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イタリアのミラノでランドスケープを学ぶ ~1年目を終えて~

ミラノ工科大学修士課程で、ランドスケープアーキテクチャを学んでいる、みづきです。 2年間のプログラムのうち、半分を終えた時点で執筆した記事を公開します。 前半の1年間、どのような経験をしたか、皆さんにお伝えできればと思います。

また、こちらの記事と同じ内容となっております。
https://www.lagroupstudio.com/post/イタリアの街ミラノでランドスケープを学ぶ

イタリアってどんな国?

首都:ローマ
宗教:カトリック教
人口:58.426.000人
公用語:イタリア語
日本との時差:-7時間(サマータイム), -8時間

人口は日本の半分なのに、面積は日本の8割なんです!

 

ミラノ工科大学とは?

キャンパスは7個、学生数は5万弱と、イタリアの中でも大きな工科大学です。 ワールドランキングを見ても、アート・デザイン分野で特に長けています。

ランドスケープコースの概要

大学名:Politecnico di Milano (ミラノ工科大学)※略称、Polimi
学位:Master of Science(修士)
学部:School of Architecture Urban Planning Construction Engineering(建築学部)
学科:Landscape Architecture. Land Landscape Heritage(ランドスケープコース)
言語:English
キャンパス:Milano Leonard Campus
年数:2 years
Academic Year (a.y.): 2020/2021(2021.09~授業開始)
※2学期制 / 1学期目は9月~、2学期目は2月~
学費:3.891,59€ / year(年間約50万円)

コースURL:https://www.landscape.polimi.it/
建築学部URL:https://www.auic.polimi.it/en/

授業は英語で行われます!(学科によってはイタリア語)

この学科の私の学年は、イタリア人2割、中国人5割、残り3割が他国出身です。 また、常に2割以上が交換留学生で、半年間や1年間など、一時的に滞在する学生も多いです。 さらに、秋入学(多数)と春入学(少数)がいるので、人の入れ替わりがとても多く、誰がどういう所属か把握するのが一苦労です。 交換留学生も含めると、学科の人数は約80人です。

とにかく各国から学生が来るので、多様性が多いのが特徴!

年間スケジュール

2学期制です。(9~12月が1学期、2~6月が2学期) 長期休み=テスト期間で、早くテストを受け終わった人から休みに入ることができます。 テストは、長期休み期間中3回受けることができ、受けなおしが可能です。 試験科目が多ければ、科目ごとに時期を分けることもできます。

時間割(1年目1学期)
時間割(1年目2学期)

在学中に、120CFU(単位)を取ることが卒業要件です。 大学指定のインターンまたはワークショップ、あるいはどちらもが必須です。 外国から来た学生は、どこかの学期でイタリア語の授業を取らなければいけません。 上記は、私の時間割です。 日本の大学院の授業に比べ、座学がけっこう詰まっていると思います。

授業紹介

では、実際にどんな授業が行われているのか、見てみましょう。

フィールドワークが多く、実際に現場に足を運んでランドスケープを見る機会が豊富!

URBAN AND RURAL LANDSCAPE

単位:4CFU
教授:PROF. SCAZZOSI LIONELLA
最終試験:口頭試験とレポート課題

この授業では主に、「ヨーロッパ景観条約」に基づいたランドスケープの保全ついて取り扱いました。 ユネスコの世界遺産は、目立った場所だけを遺産として認定しますが、ヨーロッパ景観条約は、周辺とのかかわりも含めた人々の日常的な生活と深く関わるランドスケープを、遺産としてとらえてます。 たとえば、日本の美しい棚田について考えてみましょう。 棚田では、人々が暮らす民家をつくるために森の木を切ったり、稲作をするために川の水を引いたり、自然のシステムを作りだしています。 そこには目に見える関係性だけではなく、人々の歴史や文化、宗教や伝統が深くかかわっているのです。 棚田の景観を保全するためには、そのような無形遺産にも目を向ける必要があります。

授業で出てきたキーワードです↓

最終評価

  • レポート課題2つ(2~3人のグループワーク)

  • 授業内のアクティビティ3つの出席率

  • 口頭試験

レポート課題

  1. ミラノのイタリア式庭園の保全方法に関する分析。

  2. 各学生の国の出身地の「ルーラル・ランドスケープ」(前述のような、人々が食糧生産の過程で作り出してきた有形や無形を含むランドスケープの遺産)についてのケーススタディ。

