが、テクノロジーの進化に伴い、音楽をとりまく環境が変化した。高みを目指す目標に変わりはないが、方法論を変化させ、また一からチャレンジャーとして挑もうという姿勢が感じられる。

その一環として現在行っているのが、下の世代のミュージシャンとのコラボレーション。ラッパーでは、PUNPEE、VaVa、そして ZORN と共演している。

ZORNからのオファーに応える形で共演が実現した「ZORN / One Mic feat. KREVA」。ZONEとのフリースタイルでマイクを交わした際、「あんなに力みなく、淀みなく、あんなに韻を踏めるんだ」とKREVAは素直に才能を認めている。

そして、この曲では、ZORNが客演参加するほど息の合った2人。相手のリリックに、韻で返したり、1〜1/2小節ごとにリリックを交換したりと、MCバトルとは異なる言葉の掛け合いをみせる。まるで会話のように楽曲内で言葉を交わす様は、般若にMCバトルへの参加を挑発されても応えなかった、KREVAからの回答に思われる。

ZORNは、「味噌と米」「洗濯もの」など生活の染みついたワードを選ぶことで、生活者として、子供を持つ父親としてのリアルを提示。同時に同業者にラッパー像にとらわれすぎて型にハマってないかと疑問も投げかける。

2人とも、これでもかと韻を重ね、誰にもマネできないカッコよさがある。

道端のどこにでも咲いている「タンポポ」をあえてタイトルにした所が感慨深い。

「理想を言おうよ 今だからこそ
 現実の中で見れる夢 宝物」


⬇︎ZORNにフリースタイルをやろうと誘われた時のエピソードをKRAVAが語った動画。


──────────────────────

|FinalWeaponCompany / song(Track by 猿灰)|

2020/10/11 公開

MC HANG が主宰する謎多き音楽集団・Final Weappn Comnpany 。その謎がリリースを重ねる度に明らかになっており、MVに出演しているのは、男性ラッパーMAHO-、女性ボーカリストのmashiro、女性ラッパー/シンガーでもあるtasatoの4人だ。『Final Weapon Company RADIOでは他のラッパーが喋っており、どこまでメンバーかは今だ謎に包まれている。

5/16に1st EP『koukotu』をストリーミング配信し、この時期にわずか2ヶ月間でMVを6本も公開するなど驚異的なペースで作品を残していた。しかし、そこからプツリと鳴りを潜めていた。これは嵐の前の静けさで、今度は『koukotu』シリーズ vol.2 & 3 & 4 の3枚を10/26に同時リリースするという。

10/8に公開されたテイラー映像には、各曲ごとに映像の断片が映っており、再びドカドカとMVが公開される予感である。



そして、この「song」は『koukotu』vol.2に収録される曲。
現実との折り合いが付けれない4人。ある者は目を閉じ、ある者は距離を置き、ある者は歌を歌う。Verse2ではHANGが向き合う決意を語ることで、わずかな希望がある。

不器用にしか生きれない彼らの悲しみを、ピアノの旋律が優しく包み込む。

「生きているよりも 死んでないだけみたいな
 そんな悲しい世界に なって欲しくないだけ
 夢を見るだけ 自由の逃避行」



⬇︎tasatoによる制作エピソードが書かれた手記


──────────────────────

|kZm / F*** You Tokio I Love U! feat. 5lack (Prod. DISK NAGATAKI & Chaki Zulu)|

2020/10/13 公開

Tokio の街は Feel so tired

東京を代表する大所帯HIPHOPクルーYENTOWNに所属する kZm 。渋谷区出身の彼が、「TOKYO, I hate you.」と歌う。

ウィルスの影響で、自宅にとどまることを余儀なくされた時期に書かれた曲。ライブハウスが世間の槍玉にあげられ、ミュージシャンとしての活動の自由を奪われ、機能不全に陥った都市への憤りから出た言葉だと思われる。

kZmが尊敬する客演参加の 5lack は、NTTドコモのCMに起用された「SILENT POETS / 東京feat. 5lack」という曲で、東京オリンピックを2年後に控えた東京が、世界中から注目される期待と高揚感を、ストリングスとアコースティックギターに乗せてラップしていた人物。

2020年、この未来予想図が大きく崩れたのは周知の通り。人が都市に一極集中する危うさ、テクノロジーを駆使すれば、地方でも情報が手に入り、仕事も、コミュニケーションもできることを露呈してしまった。

そんな東京への複雑な気持ちが、「F*** You Tokio I Love U!」というタイトルに表れている。寂しさがあるが、それより自分たちの理想とする都市を、自分たちで作ろうという気概が感じられる。



⬇︎「SILENT POETS / 東京feat. 5lack」が起用されたCM


──────────────────────

|Gerardparman / 24/7 feat.Disry (Dir.by BASIL) |

2020/10/14 公開

「4つの海岸 = 四国」という意味から「4TH COAST」を掲げ、四国を背負うラッパー Disry 。LIVEでは激しい曲でモッシュが起き、怪我人がでるほど爆発力あるラップをカマしてくれる。

そんな彼の魅力を存分に生かすのは、北九州の最重要人物:Gerardparman 。神経を逆なでする電子音。それを24時間/7日続けるというのだから正気でいられる訳がない(笑)

嫌いな言葉 暇
大事な言葉 今

メロディアスではないにもかかわらず、短い言葉にキャッチさがあり耳に残る。あと、24/7を英語読みではなく、「にじゅうよん/なな」と歌っているのも語呂がいい。

激しさと聴きやすさを兼ね備えており、LIVEで大騒ぎできるキラーチューンとなっている。



⬇︎Disryが、聴きやすい楽曲と激しい楽曲と毛色を分けていると語った動画(4分10秒〜)


