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【2月第4週】DAOレポート Vol.7

イントロ

DAOの中には他のDAOと提携することでさらに価値を高めるDAOがある。今後、DAO同士の相性を見極めて相互の価値を最大化するガバナンスが重要視されるようになるかもしれない。

DAOガバナンスツールを提供するDeepDAOによると、現在1万を超えるDAOがある。自分達のプロトコルを改善し投票率を上げるといった内部での取り組みは当然重要だが、「D2D(DAO to DAO)」という外部DAOとの連携で成長機会を見出す動きが出てきている。DAOガバナンスの専門組織Flipside Governanceが、AaveとBalancerのDAO同士の連携について詳細を調査した

AaveはDeFiのレンディングサービスだ。流動性プールを使って流動性を提供した貸し手に手数料を渡し、借り手は瞬時に主要トークンを借りられることが特徴だ。Balancerは、複数資産のプールにおけるスワップ(交換)サービスを手掛ける。この2つのDeFiサービスは、それぞれ独自のDAOを持っており、それぞれフォーラムによる議論・投票によって今後のプロトコルの方針を決めている。

AaveとBalancerは相性が良い。例えば、Aaveのローンの担保してBalancer Pool Token(BPT)を使うことで、Aaveの流動性が高まりBalancerから手数料収入を追加で受け取れる仕組みができる。実際、AaveとBalancer双方のDAOで投票するアドレスの数は、右肩上がりで増加中だ。

(出典:Flipside Governance「AaveとBalancer双方に投票したウォレット数」)

先日Aaveはテストネットで独自ステーブルコインGHOを発行した。こちらもBalancerとの提携を通じて価値を最大化するための仕掛けが考えられているようだ。

今週のDAOニュース

【2月19日】パクソスのBUSD新規発行停止 AaveとMakerのDAOが対応

  •  米規制当局がステーブルコインを発行するパクソス社に対してバイナンスのステーブルコインBUSDの新規発行停止を命じたことを受けて、複数の老舗DeFiが対応に追われている。

  • 分散型レンディングプロトコルのAaveは、プロトコルが所有する約1100万ドルのBUSD流動性プールを凍結する案を、2月19日に賛成多数で可決した。

  • ​​一方、ステーブルコインDAIを発行する分散型プロトコルMakerは、今年1月にパクソスの他のステーブルコインUSDPをMakerに預け入れる提案があったが、1ヶ月以上が経過した現在も、正式なオンチェーン投票への移行を保留としている。

【2月22日】Uniswap、ERC20トークンでNFT購入可能に

  • 分散型取引所のUniswapは、全てのERC20トークンでNFTを購入可能とすることを発表した。

  • これまでNFT購入に必要なETHをウォレットに保有していない場合、USDCなどERC20トークンをイーサリアムにスワップしなければならず、ガス代を負担する必要があった。

  • Uniswapによると、次のリリースでは、複数の異なるトークンを合算してNFTを購入することが可能となる予定だ。

【2月22日】EUの反マネーロンダリングの新しい草案で、自己管理型ウォレットの禁止回避を議論

  • EUは、暗号資産におけるマネーロンダリングとテロ資金供与を防止するための草案を作成しており、MetamaskやLedgerなど自己管理型ウォレットを禁止しないものの、取引上限額が1000ユーロ(約14万円)の取引制限の対象とする案を発表した。

  • 以前の草案では、暗号資産ユーザーが自分のコインやトークンをウォレットに保管することを禁止する旨の議論がなされており、波紋を呼んていた。

  • 今回の草案に関する議論は3月28日まで継続され、今後も内容が変更される可能性があるという。

【2月23日】Huma Finance、未来の収入を担保にしたDeFi借入を構築へ

  • DeFiレンディングプロトコルHuma Financeが、未来の収入を担保に資金の借り入れを可能にするプロトコルの構築に向けて、830万ドル(約10億7900万円)の資金調達をした。