授業内のアクティビティ

  1. なるべく多様な国出身の学生構成で5~6人のグループを組み、各国の「ランドスケープ」「遺跡」「保全」の定義をまとめ、比較し合い、プレゼンしました。

  2. ミラノ市内の歴史ある公園に行き、庭園としての空間をスケッチで分析したり、歴史ある公園が現在どう使われ、保全されているのかを学んだりしました。

  3. 「ランドスケープを五感で感じる」というテーマでゲスト講師を招き、自然豊かな公園で様々なアクティビティをしました。たとえば、2人1組になり、1人は目隠しをします。もう一人が事前にルートを決め、目隠しをした人にランドスケープを体験させます。明るいところから暗いところに行ったり、でこぼこ道を歩いたり、いろいろな手触りの植物に触れたり。ふだんランドスケープを認識するときは、視覚情報が大半を占めますが、視覚がなくなったらどうなるのか…?新鮮な体験でした。

口頭試験

レポートと授業内容全般に関する質疑応答。成績を決める上で、口頭試験の割合がいちばん高いです。

PHYSICAL GEOGRAPHY AND GEOMORPHOLOGY

単位:4CFU
教授:PROF. ALBERTI LUCA
最終試験:口頭試験とレポート課題

日本でいう地学の授業です。フィールドワークが2度ありました。

フィールドワーク1

かつて海だった場所が隆起し、その後氷河でU字型に大きく削られた場所です。 周りの山々の多くは、海由来の石灰岩でできていますが、氷河が運んだ火成岩や変成岩も見られます。 また、かつての人々の営みと自然との共生も見られ、たとえば人口の湖で作られる「泥炭」は現在も燃料や建材、肥料として使われます。

フィールドワーク2

同じく、氷河の浸食によりできた湖の、周辺の山に行きました。この山は、花崗岩でできています。花崗岩は硬いため、浸食されず山として残ったそうです。

最終評価

  • レポート課題(各学生の出身国の地域を選び、その地勢についてまとめる)

  • 口頭試験(レポートと授業内容全般に関する質疑応答)

OPEN SPACE SYSTEM AND PARK DESIGN STUDIO

単位:12CFU
教授:PROF. SALA GIOVANNI, PANDACOVIC DARKO, SCAZZOSI LIONELLA
最終試験:A1シート6枚の設計要項、課題図書に基づく中間試験

いわゆる設計課題です。学期を通してメインの授業です。

このような感じで、最初に3か所敷地調査をします。 毎週木曜日に1か所、翌週金曜日に各自、訪れた場所の分析をレポートにまとめ発表します。 最終的に1か所、設計したい場所を決め、4~5人のグループを組み、設計に入ります。 上記の"3 Strategy Steps"に基づいて設計します。

敷地調査1

山の中腹にある古くからの小さな村と、村と湖畔を結ぶ昔の街道に行きました。

敷地調査2

自然豊かなティッチーノ川を保全する国立公園。2002年に世界遺産に認定されています。
かつては修道院が力を持ち、地域の農業の仕切っていたそうです。
「湿地牧草地」がある貴重な場所です。

敷地調査3

12世紀にできた旧市街地と、アルプスに続く山に挟まれた谷に、川が流れます。 山には、斜面を活かしたブドウ畑が広がり、とても綺麗です。 自然と歴史が豊かですが、時を経るにつれ、廃れてしまっています。

レクチャー

ゲスト講師を招いたレクチャーも豊富です。 樹木の描き方を教わったり、植物の標本の仕方を習ったりしました。

HYDRAULIC STRUCTURES AND ENGINEERING

単位:4CFU
教授:PROF. BECCIU GIANFRANCO
最終試験:口頭試験とレポート課題

雨水や排水の処理をどう行うか、などといった専門的な授業です。

このように、レインガーデンの詳細図を描いたり、必要面積の計算をしたりしました。 既存の河川工事のケーススタディの課題もありました。

MOBILITY INFRASTRUCTURE TECHNIQUES

単位:4CFU
教授:PROF. DEBERNARDI ANDREA
最終試験:口頭試験

高速道路、橋、トンネルなど、インフラを設計する際に大切なことを学ぶ授業です。 口頭試験では、授業で出てきた事例の写真をランダムに1枚出され、それについて15分間説明するという、少しタフな試験でした。

LANDSCAPE CULTURE AND HISTORY

単位:8CFU
教授:PROF. JAKOB MICHAEL FRANZ
最終試験:レポート課題

こちら推しの授業です!
ルネサンス期の西洋絵画を中心に、ランドスケープを紐解きます。 人間中心主義のはじまりとされるルネサンスですが、ランドスケープも、人間という主体がなければ成り立たないのではないか、という教授の主張です。 様々な芸術作品を例に、ルネサンスと関連付けながら、人間のランドスケープへのまなざしの変化を解説していきます。 最終レポート課題は、ペトラルカの著書「ヴァントゥ―山登攀」について文章を書くというものでした。 「ヴァントゥ―山登攀」とは、ルネサンスの始まりとされる、近代登山(アルピズム)を初めて行ったペトラルカが、その体験について友人に宛てた手紙です。

