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夫とケーキ

夫はお酒も飲むが、甘いものが好きな人だ。
特に洋菓子が大好き。それなのに太らない。
鍛えているわけではないが、中年太りとは無縁の体をしている。
どうやら、そういう血筋らしく、夫の親戚はみなスタイルがいい。
羨ましい。

夫はケーキについていろいろこだわりがある。
例えば、生のフルーツでデコレーションされたケーキは食べない。
夫が言うには「果物は火を通すことで甘みが凝縮されて美味しくなる」んだそうで、夫は果物を練り込んだフルーツケーキやタルトを好んで食べている。
ちなみに私は両方大好きだ。

夫にきいてみた。

「あなたが一番好きなケーキって何?」

夫はしばらく悩んだあと、こう答えた。

「サバラン」


ん?サバランって何?

「ブリオッシュを洋酒に浸して、てっぺんにクリームをしぼってるんだよ。そういえばもう何年も食べてないな。最近、どこのケーキ屋にもおいてない」

そうだろうね。だって私、見たことないもの。
夫が熱くサバランについて語ってくれる。
聞いていたら、そのサバランとやらがものすごく食べたくなってきた。
それ以降、ケーキ屋さんにいけば「サバラン」を探すのだが、いまだに一度も店頭で見たことがない。

先日、馴染みのケーキ屋さんの店長さんに「サバラン、おいてないですか?」ときいてみた。
店長さんは申し訳なさそうな顔で「やってないです。最近はどこもやってないですね」と言う。

「探してるんです。どこかおいているお店をご存知ないですか?」
「この辺りでは見かけたことないけれど、僕が修行にいっていた〇〇という洋菓子店ではやってましたよ」

そう言って、店長さんは、そのお店の名前と場所を教えてくれた。

夫に話してみた。
すると翌日、なんと夫、サバラン求めてそのお店まで会社帰りに電車を乗り継いで行ってきたらしい。すごい執念。

ところがお店は見つかったものの、現在は、もうやっていないとのこと。
がっかりして帰ってきた。

先日、二人で梅田までお買い物に行った。
途中で「疲れたから、お茶でも飲もうよ」と、たまたま目に入ったカフェにふらりと入った。

メニューをみた夫。
興奮したように「凛子さん、見て見て」と指差す。

「ババがあるよ」
「ババって何?」
「サバランみたいなやつだよ。ラム酒につけてある。凛子さんはラム酒が好きだからたぶん気に入ると思う」

「美味しいよ。僕はこれにする」とケーキセットを注文する夫。
じゃあ、私もと同じケーキセットを。

出てきたババ。飴色でツヤツヤしている。
昨今、派手なデコレーションのケーキを見慣れているせいか、その地味さにびっくり。っていうか、これケーキか?

ラム酒の香りがほんのりする。
フォークを入れると、ジュブジュブとスポンジから音がしそう。
ラム酒ビタビタだな。

ぱくりと食べた。

おっ、

おっ、

美味しい~


なんて美味しいの。ラム酒に濡れたスポンジがじゅわじゅわ口の中に染み込むよう。
ケーキっていうよりパンじゃない?と言いたくなるけれど、もうそんなことはどうでもいい。

二口目は、クリームをたっぷりつけて。

美味しい~。幸せ~。

ドボドボのラム酒に浸ったスポンジと生クリームが絶妙に合う。
なんともいえない風味。大人のお菓子って感じ。
バクバク食べた。

ストレートの紅茶がとても合う。
今日は暑いけど、この味には温かい紅茶がぴったり。

「すごく美味しいね」
「でしょ?懐かしいな。昔、よく食べた」

それにしても、こんなに美味しいババ。
ますますサバランが食べたくなるなぁ。