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「9-nine-そらいろそらうたそらのおと」で心を完膚無きまで砕かれた男の話

ネタバレ注意。




前作に引き続き、俺が友人3人に配信という形で計4人プレイによる9-nine- 2作目の感想…いや、備忘録を書いていく。

本記事では話題を1つだけ取り上げる。と、その前にストーリーを紹介しておこう。
前作の続きではなく、あくまでも前作の途中で「もしある日妹に押され、渋々泊めることになったら」というルートを辿っている。本作の言葉で言うなら「枝が違う」のだ。よって、都とあんなことをしたという事実は実質なかったことになっている。ただし、その代わり主人公の翔は妹の天と交流を深めていくことになる。

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公式サイトのキャラクター紹介にもある通り、新海天はよく笑い、よく動き、よく喋るおてんば娘だ。ついでに言えば俺たち4人の内2人の性癖にクリーンヒットしたという打率5割の持ち主だ。

社交的なだけあり、本作では主人公以上に交友関係を広げるキーパーソンとして縦横無尽に立ち回る。ブラコンという一面もあるが、天真爛漫な性格の延長と見ても違和感のない感じだった。にいやんにいやん言いながら兄の数百時間のモン〇ンのデータ消してもギリギリ許せるラインにいる妹、といえる程「五月蠅くて良い子」という印象だ。
ゴメンやっぱモンハ〇のデータ消す奴許せねえ。


さて、ストーリーに戻ろう。天の持つ「存在感を操作する能力」は、具体的には「どれだけ自身(もしくは周辺の人)の存在感を薄くできるか」が調節できる。
能力者は能力を酷使すると暴走してしまう。天は翔を救うために石化事件の犯人を撃退した代償として、能力が暴走し自身の存在感が徐々に薄れていく。親しみが浅い人から少しずつ、しかし確実に天が忘れられていく。

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解決策はあるものの、それまで天が消えないよう手を打つ必要がある。それは、天自身が「消えたくない」と絶望せずに強く意志を持たなければならなかった。

だが非情にも時間は過ぎていき、都、春風、希亜、そして家族にも忘れられていく。遂には翔自身も能力の影響で忘れられ、2人だけの世界となってしまった。

天も限界を迎え、文字通り極限状態となった時。天は兄の翔にお願いをした。

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「ずっとね、お兄ちゃんのことが好きだった。
小さいころから……物心ついたころから、好きだった。
絶対に言わないつもりだったけど……ずっと隠してきたけど……もう、いいよね。
あたしが消えたら……この告白も、お兄ちゃんは忘れちゃうから。
だから、いいよね。消える前に……、最後に、思い出をもらっても。
夢を……叶えても。
あたし……お兄ちゃんが好き。ずっと、ずっと、好きだった。
だから……あたしを。好きじゃなくてもいいから……あたしを。消えちゃう前に……あたしを。」
「恋人に、してください。」

そう、本記事における唯一の議題は、妹の要望に応えるか応えないかだ。


・・・。

実は、この選択肢は予想出来ていた。前作に能力が暴走した事例があったことと、開始時の意味ありげなワンシーンから妹が暴走して消えることは何となく分かっていた。
しかも、このシーンに至る1時間前から俺たちは「これ絶対天消えちゃう奴じゃん…早くハッキリさせてくれ…」とメンタルをじりじりと削られていた。なんなら俺は既に泣いていた。

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天の想いを受け入れるべきか。俺たちは1時間くらい、ずっとここにいた。

決めきれなくて、友人3人からどうすべきか聞いた。
「俺たち3人は議論する為に意見を言うんじゃない。あくまでもただの一般人のチラ裏程度に考えてくれ。お前がどっちの選択肢を取ろうが、俺たちはその判断を尊重する。ただ、後悔する判断を絶対にするな。」と前置きされた上で、3人分の意見を聞いた。思考回路が吹っ飛び、全権委任された俺にはもうどうしようもなかった。