ECOLOGY AND AGRONOMIC SCIENCE

単位:8CFU
教授:PROF. ACUTIS MARCO, MELIA' PACO VASCO ALDO
最終試験:筆記試験とレポート課題

上記のようなキーワードをもとに、幅広く、エコロジーと農業学についての知識を学びました。 レポート課題では、グループを組み、うち1人の出身国のランドスケープを選び、上の写真のようにエコロジカルモザイクを分析する課題を提出しました。

国内旅行と山登り

もちろん授業も勉強になるのですが、イタリアに来たからには足を運ぶべき場所がたくさんあります。 私は特に、国内の小さな街へ意識して旅行するようにしています。 豊かな自然、美味しい食べ物、温かい人々…。 ローカルな魅力がてんこ盛りです。 それではさっそく、おすすめの順番に見てみましょう。

Cinque Terre

ブドウ畑と海岸の岩、海の青がとっても綺麗なところです。 これぞランドスケープ!

Matera

8世紀から13世紀にかけ、イスラム勢力の迫害を逃れたキリスト教徒の修道士たちが、洞窟内に130余りの教会や住居を造ったあとが、いまでも残っています。

Alberobello

かわいらしいトゥルッリが特徴的です。

Civita

凝灰岩の台地の浸食が進み、崩壊の危機にある死にゆく街。 2500年以上前、古代ローマ以前に栄えた古代エトルリア人によってつくられた場所です。 いまなお残っているのがすごいですね。 現在、この村には16人しか住んでいないらしいです。

Orvieto

Civitaの近くにあります。 断崖絶壁の丘に立つ、地下が穴ぼこだらけの街で、エトルリア人最後の聖地でした。 紀元前8~6世紀につくられたと言われています。 断崖で敵も近寄らない、風通しの良い天然の要塞です。

Tivolli

丘の斜面に面しているので、街には昔から滝が流れています。 高低差を活かした噴水で、チボリ庭園が有名。 水力を利用した製紙工場もあったが、今は廃墟となり、そのままになっています。
左下の建物は、紀元前2世紀に礼拝所として建てられたあと、豊富な水の存在を活かし、羊毛工場、製紙工場、水力発電所など、様々な産業に使用されました。(現在は遺跡として公開)

Rome

ローマ市内も魅力的ですが、古代ローマの水道橋がおすすめです。

Venezia

イタリア人にも大人気なヴェネツィア。 中世の風景がそのまま残っているのが魅力です。

Lecce

南イタリアの、まさに地中海といった風景が広がります。 右上の写真は、なんと墓地。 私は、各地を旅するとき、墓地に立ち寄ってみるようにしています。 それぞれの地域で違った特徴が見られ、面白いです。

Sicilia

地中海の様々な文化が入り混じった、少しカオスで魅力的な南イタリアの島です。

Isola Bella

湖に浮かぶ島そのものが、宮殿になっています。

Nesso

ほぼ観光客のいない隠れスポットです。

Firenze

ルネサンス芸術の宝庫。 中心地はもちろん、周辺にある円形劇場もおすすめです。

Bolzano

隣国のオーストリアとスイスの国境に近い場所にあります。 建物や食べ物も、ほかのイタリアとはまた違った雰囲気。 クリスマスマーケットで有名です。

Torino

工業都市。 トリノ工科大学があります。 レンゾピアノがリノベーションをした建物が有名です。

Monte Colonizzolo

ここからは山の紹介。 まだ北イタリアの方にしか行けていませんが、イタリアには気軽に登れる山がたくさんあります。 この山はミラノから電車で1時間半程度です。

Dolomiti

北イタリアでもっとも有名な、アルプスに近い山です。 なんと、標高3740mの地点でスキーをしました。 富士山越えです。

Monte Resegone

ほぼクライミングでした…。 ヤギと遭遇してかわいかったです。

イタリアの建築

Carlo ScarpaやArdo Rossiなど、有名建築家の建てた建物が多くあります。

まとめ

以上、イタリアで過ごした1年間をまとめてみました。 イタリアは、予想以上に自然が豊かで、文化と歴史にあふれた素敵な場所でした。 ほかのヨーロッパの国と比べても、これだけ堪能し甲斐のある国はないのではないでしょうか? 知れば知るほど、奥深い沼にハマっていきます…。

ランドスケープを学ぶ視点から見ると、豊かな地形、気候、自然環境はもちろん魅力のこと、人々が築いてきた自然との関係が、ランドスケープとして保全され、いまでも身近に体験できるのが貴重だと思います。

1年間だけでも充実していたので、交換留学生として来るのもおすすめです。 旅行だけでも十分楽しめると思います。

ミラノでお待ちしております!

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