  • Humaでは、個人または企業が保有するトークンではなく、給与明細や請求書をもとにした将来の収入に対して暗号資産を借りることができる。

【2月23日】SushiSwap、Seiでのデリバティブ取引所ローンチは第2四半期

  • 暗号資産スワップサービスの分散型取引所SushiSwapを開発するSushiは、Cosmos(コスモス)基盤のブロックチェーン「Sei」で分散型のデリバティブ取引所「Vortex」を2023年第2四半期にリリースする計画を発表した。

  • Seiとは、コスモスチェーンを基盤とする、トレーディングおよび分散型取引所に特化したレイヤー1のブロックチェーンである。

【2月23日】a16z、Optimismのデリゲートに6つの大学生グループを選出

  • 米VCのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)は、イーサリアムのレイヤー2ソリューションを開発するOptimismのDAOのデリゲート先として6つの学生大学グループを選出した。

  • 選出基準は、専門性や経歴など9項目。合計デリゲート額は100万OP(約4億700万円)だ。

  • デリゲートの任期は6ヶ月であり、A16zは選出したデリゲートの投票に一切介入しないと公言している。

【2月23日】VeriLab、KYC(本人確認手続き)のDAOローンチを発表

  • Web3へ検証システムのソリューションを提供するVeriLabsは、現実世界とWeb3の規制の橋渡しを目指してkycDAOのローンチを発表した。

  • 同DAOは、ユーザーのアカウント情報と連携し、証明となる譲渡不可能なNFTを発行。NFTには、個人情報は含まれず、ユーザーに関する情報を明示せずに規制に準拠していることを証明することができる。

  • 元米国司法省の弁護士を戦略アドバイザーとして採用した。

注目のプロポーザル

①「Euler、エコシステム成長基金の管理者選出を提案」- [Grant Proposal 9] Delegated Domain Allocation by Questbook
提案 / 投票(2月26日投票終了)
要点

  • 暗号資産の貸し借りを可能にする分散型プロトコルEulerは、アプリを構築するチームへの資金調達のため、222万ドル(約2億8860万円)のエコシステム成長基金立ち上げを提案。

  • 基金への決定権限を有しコミュニティへの説明責任を担うドメインアロケーターと呼ばれる4名がコミュニティにより選出される。

  • 助成金プログラムは、質の高いビルダーの参加を促し、エコシステムをより迅速に成長させることを目的としている。

②「Gitcoin DAO、Gitcoinパスポートへの予算を要求」- [S17 Proposal] INTEGRATED Gitcoin Passport Budget Request
提案 / 投票(2月21日終了)
要点

  • オープンソース開発者の報酬獲得をサポートするプロトコルGitcoinのDAOは、Gitcoinパスポートの保有者および関連アプリを増やすため281,538GTC(約6400万円)の予算を提案し、可決された。

  • Gitcoinは、ツイッターなどのソーシャルメディアからの情報を集約して、信頼を証明するIDサービスGitcoinパスポートを提供している。一人が複数のアカウントを作成して身分を偽りネットワークやDAOに参加する「シビル攻撃」のリスク軽減につながると期待されている。

  • 予算は、開発費や貢献者への報酬および運営経費に当てられる。

③「Lido DAO、トレジャリー(基金)の提案のまとめ」- [SUMMARY] Treasury Proposals
提案 / 投票(未定)
要点

  • Lido DAOの財務を管轄する部門であるSteakhouseは、財務管理の「基本原則」について、以下の4項目の検討を呼びかけている。

  1. トレジャリーのETH(2万ETH以上)をステーキングするべきか否か

  2. トレジャリーのETHを売却すべきか否か

  3. 保有するステーブルコイン(DAI)を多様化する必要性の有無

  4. プロトコルの運営費の資金調達のために stETHを売却すべきか

  • 現状、今後数か月間の DAOの運営費用は130万ドル(約1億6900万円)から150万ドル(約1億9500万ドル)になると推定されており、トレジャリーが保有するDAIおよそ1700万ドル(約22億1000万円)だけで、約1年間の運用コストをカバーできる見込みだという。

④「Nouns、エアドロップの構造に関する投票」- Nouns Airdrop Design Vote
提案 / 投票(3月6日投票終了)
要点

  • 毎日NFTが自動的に生成されオークション形式で販売するNFTプロジェクトであるNounsのDAOは、毎日発行されるNFT以外に、NFTの新規発行を可能とする案「Nouns Airdrop」を提案した。

