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[2月第1週] Weekly DAO Report Vol.54| dYdX Foundationが45億円の予算獲得 なぜDAOに"Foundation"が必要なのか?

dYdX FoundationがdYdXコミュニティのトレジャリーから3000万ドル(約45億円)の資金調達に成功した。この予算は向こう3年間で下記のさまざまな用途に使われる予定だ。

Source: dYdX Forum 「dYdX Foundation 3000万ドル予算の使い道」

dYdXは取引量でDEX1位、2位を争う取引所だ。昨年10月にdYdXチェーンを立ち上げて「完全分散化」を果たした。これまでニューヨーク拠点のdYdX Trading社が取引板の管理を中央集権的に行なっていたが、dYdXチェーンのローンチによって世界に散らばる60のバリデーターが取引板の管理を行うことになった。また、フロントエンドはdYdX Operations SubDAOというDAOが運営することになった。

完全分散化後のdYdX Foundationの役割は何になるのだろうか?本稿ではこの点について解説する。本稿で述べる意見はdYdX Foundationの公式見解ではなく、筆者個人の意見となることを断っておきたい。

dYdX Foundationの仕事

まずは筆者も所属するdYdX Foundationが、大型の予算獲得に成功できたことにお礼を述べたい。日本のコミュニティのサポートには大変感謝している。

dYdX Foundationは2021年8月に誕生した。dYdX Trading社が創業者が所属し開発者が中心に集まる企業である一方、dYdX Foundationはスイスに拠点を置く非営利団体で、ガバナンスやコミュニケーション、法律、ビジネスの分野に強いメンバーが揃っている。

完全分散化した後も、dYdXのプロダクトのアップデートは必要だろう。平たく言えば、dYdX Trading社は、コードをアップデートしてオープンソースで公開するまでが仕事だ。それを実際に使うかどうかは、dYdXのコミュニティもしくはフロントエンドの管理者が決める。

一方、dYdX Foundationは、dYdXのガバナンスをサポートしてdYdXの成長に貢献することを掲げている。具体的には何をすることなのだろうか?率直に言うと、大変地味な仕事だが、現時点で欠かせない仕事だと考えている。

現在、先述のdYdX Tradingを含めて、dYdXエコシステムには実に多くのステークホルダーが参加している。

  • dYdX Trading社(開発)

  • dYdX SubDAO(dYdX DAOで専門分野ごとに予算を獲得して設立。今後も増える可能性あり)

    • dYdX Grant Program (助成金の差配)

    • dYdX Operations SubDAO (フロントエンド dYdX.tradeの管理)

  • 世界中に散らばる60のバリデーター(取引板の管理)

  • デリゲートやコミュニティメンバー(発言が影響力のあるメンバー等)

  • ACX (トレーダーのカスタマーサポートなどで連携)

  • CosmostationやKeplrなどCosmosのエクスプローラーやウォレット企業

ポイントは、上記に挙げたすべてが別々のエンティティで事業をおこなっているという点だ。実に多くの参加企業がいることが分かる(筆者も名前をあげ忘れているエンティティがいるかもしれない)。まさに分散化の世界といったところではないだろうか。

問題は、これだけ多くのプレイヤーが「調整役」なくして一つの方向に向かって動くことが難しい点だ。特にdYdXチェーンが立ち上がってばかりの現在、方向性を示すリーダー的存在が必要だろう。プロダクトの改善というごく局所的な場面ではdYdX Trading社がリーダーシップを発揮する。全体のリーダーシップはdYdX Foundationが発揮すると名乗りを上げたということだ。

調整役の仕事は、複数のエンティティのコミュニケーションを円滑に進めるために間に入ったり、フォーラムでの議論や投票を周知したり、世界中に散らばるdYdX foundationスタッフの現地の声を届けたりなど、多岐にわたる。dYdX Foundationが直接提案をしたり(今回の予算獲得のための提案は例外)、何かの決定をしたりすることはない。内容的に地味な理由がわかっていただけるだろう。しかし、個人的には重要な役割だと思っている。

