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サンクチュアリの考察

Netflix史上最高レベルで面白かった。
人間の動物的部分を掻き立てられるような部分と、相撲という伝統的でドメスティックなカルチャーを客観的に捉えつつも熱く描写していたのが胸熱だった。

あらすじ:田舎から親父の借金を返すため上京し相撲で稼ごうとする話
ポイント:意識高い系の女性記者が、女性禁制かつ暴力的な相撲文化をおかしいと正論で指摘するのが面白い。
躾といいつつ暴力的な教育、伝統といいながらやり方を変えないあたりはグローバルから見ても異質であり、昨今話題のジャニーズやラグビーしかり、世界から指摘されるのは当然た。ただ、日本人としてそもそも相撲というカルチャーがよく分かってなかったり、なんであんなに閉鎖的なのかもわからなかったので、日本人としても改めて勉強になりつつ変革を迫られても仕方ないカルチャーであることは間違いない。その、まさにサンクチュアリ(聖域)に対して女性記者と、ケンカ上がりで型を学ぼうとしない主人公が角界をぶっ壊すと乗り込んでいくあたり、この2人がサンクチュアリをトリックスター的立ち位置で指摘している構図が面白い。
また、相撲が給料だけでなくスポンサー収入やタニマチにより成り立っているなど経済・ビジネス的観点からも描写されていたり、恋愛・風俗・暴力といったエログロナンセンスからも描写されていて、そのあたりが人間の根源的欲求を揺るがす(というか逃げない)
のも良かった。

主人公のライバルである静内との思想対決も面白い。
主人公は父を溺愛しており、しかし父親は機能しない。
ダメな母親がいて、結局その母親によって「覚醒」される。
徐々に変わる、そして「化ける」。
主人公の変化は「化ける」という言葉が1番しっくりくる。
一方静内も母親の自殺により幼少期から化ける。
両者の強さの根源は、いずれも母あるいは父の喪失だ。
強さとは何かを喪失にそれを埋めるために死ぬほど努力したことと引き換えに得られるものという思想がある。
各界のプリンスである龍貴も同じく母親の喪失(家出)により甘えを捨てざるを得なくなる。
サンクチュアリ=相撲とは、女性禁制といいつつ母親(女性)によって化けたり変化を余儀なくされているところが面白い。
女性の犠牲のもとに成り立っているものなのかもしれない。

スキャンダルのもみつぶしのシーンも震えた。
主人公がオラオラで怖さを出そうとするが、そういった一見威勢の良い怖さよりも、龍谷部屋のタニマチの伊東の、静かな笑顔といつでも家族を殺せることをめちゃくちゃ遠回しに伝える、これが本物のヤクザというか恐怖の伝え方なのだと震えた。

この伊東や相撲界もそうだが、何か宗教じみたところがある。
新聞記者の女性も最初はトリックスター的に相撲界に間違っている部分に正論を吐いていたが、最後の方は完全にハマっていた。
サンクチュアリには宗教的な側面もある。
相撲は四股が大事で腰を低くタックルするには四股が必須、小指の力の重要性など身体の使い方の合理性の話はありつつも、礼や不合理なルールなど、合理性の外にあるものも包含してこそのサンクチュアリなのだ。

そして大事件の6話、静内戦。
勝ったと思ったら妄想で、耳をちぎられてしまう。
この、耳をちぎるというのは色々な意味がある。
物語の静内との関係性でいうと、主人公は静内のことをフランケンというあだ名で呼んでいた。
無感情なところを揶揄していて呼んでいたと思うが、皮肉にも耳をちぎられ耳を縫われて体がつぎはぎにはった主人公は、身体的にフランケンシュタインになったわけだ。
静内からの皮肉な返しだった。
二つ目は、耳ちぎり事件といえばピンとくるだろう。そう、マイクタイソンだ。
対戦相手とレフェリーの不条理な態度に腹を立てて行った愚行だが、これは日頃相撲界に対し舐めた態度をとっていた主人公に対する罰だと考えられる。
そして三つ目。
日頃主人公は、四股の大切さを耳にタコができるほど聞かされていたが一切聞く耳を持たなかった。
人の話を聞かない=耳無し、というメタファーが、耳をちぎられるというシーンの意味なのではと思った。
耳をちぎるシーンに、フランケン=静内からの逆襲と、相撲界からの罰と、人の話を聞かないことのメタファーが込められていたのではないか。

そしてそこからの改心、は見事。
ずっと相撲部屋に掲げられていた「守破離」の文字が、7話にして回収され、基礎を徹底的に鍛えて強くなる。
最終話が尻切れトンボになっているのもスラムダンクの山王戦のオマージュだと思われる。

まとめると、
・人間の動物的側面を駆り立てられる
・相撲界をビジネス的、宗教的、主観的、客観的な視点で描写
・相撲は女性禁制でありながら外側で女性の影響・犠牲の上に成り立っている
・耳をちぎられるのは静内の逆襲と相撲界からの罰と人の話を聞かない主人公のメタファーが示唆
・現実やアニメのシーンのオマージュが楽しめる

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