  • DAOがNounsへの貢献者に報酬を支払う場合に、トレジャリーのETHではなく、NounsのNFTを発行して使用することが目的だ。

  • 具体的なNFT発行とエアドロップの仕組みとして、該当者に直接NFTのミント権を付与する案や毎日生成されるNFTを予約して該当者へ付与する案などが議論されている。

⑤「Cosmos Hub、ラムダにアップグレードを提案」- V9 Lambda upgrade (with Replicated Security)
提案 / 投票(3月7日投票終了)
要点

  • コスモスのハブとなるブロックチェーンでATOMトークンを発行するCosmos HubのDAOは、「Replicated Security」と呼ばれる新機能を使用して、セキュリティシステムのアップグレード「ラムダ」を行うことを提案した。

  • ラムダによってCosmos上の他のブロックチェーン(コンシューマーチェーンと呼ばれる)は、独自バリデーターを管理・維持しなくてもCosmos Hubのセキュリティに守られることになる。

  • コンシューマーチェーンはCosmos Hubのバリデーターとデリゲーターに対して、手数料などを送ることが予定されている。

話題のTweet

「ガバナンスは、絶対に障壁であるべき。悪い決断に対しての障壁。」

DAO関連データ振り返り

トレジャリー総額

今週のトレジャリー総額134億ドルの内訳は、​​流動性のある資産は103億ドル(Liquid)、権利が確定していない資産は28億ドル(Vesting)だ。前週比で、4.68%増加した。

アクティブDAOユーザー数は、前週と同数の180万人。ガバナンストークン保有者数は、640万人となり前週比で1.58%増加した。

オススメの読み物

①「DAOの成熟度を測るという問題」The Problem of Measuring DAO Maturity
DAOの分散化の程度を測ることは至難の業だ。完全な分散化こそブロックチェーンの精神でありDAOの本義だが、それを達成したDAOは今のところない。そこで目標として掲げられているのが「漸進的な分散化(Progressive Decentralization)」だが、あるDAOが分散化をどこまで進めたかをどうやって測るか答えが出ていない。全てのDAOの分散化の程度を測るための基準作りをすることが、仮想通貨業界にとって重要な課題となっている。DAOガバナンス専門組織Stablelab執筆

② 「DAO同士の提携関係を分析」Analysis of A DAO to DAO Partnership
D2D(DAO to DAO)という、DAO同士が連携して成長機会を見出す動きが出てきている。例えば、AaveとBalancerは相性が良い。Aaveのローンの担保してBalancer Pool Token(BPT)を使うことで、Aaveの流動性が高まりBalancerから手数料収入を追加で受け取れる仕組みがすでに存在している。AaveとBalancerという二つのDAOに投票するウォレットの数は増えており、DAOガバナンス参加者の間でも提携関係が意識されている。現在Aaveが開発中のステーブルコインであるGHOに関しても、Balancerとの連携を通じて価値を最大化する取り組みが模索されているという。DAOガバナンスの専門組織Flipside Governanceが執筆。

③ 「DAO年次報告書 DAOとトレジャリーの現状」DAO Annual Report|DAO Landscape and Treasury Dive in
DAOの成長に関するデータを網羅的に調査した。2021年はNFTの年と見られることが多いが、実はDAOの年でもあった。DAOのトレジャリー総額のピークは2021年中頃につけた350億ドルだ。2023年1月には124億ドルまで下がった。82%のDAOのトレジャリーがDeFi系であり、NFT系やゲーム系は20%に満たない。そして、DeFi系DAOのトレジャリーの90%を占めているのがUniswapやBitDAO、Gnosis、Lidoなど大手20ほどのDAOだ。多くのDAOでトレジャリーに占める独自トークンの割合は大きく、例えばBitDA Oは76.9%がBITトークン。同様に、NFT系のDAOでトップ15のDAOが95%以上のトレジャリーを占めている。DAOアグリゲーターのThePassが執筆。

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