シーズン3配信開始!『ネットフリックス大解剖』より、「ポップカルチャーの新しいルール。またの名を『ストレンジャー・シングス』」をためし読み公開

 ネットフリックスの超人気作『ストレンジャー・シングス』シーズン3が、アメリカの独立記念日にあたる本日7月4日から配信開始されます。
 ネトフリのオリジナルドラマ・シリーズを徹底考察した書籍『ネットフリックス大解剖 Beyond Netflix』では、「ポップカルチャーの新しいルール。またの名を『ストレンジャー・シングス』」と題し、本作の画期性について「3つのルール」を紐解きながら論じています。今回は、それらルールのひとつ「[ルール その2]ホラーが再びメインストリームに」をためし読み公開いたします。執筆者は映画・音楽ジャーナリストの宇野維正さん。ぜひご一読ください。

ポップカルチャーの新しいルール。またの名を『ストレンジャー・シングス』

文:宇野維正

[ルール その2]ホラーが再びメインストリームに
 1975年にスティーヴン・スピルバーグの『ジョーズ』が記録を塗り替えるまで、歴代世界興収1位に君臨していた作品はウィリアム・フリードキンの『エクソシスト』(1973年)だった。そもそもその『ジョーズ』自体も当時はホラー映画的な文脈でムーブメントを巻き起こした作品だったが、リチャード・ドナーの『オーメン』(1976年)、ブライアン・デ・パルマの『キャリー』(1976年)、ダリオ・アルジェントの『サスペリア』(1977年)、ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978年)、ジョン・カーペンターの『ハロウィン』(1978年)、そしてスタンリー・キューブリックの『シャイニング』(1980年)と、その後も毎年のようにエポックメイキングなホラー映画が公開されて、世界各国で大ヒットを記録。ロマン・ポランスキーの『ローズマリーの赤ちゃん』が公開された1968年あたりから1980年代前半にかけて、ホラー映画は娯楽映画のサブジャンルから、大きなマネーメイキングの可能性を秘めた映画のメインストリームへと着実に発展していた。

 言うまでもなく、映画本来の見世物小屋的な特性と切っても切れない関係にある怪奇映画の歴史は、それ以前から途切れなく続いていたわけだが、80年代初期にはメインストリーム・カルチャーのなかでの怪奇映画や怪奇テレビシリーズのリバイバルという注目すべき動きもあった。怪奇映画の名優ヴィンセント・プライスも参加したジョン・ランディス監督によるマイケル・ジャクソンのミュージックビデオ『スリラー』(1983年)。ランディス、スピルバーグ、ジョー・ダンテ、ジョージ・ミラーが参加したオムニバス映画『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983年)。ロメロがキング(脚本)とともに作ったオムニバス映画『クリープショー』(1982年)。そのスピリットは、のちにジェイソン・ブラムが設立したブラムハウス・プロダクション作品(2000年~)の一部などに引き継がれていくことになるが、当時は継続的なムーブメントまでには至らなかった。

『ストレンジャー・シングス』シーズン1 エピソード1の期日、つまり主人公のウィルが失踪するのは1983年11月6日。ホラー映画に近年まで続いてきた「マニアック」だとか「B級」だとかのイメージが定着するようになったのも、ちょうどそのころだった。理由は大きく3つ。ひとつは、先に挙げたような監督たちの名匠化や巨匠化、あるいは単純に関心の領域が移ったことで、その多くがホラーのジャンルからみずから離れていったこと。ふたつめは、それ以前にも『エクソシスト』のシリーズ化などの前例はあったものの、1981年の『ブギーマン』(ハロウィンⅡ)と『13日の金曜日 PART2』のヒットが呼び水となって、ホラー映画が「続編が粗製乱造されるジャンル」になっていったこと。そして、3つめはふたつめのこととも大きく関係しているのだが、世界中でレンタルビデオショップが展開するようになって、そこでホラー映画のコーナーが集客やレンタル回転率において重要な役割を果たすようになったことだ。ホラーのコーナーの棚を埋めるために発掘されていった、世界各国で過去に作られてきたB級~Z級ホラー。低予算でとりあえず作られる新作のシリーズものやイタリア資本の入ったマカロニウェスタンならぬマカロニホラー作品(言わばホラー映画のVシネ化)。特に90年代以降、クエンティン・タランティーノのようなレンタルビデオ店のバイト出身の映画作家の台頭、また日本では「映画秘宝」文化圏の成立などもあって、レンタルビデオ文化を背景とするB級映画の氾濫は擁護の対象、さらには称揚の対象にされることさえあったが、ことホラー映画に関して言うなら、スプラッターという大義名分の裏で進行したコメディ化、セルフパロディに次ぐセルフパロディ、ジェイソンやフレディに代表されるキャラのネタ化などによって、質的低下と緊張感の欠如、つまりはジャンルとしての退廃をもたらしたことは指摘しておくべきだろう(そのなかで孤軍奮闘、シリアスな設定のなかで恐怖描写に磨きをかけていたJホラーが、00年代以降、世界中のホラー映画に影響を与えることになったのも必然だった)。

