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映画『ギャングース』公開初日にむけ

2019年11月23日。拙著『家のない少年たち・ギャングースファイル(文庫タイトル)』を原案にし、原作を勤めた漫画『ギャングース』の実写映画劇場公開が、あと数時間後に迫っています。

去来する最後の思いを少し書かせて下さい。

試写会の舞台挨拶で入江悠監督が「戦いだった」とこぼした映画版の制作と同様に、漫画ギャングースの連載も、また毎週が戦いでした。ルポライター、つまりノンフィクション畑の僕には、実在する少年らをモデルにしたこの物語に、「安易な救い」を描くことは、返って当事者にとって残酷だという思いが強くありました。

育った家庭からも社会からも阻害された彼らの抱えた傷は、そんな簡単に癒えるものではなく、強くありたいと願っても、心から噴き出す不安や苦しさや空しさや哀しさや、居場所のなさや、寂しさをコントロールできず、そんな自分の弱さに日々苛まれつつ生きている。それが不良少年のほんとうの姿に思います。

このnoteで前回「依存について」を軽く触れましたが、そもそも不良と言われる人々が、社会的には「加害者=弱きから奪う強き者」とされる不良の彼らが、薬物に手を染めて自滅することがあるのは、どうしてでしょう。端的にそれは、そうせざるを得ない程に堪え難く苦しい夜が彼らにはあったからだと思うのです。

ギャングースにて登場する詐欺店舗の番頭格「加藤」(金子ノブアキさん演)のモデルになった子は、言わば不良のエリートですが、たかが取材記者である僕に、意味もなく夜中に連絡してきて、やったこともない夜釣りに連れて行って欲しいと誘ってきたり、旅先で買った数百円のお守りを東北にいる友人にあげたいといって、やっぱり夜中に何万円もかけてタクシーで友人の元に飛ぶなんてことをよくやっていました。

お守りを渡した友達と、明け方のコンビニの駐車場で缶ビールで乾杯した話をメチャ楽しそうに語る彼にとって、その夜はきっとひとりでは耐えられない寂しさがあったんだろうと思います。
けれど、そうして仲間という関係性に依存してもなお、根本的な心の傷は癒えず、苦しみが続く。

漫画原作者としての僕は、そうした彼らの苦しみを最後まできちんと描ききり、安易に「仲間で救われた、仲間がいれば俺は大丈夫」といったレベルの救いで救済されては、救われない本人たちにとって残酷だと主張し続けました。
一方で漫画を担当した肥谷さんは、明るく救いのある物語を描きたいという、骨太な信念を持つ男。僕が毎週提出するシナリオに、微細に渡って救われなさや苦しさを込めまくって彼に手渡すと、必ずそこに救いの何かや、読者を登場人物の闇に飲み込まないための「抜け」としてのギャグを絡めたりしてきて……。
拘泥する原作者と折れない漫画家と、その間で魂を削る担当編集という、ほんとうに毎週が戦争だったように思います。

打ち合わせの途中で僕がぶち切れてテーブルを叩いて消え去ったこともあったし、肥谷さんが原作とは全然違う解釈で描いてきたものを黙って譲らない場面もあった。

ほんとうに、最後の最後まで、彼らの苦しさをきちんと描いて欲しいと言い続ける、少々パワハラ原作者な僕と、どれほど言おうと自らの創作の根幹である「希望を描く」の旗を折らずに主人公カズキの笑顔を描き続けた肥谷さん。
連載中に僕の脳梗塞により「作者急病ににつき休載」を挟んでなお16巻に渡った連載を最後まで成し遂げられたのは、いま思うとほんとう奇跡だったなと思わざるを得ません。

肥谷さんが描く希望が織り交ぜられていなかったら、漫画ギャングースは僕の発信するネガ展開の連続に多くの読者が脱落して屍累々みたいなことになっていたでしょう。
逆に原作の僕が折れてエンタメに日和ったら、僕は僕であることができないし、肥谷さん以外の漫画家さんだったらまあ、4巻ぐらいで漫画家さん逃亡!なんてことになってかもしれんと思わなくもないです。

けれど劇場版公開を直前にして思うのは、あの僕と肥谷さんの戦いを、映画の制作に携わった人たちが継続してくれたことへの感謝です。

エンタメのパッケージである映画では、明確な王道があると思います。勧善懲悪、だけどそこに絡むちょっと複雑な背景、みたいな王道。けれども入江監督は敢えてこの王道バランスを踏み外して、視聴者が脱落するかもしれない可能性も敢えて呑み込んで「ちょっとじゃないクソ複雑な背景」までどっぷり首までドブ漬かりしてくれました。

映画ギャングースのクライマックス、「敵」として描かれる詐欺店舗番頭加藤と金主安達(MIYAVIさん熱演)の掛け合いには、漫画の根底に込め続けた僕の呪い(願い)が、滲み出ています。そしてラストシーンには、僕が感じていた彼らの唯一の救い=仲間と、肥谷さんが折れることなく描き続けた雑草の笑みが溢れています。

完全に入江作品になりつつも、伝えたかった色々がきちんと伝わりきった。そう思える映画化に、そして僕と肥谷さんの戦いを、改めて別のステージで継続してくれた入江監督、入江組、主演助演の皆様に、改めて胸が熱くなります。

ぜひ、劇場へ足をお運び下さればと思います。

で、原案本の『ギャングースファイル』。漫画ギャングースの原案としてはこの一冊と、詐欺店舗のディテールは後の取材を含めてまとめた『奪取・振り込め詐欺十年史』という本をベースにしましたが、この原案本が映画化の帯を纏ってちょっと増刷です。
非常に荒削りですが、熱量だけは既刊の拙著の中でもピカイチの一冊。これを機会にお手に取って下さる人が増えたら嬉しい限りです。
書店で目にするのはミヤマクワガタぐらい難しいので、注文かAmazonなどでどうぞ〜〜〜。


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