まず最初に自己紹介させていただきたい。
私の名前はダクト飯。過去にはカラケーの管理人をしていた時期もある恒心教徒だ。恒心教はなんJから派生した団体であるから、一般の皆様にとってはなんJ民だと認識してもらって構わないだろう。実際なんJはよく覗いている。

私は今回勃発した「YouTubeのネトウヨ動画を報告しまくって潰そうぜ」という騒動について、複雑な心境で見ていた。
はっきり言って、私は「表現の自由原理主義」という思想の持ち主であると自負している。表現の自由は色々な面で必要だから、個人の「憎悪を向けられない権利」を削ってまでも、表現の自由は確保されるべきという考えだ。
言ってしまえばヘイトスピーチ規制に反対するという立場なのだ。

表現規制の萎縮効果。表現規制をする手段を政府が持ったときの、悪用される懸念。「やってもいい表現規制」を国民や国際社会が認めたとき、政府はその範囲を拡大解釈で広げていく可能性。表現規制への疑問自体を規制した場合の不可逆性。民主主義政権が過激主義を弾圧することは、過激主義が万が一政権を担ったときに民主主義を弾圧する口実となる……これらの理由から、表現規制は行なわれるべきではなく、また線を引いてヘイトスピーチを表現の自由の例外とすることは無理だろうと、考えているのだ。「日本死ね」だって、現政権ならヘイトスピーチに含めそうだし。
しかしながらヘイトスピーチを放って置くわけにはいかないので、司法ではなく民意によって処罰されるべきだ、と考えている。つまり近年国民が手にしたインターネットという巨大な権力のもと、火炙りの刑に処されるべき、と思っている。それも、「言論以下のヘイトスピーチ」というようなものではなく、「朝鮮史を完全に誤解した間違った言論」「てめえの意見はわかったがクッソうざいんじゃボケ」という風に、言論としての尊厳を保ったまま。
「わが闘争」だろうと、「アンネの日記」だろうと、ただの文字列として扱うインターネットの世界では、このように表面上の平等性を保つほうが、グレートファイアウォールを設置するよりよっぽどいいと考える。

というわけで、なんJ民の言う「ヘイトスピーチは言論ではない」という意見には賛同できない。ネトウヨの言う「言論の自由の侵害だ！」という意見には、賛同するしかほかない。

しかし、だからといってなんJ民の活動を否定するわけではない。
なんJの語録で好きな言葉に「俺は嫌な思いしてないから」という言葉がある。究極のエゴイズムだし、彼らの哲学である。
おもえば、エゴイズムはネットの世界の基本哲学だと言える。ハッカーたちは俺は嫌な思いしていないのでどこかのサーバーをクラッキングし、セキュリティの専門家たちは嫌な思いしたくないので対策する。
嫌な思いしたくない。その心は、痛いほど理解できる。YouTubeでリオ五輪の閉会式の動画を見ているときに、関連動画欄に並ぶドギツい文字の動画たちは、はっきり言って不愉快だ。
おそらく、もしネトウヨではなく反ヘイトの人が同じような動画を上げていたら、ラディカルフェミニストが同じような動画を上げていて、同様に削除する手段があったら、なんJ民は同様に行動しただろう。
だからこそ、もっとやれと思う。

ただ、これは倫理感が崩壊したなんJ民がやるからまだ笑い話になることで、もしもYouTube運営が、あるいは政府がやりだしたら、とんでもないことだ。
政府や運営は倫理意識を持っている。その倫理意識を持った状態で言論弾圧したら、それは倫理意識がおかしくなっている。ベクトルではなく絶対値が、方向ではなく強さが。
ヘイトスピーチ規制の次は、LGBT規制。LGBT規制の次は、淫夢動画の作者のIP晒し上げが始まるんじゃないか。あるいは、もっと別の場所へ向かい、最終的に自分自身がインターネットから排斥されるんじゃないか、と、無意味な危惧を抱かざるを得ない。
それに片足つっこんでるという現状はあるけども。

「俺は嫌な思いしてないから」。
この言葉を発したのは、なんJの有名なクソコテで、発言の直後に特定、炎上し、現在まで災厄を被り続けている。
嫌な思いさせられたから、嫌な思いさせる。この幼稚極まりないなんJのやり方は、ある面でインターネットの本性であるし、ネット民としてもっとも適したやり方だと思う。
そこに政治の左右や正義論を(建前としてでなく)持ち出したら御仕舞いだ。