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【ドゥイブス・サーチ代表 高原医師インタビュー前編】父の死が背中を押してくれた無痛MRI乳がん検診の開発と普及にかける想い

当社の代表を務める放射線科医の高原太郎先生が考案したドゥイブス法(DWIBS法)。それを活用した、無痛MRI乳がん検診(愛称:ドゥイブス・サーチ)は、「痛くない・見られない・被ばくゼロ」の新しい乳がん検診として注目を浴び、5年あまりで受診者数は2万5千人に達しています。

臨床医の経験と、画像診断法を研究する科学者としての知見を活かし、「患者さんに届く医療」を目指す高原先生に、ドゥイブス法や無痛MRI乳がん検診の開発、普及させる上での苦労についてお話を伺いました。

株式会社ドゥイブス・サーチ代表医師:
高原太郎
1961年東京都生まれ。秋田大学医学部卒業。聖マリアンナ医科大学放射線科勤務、東海大学医学部基盤診療学系画像診断学講師、オランダ・ユトレヒト大学病院放射線科客員准教授などを経て、2010年から東海大学工学部医用生体工学科教授

目次
1. 「ドゥイブス法を検診として普及させなければ」父の死に背中を押され決意
2. 無痛MRI乳がん検診の普及を阻んだ最大の障壁とは
3. 最高の画質で精度の高い検診を提供するため、妥協できなかったこと


「ドゥイブス法を検診として普及させなければ」父の死に背中を押され決意

──まず、ドゥイブス法の開発と、検診として普及させるに至った経緯をお聞かせください。

高原:私は30年間、放射線科医としてMRIの画像診断法を研究する中で、脳梗塞の画期的診断ができる「拡散強調画像」を改良し全身のがんの分布を発見する方法を、2004年に世界で初めて考案しました。それがドゥイブス法(DWIBS法)です。PETと比べて被ばくがないという点で注目を浴び、新聞にも載り、論文では1000回以上引用され、科学者としてはとても満足すべき状況でした。

その後、がんの存在や転移を調べる保険診療として役立てられましたが、それを人間ドックとして利用することに関しては、慎重にならざるを得ませんでした。正直、「お金儲け」と言われるのも嫌でしたしね(笑)。

ところが、今から8年位前、私の父が「調子が悪い」と言うのでドゥイブス法で撮ったら、大腸がんが見つかったんです。ステージ4でリンパ節への転移もあり、治療の甲斐なく1年後に亡くなりました。それはもう、落ち込みましたね。「ドゥイブス法を検診として普及させていれば、3年前に早期発見できたはずだ。肉親も救えず、一体何をやってるんだ」と、後悔と自責の念にさいなまれました。
父の死をきっかけに、「多くの人を救うには、ドゥイブス法を検診として活用する必要性がある」と強く感じたんです。

──全身に用いていたドゥイブス法を、乳がん検診に活用するに至った経緯を教えていただけますか。

高原:2015年頃からドイツのクール教授が「マンモグラフィー検診では、十分に乳がんを見つけられない」と提言し、造影剤を使ったMRIで乳がん検診を始めました。みなし健康者に造影剤を使うことはそれなりにリスクもあり、常識的には考えられないことでした。それを乗り越えて、彼女はやり遂げた。乳がん検診の世界に新風を巻き起こしたんです。

すると造影MRIと比べ、マンモグラフィーは半分から3分の1くらいしか見つけることができないということがはっきりと分かりました。これは日本の研究でも確かめられていて、例えば、40代の乳がんの女性がマンモグラフィー検診を受けた場合、2人に1人しか見つけてもらえないのです。画像診断には限界がありますから、見つけられない場合もあります。しかし残りの1/2の人に「異常がない」といってしまうと、それを信じて病院に行くのが遅れてしまいます。これは非常に問題だと感じました。

ドゥイブス法は、造影剤を使わないMRIの方法ですが、造影MRIと同じぐらい感度が高いという論文がいくつかすでに出ています。そこで、ドゥイブス法をもとに乳がん検診ができる形に作り替えようと開発に取り組みました。

無痛MRI乳がん検診の普及を阻む最大の障壁とは

──それが成功し、日本で「無痛MRI乳がん検診(ドゥイブス・サーチ)」を始めることができたわけですね。2018年3月に御社を創業された際は、高原先生が東海大学の教授をされながら一人で立ち上げられたとお聞きしていますが、ご苦労もあったのでは?

高原:無痛MRI乳がん検診を始めるにあたり、クリアすべき課題はいくつかありました。
1 . 造影剤を使わないドゥイブス法を、実際に多くの受診者さんが受ける検診に用いるときに、精度良く診断できるように細かく工夫する。
2.  効率を高め、短い時間でできる設計にする。
3.  着衣のまま検査ができるよう改良する。

③に取り組んだ理由は、私が放射線科医に転向し乳腺エコー検査を担当していた頃に「マンモを受けないといけないと頭ではわかっているけど、痛みや恥ずかしさから億劫になっていた」という患者さんの声をいつも聞いていたからです。「女性が抱えている恥ずかしさというハードルを越えたい」という一心で、試行錯誤を繰り返し、世界で初めて実現させました。

でも、最大の障壁だったのは、乳がん診療ガイドライン(2015年版)に、「拡散MRIは将来に渡って乳がん検診に役立たない」旨の記載があったことでした。「ガイドラインに違反している」と、名指しで批判する人もいましたし、それに一人で耐えなければいけなかったのが一番の苦労でしたね。ちなみに、この文言は2018年の改定時に消滅しています。努力が報われ、手応えを感じた瞬間でした。


精度の高い検診を提供するため、妥協できなかったこと

──いろんなMRIが日本中にある中で、検診だからこそ精度を保たないといけないわけですが、そのために一番こだわったことを教えてください。

高原:一番重視したのは「受診者さんに最高の画質で精度の高い検診を提供すること」です。受診者さんの命がかかっていると思うからこそ、画質において妥協はできません。
普及させるためにも、公平性の面でも、「MRIがあればどの病院でも無痛MRI乳がん検診が導入できる」とするのが一番理想的な形ですが、ドゥイブス検査を導入していただくにはかなり高い性能を持ったMRIが必要なため、ドゥイブス法で撮れる機種だけを選ぶという方針にせざるを得ませんでした。

同じ自動車でも、スポーツカーや軽自動車のように性能の差があるように、MRIにも性能の差があります。拡散強調度、つまり病変をどれだけ強調できるか、その度合いをb値(s/mm²)といいますが、一般的なMRIでは1000 s/mm²が用いられるのに対し、ドゥイブス検査では1500 s/mm²を用います。
分かりやすく例えるならば、高速道路を時速100キロで走ろうと思えば、軽自動車でも走れますが、時速150キロで走り続けるとなると、高い性能を持った車とテクニックを持ったドライバーが必要ですよね。それくらい違うんです。

──とはいえ、2023年11月現在、無痛MRI乳がん検診を受けることができる病院は全国59施設にまで増えたそうですね。

高原:そうですね。今後も導入したいという病院や、導入できるMRI機器を開発したいという会社があれば、いつでも協力したいと思っています。
おかげさまで、無痛MRI乳がん検診は急速に普及し、この5年あまりで総受診者数は2万5千人に達しました。今後ももっと無痛MRI乳がん検診を普及させるため、会社としても成長していきたいですし、成長を一緒に楽しめる仲間もどんどん増やしていきたいですね。

──インタビュー後半では、読影医に求めるスキルや今後の展望についてお伺いします。


<インタビュー・記事= 藤島知子>