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ズレ


「すげぇ、広い家だな。ひとりで住んでんの?」

「むかしはね。家族がいたんだけど。いまは、ひとり」


家に入ると、電気もついていない。

めがねちゃんのこと、そんなによくしらないけど

なんだか、似たような気持ちを抱いている気がした。


広いリビングを通ると、キッチンがある。

ごく普通の、一軒家なのにぬくもりが全くない。

ただ、ここに住まわされているような優等生。


きっと、玄関先にある小物たちが

唯一の、めがねちゃんらしさなんだろう。


あまり、人の家にあがったことがない。

というか初めてかもしれない。

けどアタシの家とは全然違う。生活感がない。

唯一、この猫のごはんだけが床に置いてあった。


猫がひょいとソファにのぼった。

めがねちゃんが、その隣に座り

アタシは、床にあぐらをかいて座った。


「この世界に今生きている人たちは、色を知らない。見たことがない。でも、ほんの昔まで世界に色はあったんだ。ぼくはしっている。花の色も海の色もミルクの色だってこんなじゃない。でもぼくももう見えない。世界は灰色だ。希望がないまま、ごまかして生きている。その日暮らしで生きている。」


その日暮らしで生きている。

猫はそういうもんだろう。と思ったけど、きっと猫じゃないんだ。こいつ。しゃべってるし。


「私に、色が取り戻せるの?」

めがねちゃんの目が本気だった。


この子は、一体なににここまで突き動かされて真面目なんだろう

いや、真面目って言葉のチョイスが悪いな

いつだって真剣なんだ。


「ユミ。きみは選ばれたんだ。だから、ぼくはここにきたんだ。」


「ちょっと待ってよ。なんで、じゃあアタシが今この大事な世界の会議にお呼ばれしてるわけ?アタシはごく普通な女子高生なんだけど」


とりあえず、テンプレートなこと言って見る。

だって、みんな本気だから、困っちゃうじゃん。

アタシも本気ださないといけなくなっちゃうじゃん。


「まぁぼくのこと見られちゃったし…。」


「えっ」


アタシは、この夢の中で

めがねちゃんと一緒になんかと戦って

猫が巨大に変身したりなんかして

悪いやつを倒して、世界に色を取り戻したりなんかしていく

漫画のような展開を希望していたのに…。

現実は、ほんとについてない。甘くない。

アタシの脚本通りにいかない。

台本は用意されているのに。


脚本通りに、場合によって言葉をだしたり動けば

スムーズだ。

ただ、今回はアタシじゃないやつが監督か


「一緒に、戦おう。」







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