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足骨旅行記0

徳利さんのライブインスタで見ましたが良かったみたいで何よりです。

本当に皆のお陰だなーと思います。

僕が礼を言うのも変なので良かったなってことで。

東京旅行はやるべきことをやってすぐ帰る出張みたいな感じだった。とは言え、普段会えない人やリスナーと会えたりするので充分楽しいわけで、そんな人前に行くとなると男としては床屋くらいは行っときたいわけで。今日はその話を。

僕は中学生からずっと同じ床屋さんに世話になっている。小学生の時行ってた床屋はスポーツ刈りにされちゃうので嫌だった。
高校時代に友達や自分で髪を切ったりしてた時とか、ロン毛にしてた時とか坊主にしてた時とかは除いていつも同じ人に髪を切ってもらっている。

もう二十年近い付き合いだ。友達以外でそんな長い付き合いの人は他にいないと思う。
その理容師は歳は僕の三個上だが中卒で理容師の専門学校に行きながら理容室で見習いとして働いていた。たまたま近所にあったその当時の今時っぽい店構えに引かれて中学校の卒業近く(野球部を引退して結構延びた髪の毛を切ってもらいにいった)に初めて行った。

その後学生時代は上に書いた理由でご無沙汰してたりしてたのに会うといつも友達のように接してくれて、なんとなく頼れるお兄ちゃん的な先輩として相談事をしたり愚痴を聞いてもらったりしていた。

僕が就職したときや結婚したときも喜んでくれたし力を貸してくれた。子供が同級生だったので保育園も紹介してくれた。今のように待機児童が問題視される少し前で意外と保育園に入るのが大変で困っていたら、謎の力業で速攻で入園できるように計らってくれた。そんなときも恩着せがましいことなど一言も言わない人だった。

僕は同級生や前の仕事で知り合った人が数人美容師をしていてそっちからも一回くらい切りに来てよ。と冗談ぽく営業をかけられていたがその人がいるので他の店に浮気することはなかった。

数年前に無事独立して念願の自分の店を持った店主は奥さんと二人で仲良く店を切り盛りしていた。人柄や腕もあって繁盛しているようだ。

先月髪を切ってもらおうとお店に電話すると、週末は一杯です。と奥さんから言われた。
だいたいそういうときは来週の何曜日だったら空いてるけどどう?と聞かれるのだがそのときはそれがなかった。日曜に免許更新(ギリギリ)があったので、ちょうどその人と同じ店で修行をしていた僕の同じ部活の後輩が自分の店を出したばかりだったのでそっちで髪を切ってもらった。○○さんの所で切らなくて大丈夫ですか?と気を遣われたのだが、なんか予約一杯らしくてね。明日免許更新だから切りたかったのよ。と伝えると、後輩はそうなんすね!先輩に来てもらえて良かったす!と髪を切ってくれた。

それから一ヶ月経たないくらいで東京に行かなければならなかった。刈り上げ部分が伸びてみすぼらしくなっている。このままでは花の都大東京にいるであろうD山ギャルにD山さん刈り上げ伸びてるのに東京くるんだ~。イモね。とドクタースランプの三輪車に乗ったサングラスの女の子ばりに言われてしまう。
なので今日は信頼のあの人に切ってもらおうと、合法浮気から三週間ほど経って本妻の店へと電話した。
奥さんが出たのでこの前は後輩くんの店で切ってもらっちゃいました~☺すんません。てへぺろ的な挨拶を済ませて、予約をしたい旨を伝えると、実は先月から○○が体調を崩していて店を閉めていると言われた。

ん?

余りに予想外の話で絶句してしまった。だから予約を断られたのか。。
昨日から体調と相談しながら一日一人くらい切ってると説明を受けて、体調次第では当日にキャンセルさせてもらうかもしれないと条件付きで予約をとってもらった。俺は全然大丈夫ですけど無理しないでくださいね。と伝えて電話切った。

今となっては店主家族と家族ぐるみの付き合いなので、家に帰り妻にその事を伝えてお店に行くべきか気を遣ってキャンセルすべきかを相談した。
妻はお店を営業できてないなら一人でも切って収入になる方が助かるだろうから行くべきだと言った。僕も同意見だった。

当日お店に行くと元々痩せてたら店主がさらに痩せて肌の色も少し黒くなっていた気がした。

大丈夫ですか?と挨拶もせずに聞いてしまった。店主は笑いながら大丈夫よ!と言った。

事前に奥さんから病気のことを言うと怒っちゃうから聞かないでね。と釘を刺された。
無理だろ。と思ったが他人がとやかくいう話ではないので世間話もそこそこに理容室のマシン椅子に座った。

店主からは病状のことは落ち着いたら話すからと言われた。あと、今日は嫁に教えながら切らせてもらうけん。と断りがあった。
奥さんは理容師免許だけ取っていてお店では顔剃りやシャンプーなどのアシスタント的な仕事をしていた。

店主はいつも通り今日はどうしよっか?と聞いて、僕はいつも通りいい感じにしてくださいと伝えた。

店主は僕の後頭部や鏡を見ながらバリカンの入れ方や角度の取り方等を優しい口調で丁寧に奥さんに教えていた。店主はツーブロックの刈り上げ部分を切るときにいつもハサミで切っていた。俺はハサミの方が得意だからと頑なにバリカンを使わなかった。
それが今奥さんに教えるためにバリカンをいれている。僕は、ああこの人はこれからこの仕事ができなくなったりするんだ。と思った。

奥さんと子供の生活を面倒見るのが男の仕事だと思っていたが、こういうやり方もあるんだな。とか、話は違うけどビューティフルライフのテーマが頭の中を流れていたり。そんなことを考えていたら僕は泣いてしまっていた。

体調があまりよくなかった時で鼻炎にもなっていたので鼻炎ということにして誤魔化した。

僕は俺の頭なら失敗してもいいのでガンガンいってくださいと泣きながら言った。
店主は俺がいるからそんなことには絶対ならんけん心配せんでいいよ。と言われてしまった。
奥さんも鼻炎大変だね。ティッシュいる?と優しく聞いてきた。

店主は笑顔で奥さんは疲弊している様子だった。

病名も状態も聞けなかったが、シリアスな状況でなければすぐに言うだろうし二人の様子を見ればただ事ではないのがわかった。

いざ、このお店が閉まったとしても後輩の店や友達の働く美容室もある。それでも僕はこの二人に髪を切ってもらって、どうでもいいお互いの子供の学校生活を近況報告しあいたいのだ。
毎回散髪代もバカにならねーなーとか思ってたけど、この当たり前の幸せに気付かされた。

この二人がこの先どうなろうと僕はこの床屋で一生髪を切ると思う。

いつも通り男らしく刈り上げてもらった僕は東京で誰からもお誘いされることもなく、関係者のおじさん達とクラブに行きとーふさんDJセットもいい感じやなあと音に酔いしれ、大人しくホテルに行き、独りで熱帯魚の映像が延々と流れるテレビを眺めていた。

僕がモテないのはどうやら見た目の問題ではないようだ。

D山ギャルなんていないんだなあ

やまを

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