正直、俺は素直に「受け入れる。」を押したかった。天を少しでも慰めてやりたかった。
でも少し考えた。もし押したら、天は翔と恋人として一夜を過ごすことになるのだろう。でもそれは、翔が「妹の我儘を受け入れた」という仮初の恋人になることだ。

もし天がそのことに罪悪感を覚えてしまったらどうなるのだろう?
いや、憧れの翔と恋人として過ごした事実を噛みしめて、生きようと意志を強く持つかもしれない。
待てよ、そもそも翔が仮初の恋人としてじゃなくて、翔からも天に恋愛感情を持っているかもしれない。

わからない。


じゃあもしも、「受け入れない。」を押したら?
妹の気持ちを汲まないんだ、そりゃBADENDルート確定だろう。ゲーマーとして見るならば、先にBADENDルートを回収しておくのが気持ちよくゲームを回すのに最適だ。

でも、妹の気持ちを汲まないという訳じゃなく、天真爛漫な妹をもう一度見たいというメッセージだったら?恋人になるのは元気になってからで、それまではバカ騒ぎするぞなんて突拍子なことも十分あり得る。やっぱり妹はおてんば娘であってほしいし、翔とケンカしてるのが一番似合う。
そういうメッセージこそが、妹を想う兄として一番じゃないか?

わからない。



僅かな思考回路を動かし、結局出たのは「ストーリーから一歩引いたゲーマーらしい効率的な選択をするなんて出来ない」という気持ちだった。

だって、そこに居るんだ。天が。まだ生きているんだ。
体力を振り絞って、嫌われるのを覚悟で、自分の気持ちを正直に話した天がそこに居て、こっちを見て"生きている"んだ。

その時、主人公の翔に全身全霊で投影している自分に気が付いた。
そこから先はどんな思考をしたのか覚えていない。



ただ、俺は意を決して判断した。

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震える指でマウスをつかみ、下の選択肢を押す。ただそれだけの動きが長く永く感じて、ようやく見た天の悲しげな顔。

瞬間、人生で感じたことのない程の罪悪感が押し寄せてきた。
後悔はなかったはずだった。でも、この選択をした自分を否定してほしかった。もういっそのこと殺してほしかった。擦り減ったメンタルが壊れ、視界が歪み、喉から感情が出て、どうしようもないものが溢れ出した。

1時間、ずっと嗚咽を漏らして泣いた。
友人と話していることも忘れて叫び散らかし、懺悔を喚き、「どうしてこんな決断をして俺は生きているんだ」と何もかもに殺される気持ちでいた。「殺してくれ」とも叫んだ。

その間、友人に「間違った決断じゃない」とずっと慰めを貰っていた気もするが、もうあんまり覚えていない。ただ自分の中で廻り続ける感情を、全部外に出していた。それだけしか出来なかった。

俺に妹は居ない。だが、そこに妹の天は居たんだ。それが全てだった。
その全てが、俺を壊していた。




涙を拭いたティッシュの山が出来た頃、漸く心が落ち着き始めた。

でも、天の顔を見るとまた咽び泣きそうになる。手が震えて次に進めなくなる。涙が枯れることはなく、それでも決断したからには進まなければならず。

オートモードに頼ることなく、俺は続きを読み始めた。



そこからは、怒涛の展開だった。
ゴーストの死、リグ・ヴェーダの壊滅、新たな魔眼の持ち主、暗躍するソフィー。ただぼけーっと眺めていたような気がするし、ストーリーを純粋に楽しんでた気もする。
えっちなシーンはちゃんと見た。えろかった。

途中、何で咽び泣いていたんだろう、と当時の感情が上手く思い出せないことに気がついた。強烈な記憶は逆に抑圧されることもあるらしい。
ただ、その咽び泣いた事実は忘れてはならないんだろうなと思った。

3作目に続く。


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