『ストレンジャー・シングス』が画期的だったのは、スピルバーグとキングというその二大ルーツが示すように、これが「B級」ホラーではなく、あくまでも1983年ごろまでのメインストリームのホラー作品やSF作品の歴史とダイレクトに連結した「あり得たかもしれない過去」を創出する試みであったことだ。スピルバーグの『E.T.』(1982年)やドナーの『グーニーズ』(1985年)との近似性やシーズン2における『ゴーストバスターズ』へのオマージュも、そうした補助線を引けばクリアに理解できるのではないだろうか。また、『ストレンジャー・シングス』については80年代ポップ・カルチャー全体からの夥しい参照や引用が話題にされてきたが、それらはあくまでもネタ元であって、軸となるストーリーに直接的な影響を与えていないことにも着目すべきだろう(そこが、「ルール その1」で述べた「影響の逆流」のもうひとつの例証ともいえる、スピルバーグの『レディ・プレイヤー1』(2018年)とは違うところだ)。数々の参照元を持つ『ストレンジャー・シングス』は、それでもひとつの独立したシリーズとして、まるで1983年に作られた作品のようなシリアスなホラーやSFのトーン&マナーに貫かれている。そもそもネットフリックスは、レンタルビデオビジネスの発展形として、ネットを介したレンタルDVDの宅配サービスから始まった企業。いわば、すでに衰退しつつあったレンタルビデオ・ビジネスを宅配サービスと、その後のストリーミング・サービスで「二度殺した」ことになるわけだが、そのネットフリックスの現在を代表する作品が、レンタルビデオ文化が普及する直前の80年代前半のアメリカの田舎町を舞台にした『ストレンジャー・シングス』であることは、偶然だとしても感慨深いものがある。

『サスペリア』が政治的アートフィルムとして蘇り、『ハロウィン』が本来のシリアスさを取り戻してリブートされて大ヒットを記録した2018年。ホラーは再びメインストリームのカルチャーとして完全復活を果たした。ジェームズ・ワンが指揮する『死霊館』ユニバースの勃興、『パラノーマル・アクティビティ』(2007年)に端を発するブラムハウス・プロダクションの攻勢、A24(映画配給・製作会社)を中心とするポスト・ホラーへの試み、『ウォーキング・デッド』(2010年~)やライアン・マーフィーのテレビシリーズ『アメリカン・ホラー・ストーリー』(2011年~)への継続的な支持。もちろん、ホラー映画が完全復活した背景にはそうした同時多発的なジャンルへの真摯な取り組みもあったわけだが、そのなかでも『ストレンジャー・シングス』は世界的にもっとも幅広い層への影響力を放ち、また今後(シーズン3以降)もトレンドセッターとしての役割を担っていくことだろう。(続きは『ネットフリックス大解剖』P.177にて)

※転載にあたり、動画および埋め込みリンクを加えています。

《書誌情報》
『ネットフリックス大解剖 Beyond Netflix』
ネット配信ドラマ研究所 編
四六・並製・232頁
ISBN: 9784866470856
本体1,500円+税
https://diskunion.net/dubooks/ct/detail/DUBK239

〈内容紹介〉
イッキ見(ビンジウォッチ)がとまらない。
世界最大手の定額制動画配信サービスNetflixが製作・配信する
どハマり必至の傑作オリジナルドラマ・シリーズ11作品を8000字超えのレビューで徹底考察。
ネトフリを観ると現代社会が見えてくる!

〈目次〉
・麻薬戦争という名の“ネバー・エンディング・ストーリー”――ナルコス(村山章)
・ブレイキング『ブレイキング・バッド』――ベター・コール・ソウル(小杉俊介)
・〈他人の靴を履く〉ことへの飽くなき挑戦――マスター・オブ・ゼロ(伊藤聡)
・熱狂的なファンたちに新たなトラウマを残した人気シリーズ続編――ギルモア・ガールズ:イヤー・イン・ライフ(山崎まどか)
・愛することの修練についての物語――ラブ(常川拓也)
・酸いも甘いも噛み分けた厭世馬の痛み――ボージャック・ホースマン(真魚八重子)
・ラジオブースから届ける分断された社会へのメッセージ――親愛なる白人様(杏レラト)
・少女の自殺が呼んだ大きな波紋――13の理由(辰巳JUNK)
・ポップカルチャーの新しいルール。またの名を『ストレンジャー・シングス』――ストレンジャー・シングス 未知の世界(宇野維正)
・ポスト・ヒューマン時代のわたしたちを映し出す漆黒の鏡――ブラック・ミラー(小林雅明)
・死にゆく街のハイスクール・ライフと死後の世界がひとつになるとき――The OA(長谷川町蔵)

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