⬇︎著者が、Gerardparmanならびに北九州の若手クルーの魅力を伝える動画


──────────────────────

|8cloudbroz / inner Babylon(Prod.0mSv) |

2020/10/15 公開

サーブスケート、アパレル、アート、タトゥー、など遊び仲間で構成された大阪の SEERES CREW 。その中の音楽部隊:adnymspook draDON-8 の4人で構成された 8cloudbroz

メンバーは、9castle、BNKR街道というクルーにも参加して活動の場を広げ(と言うか周囲が放っておかなかった)、油の乗り切った熟成感がある。これほどリリースが待たれたグループもないだろう。


「えげつな〜 トライアングル
 キリギリ ぶっ倒れそう」

地下を気だるい煙が渦巻くダウナー感、不穏なメロディ。「タタタタン」と不用意に鳴る太鼓がかもし出す雑多感。表街道ではなく、路地裏で鳴り響く音楽。



──────────────────────

|SATUSSY / A Piece Of Cake|

2020/10/16 公開

ー A Piece Of Cake = 朝飯前 ー

2002年にデビューし、MV「韻踏合組合 - "一網打尽 (REMIX) feat. NORIKIYO,SHINGO★西成, 漢」では、1731万回再生(‼️)という金字塔を打ち立てたHIPHOPの老舗クルー 韻踏合組合 。その組合長である SATUSSY のソロ作品。

メンバーである、HIDADDY はフリースタイルで、ERONE はMCバトルでテレビなどのメディア露出が多く、控え目な印象だったSATUSSY。しかし、この曲では自分の存在を大きく打ち出す。

「韻踏の中心さ 注意しいや
 HIDADDY、ERONE は飛び道具
 ほんで 俺が心臓で脳みそ」 

20年以上のキャリアで、数多くのラッパーがシーンから消えていったのを尻目に、自分は修羅場をぐぐりぬけ、一線で活動しているという自信がみなぎる。音と映像とのギャップからもそのことが伺える。

スポットライトを俺に浴びせろという強いメッセージを、声を張り上げず、HOOKもなく、小さな波のフローで最後まで聴かせるのはさすが。余計に引き込まれる。

グループにあえて波風を立たせ活性化させる。韻踏合組合がさらに面白くなりそうだ。



──────────────────────

|TATSU / KICK PUSH|

2020/10/11 公開

東京で活動するラッパーとは思えない好青年・TATSU 。1st EP『YOU&ME』では爽やかさが前面に出ていたが、2nd EP『KICK PUSH』では、必死でもがく様やダークな要素も取り入れ、深みが増した作品に仕上がってる。

タイトル曲である「KICK PUSH」は、スケートをテーマに、危険を顧みずに滑るスリリングさ、街中を走り抜けるスピード感が、親しみやすいメロディに乗せて歌われる。

車輪がコンクリートの上を転がる音や、風を切る音まで聞こえそう。ラッパーとしてだけでなく、メロディメイカーとしても注目を集めそうなアーティストである。

「月の夜 丑三つの犯人
 Exite 街路抜けRiding
 監視カメラ警備を回避
 大金を掴むようにMake it」



──────────────────────

今週のHIPHOPニュース

この『週刊DiGG』でも何度が取り上げていますが、AbemaTV『ラップスタア誕生』シーズン4が面白い。1416名から8人に絞られた4thステージでは、一対一の楽曲バトルが繰り広げられています。

特に好勝負だったのが、Itaq vs ralph。Itaqの曲で「あ〜いいわ〜」と思い、ralphn曲でも同じことを思いました。審査員も相当悩んでいたけど、「もうどっちもいいのに勝敗つける必要ある?」って思ってしまうほど素晴らしい戦いでした。

番組の最後に、急遽敗者復活戦が投票で行われていて、試合による温度差を埋めようとした苦肉の策だったのでは?と想像しました。それぐらいガチンコで試合をしていた証拠ですね。

ファイナルステージは10/29(木)21時から2時間スペシャルで放送されるので、見逃すわけにはいきません。楽しみです。


──────────────────────

さらにHIPHOPを知りたい人へ

最新HIPHOPを7曲紹介してきました。皆さんのお気に入りアーティストは見つかったでしょうか?オススメのMVがあれば教えて下さい。チェックしにいきます。

『週刊DiGG』では、これからも毎週HIPHOPを紹介していきます。まとめて読みたい、という人のために『月刊DiGG』も始めました。月1回 約30曲分をまとめてチェックできるので、お好みでどうぞ。見逃さないようフォローをお願いします。


またYouTubeでもHIPHOPを紹介しています。登録者数が伸び悩んでいるのでチェックしてもらえると嬉しいです。では次週お会いしましょう。またね!


⬇︎毎月2回、プレイリストを作っています。'20/10/1〜10/15までに公開されたMVの中から厳選した30曲をセレクトしました。今回紹介しきれなかったいい曲がたくさんあるので聴いてみて下さい。


⬇︎『週刊DiGG』バックナンバーはこちらから

スクリーンショット 2020-10-18 22.20.41


HIPHOPを広めたい一心で執筆しています。とは言え、たまにこれを続ける意味があるのかと虚無感に襲われます。 このまま頑張れ!と思われた方、コーヒー1杯おごる感じでサポートお願いします。自信をつけさせて下さい。