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アスタラビスタ 7話part6

「清水さん。あの、聞きたいことがあるんですけど……」

 近づいた私に顔を向けた清水は、いつもの優しい微笑みを浮かべ、答えた。
「聞きたいこと? 何?」

 隣にいる雅臣は私を無表情で見つめ、私が口にする言葉を待っているようだった。


「その……見えていたんですか? 晃さんの刀。見えていたから、最後、飛び込んで行ったんですか?」

 私の質問に清水の笑みが消えた。隣にいた雅臣は、なるほどと言わんばかりの顔で、何度か頷いた。

「それ、あたしも気になる。自分で言うのもおかしいけど、晃の技はスピードも速い。普段手合せする時、清水は晃の技、全部目で追えてるの?」
 「スピードも速い」という亜理の言葉に、晃は笑顔で「ありがとう」と照れていた。
よそでやれ、と内心思った。

「紅羽ちゃん、ここでそれ聞いちゃう?」
 清水は困ったように首に手を当て、ため息をついた。

ここで聞くのは、確かに無礼だったと思う。戦った相手である亜理や晃もいる。
また今後、対峙する可能性のある人間がいるところで、戦略を聞くのは清水を殺すことになる。

 だが、清水は分かっていたはずだ。
私をここに連れて来ようと言ったのは清水だ。私が尋ねてくることぐらい、容易に想像できたはずだ。

そう。この男は私に、尋ねさせたかったのだ。自分の技術について。

だから呼んだのだ。


「……全部は見えてないよ。あんなに速くて至近距離な技、俺の目では追えない」

「じゃ、どうして飛び込めたんですか? 全部を目で追えないのなら、リスクが大きすぎると思います」

 私を見下ろし、清水はニヤリと笑った。何がそんなに面白いのか、私には分からない。私は重要なことを聞いているはずなのに。


「刀が見える必要ってある?」

 最初、何のことを言っているのか分からなかった。見える必要だと? 見えなければ、何もできるはずがないじゃないか。

「え? 清水どういうこと?」
 亜理も疑問に思ったようで、声を上げた。

「見えていなくても、相手の身体さえ見えれば、充分に戦えるでしょ?」
 清水の言葉に、亜理は首を傾げ、晃に小声で「え? どういうこと?」と尋ねていた。


 私ははっとした。清水は刀を見ていたんじゃない。晃の身体の動きを見ていたのだ。
晃の身体の動き、筋肉の動きを見て、来る技をあらかじめ予測していたのだ。

 晃の持っている武器の形状は、初めから把握できた。ならば凄まじいスピードでも、身体の動きだけで推測できる。

 この男は普通じゃない。ただ単に武術をやっていた人間じゃない。彼は競技以上の強さ、現実としての強さを持っている。
それも人間離れした強さだ。

「もう、化け物ですね」
 話を聞いていた晃は、嘲笑しながら清水を見て呟いた。

「亜理、晃。今の手合せの復習をするぞ」
 雅臣は清水が話し終えたことを確認すると、僅かに私へと目をやり、そして亜理と晃へと向かって行った。

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