「段階的な分散化(Progressive Decentralizatioin)」を進める

DAOの分散化とは、0か1かの話ではない。現在のdYdX DAOを見渡せば、実に多くの中央集権的な問題が散見される。例えば、「グラントチームの審査方法が不透明だ。一部のプロジェクトにしか助成金を渡していないのではないか」や「バリデーターのVP量(投票力)が上位に偏りすぎだ」など、多くの課題が指摘されている。ごもっともだ。dYdX DAOだけではなく、完璧に分散化したDAOを探す方が難しい。

ご指摘の課題は正しい。しかし、重要なのは「それは今議論することだろうか?」と問いかけて優先度を考える視点だ。多くの課題が山積みである中、どれから解決すべきなのか。この点は、いわゆるDecentralization Maximalistの間で忘れられやすい視点だ。リソースが限定されていたり外部環境との競争に耐えずさらされる中、どの課題から解決していくかの順番作りが重要だ。私は、dYdX Foundationとして、上記を念頭に入れて、生産性のある議論を推進できるようになりたいと考えている。そういう意味では、議論の結論を決める権限はなくとも、議長のように何が重要な議題なのかを推していくリーダーシップの役割は、特に黎明期において、重要になるのではないだろうか。

元dYdXトレーディング社の最高法務責任者であるマーク・ボイロン氏は、DAOに対するフラストレーションの源泉は、現時点では分散化できていない部分があってもしょうがないことに対する理解が進んでいないことだろうと指摘する。筆者も同感だ。ボイロン氏によると、どれか一つの個別具体的な活動が分散化の観点で問題になるのではなく、全ての活動を総合的に見て分散化が達成されているかどうかを見ることが大事だ。

(出典: Sufficient Decentralization: A Playbook for web3 Builders and Lawyer)

真ん中の点線部分が十分な分散化のラインだとして、それぞれの活動(Event)は分散化を推進もしくは後退させている。一つの活動が分散化を後退させても別のもう一つの活動で推進すれば良く、総合的にみて十分な分散化のラインを超えていればいいのだ。

過去の例でいえば、dYdXチェーンをローンチさせることとグラントチームへの不満を解消させること、どちらが大事な議題か。答えは、当然前者だろう。迷った時、確かに同氏の言うように、「どちらが分散化を加速させるのか」と考えると良いかもしれない。

dYdX Foundationは、誤解を恐れずにいえば、究極的には「いなくても良い存在」だ。何の権限もないdYdX Foundationが、仮に明日いなくなったとしても、dYdXは止まらない。しかし、上記で述べたように、現時点では調整役でありリーダーシップを担うことが大事だと考える。そして、その調整役を担えるのはdYdX Foundation以外いないのではないか?大変僭越ながら、そのように考えている。

3年後、コミュニティが安定し、リーダーシップを担う存在が複数名育ち、「dYdX FoundationがいなくなってもdYdXのDAOはうまく回っていきますよ」となったら、その時は良い意味でdYdX Foundationが解散する時なのかもしれない。

トレジャリーデータ

DeepDAOによると、2月5日時点でDAOトレジャリーの総額は292億ドルと前週から4.58%減少した。内訳は、流動性のある資産(Liquid)が249億ドル、権利が確定していない資産(Vesting)が43億ドルだった。
ガバナンストークン保有者は1000万人で、アクティブDAOユーザーは290万人だった。

著者:大木 悠 (Hisashi Oki)Head of Asia, dYdX Foundation
早大卒業後、欧州の大学院で政治哲学と経済哲学を学ぶ。その後、テレビ東京のニューヨーク支局に報道ディレクターとして勤務し、2016年の大統領選ではラストベルト・中間層の没落・NAFTAなどをテーマに特集企画を世に送り込んだ。2018年に日本に帰国し、コインテレグラフジャパンの編集長を務めた。2020年12月にクラーケンジャパンの広報責任者に就任。2022年6月よりdYdX FoundationのJapan Lead。2024年1月より現職。


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